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2020年5月15日無料公開記事

【物流BCP特集】 災害・混雑・コロナ禍――高まる重要性

ドライバー不足を受けて鉄道輸送の役割も高まっている

東京港・大井ふ頭

 近年相次ぐ自然災害や、貨物増加とドレージ不足に伴う港湾混雑、東京五輪・パラリンピックへの対応、そして足元では新型コロナウイルス問題。サプライチェーンの寸断や遅延を防ぐため、物流における事業継続計画(BCP)の重要性が高まっている。緊急事態はいつ、どこで起こるか分からない。有事に備え、荷主も物流ルートの分散化などを図る動きが出ており、港湾・物流事業者はこうしたニーズに呼応する形で、新たな物流サービスの提案や港湾物流の円滑化策を加速している。一連の物流危機は物流BCPを再考するきっかけとなる。
■港湾物流円滑化へ取り組み加速

 「社会インフラとして国民生活や経済を支えるため、港湾機能は止める訳にはいかない。影響が出たとしても最小限に抑えなければならない」と、港湾関係者は口をそろえて強調する。近年の台風被害や震災、そして新型コロナの問題は、港湾におけるBCPの課題を浮き彫りにした。

 相次ぐ自然災害で港湾施設が被災し、機能が一部停止したことを受け、ハード面では港湾施設の補強や護岸・アクセス道路の嵩上げなどが急ピッチで進む。ソフト面では自然災害に備えて、事前予防を踏まえた港湾BCPの見直しが図られる。新型コロナのような感染症対策についても今後、移動などあらゆる点で制限がかかる中での事業継続策や感染者発生時の対応策などを改めて再検討・再確認していく必要がある。

 また近年は、主要港における港湾周辺の交通混雑が円滑な物流確保に向けて大きな課題となっている。混雑により貨物引き取りが滞り、港湾機能が低下することで、輸送遅延など悪影響を及ぼす事例も出ている。

 国内最大のコンテナ港湾である東京港では、交通混雑の解消が長年の課題だ。2014年に策定した「東京港総合渋滞対策」に基づき対策を加速しており、具体的には早朝ゲートオープンやバンプールの整備、違法駐車対策などを実施。今後は中央防波堤外側コンテナターミナルの稼働を契機とした既存ふ頭の再編・機能強化を通じて混雑解消を狙う。来年に延期となったオリパラ対策では、深夜を含むゲートオープン時間の拡大や24時間利用可能なストックヤードの設置、搬出入の事前予約制などを含め、再検討を進めている。

 一方で、首都圏港湾の混雑を回避したいニーズを捉える動きもある。阪神港では、阪神-中国間の国際フェリーと阪神-東京間の鉄道輸送を組み合わせることで東京港揚げを回避し、混雑の影響を防ぐ取り組みが始まっている。加えて、足元では大阪-釜山間のフェリーと韓中フェリーを組み合わせた複合一貫輸送により、新型コロナ問題でスペースが逼迫する航空輸送の代替として中国向けの急送輸送に対応する動きも出ている。博多港では今年度も、他港からの切り替えで博多港を活用した物流改善を図る事業に最大100万円を補助する制度を継続する予定だ。福岡市の髙島宗一郎市長は「BCPの観点から博多港を是非利用してほしい」と強調する。

 日本の特徴として、港湾からの貨物輸送の多くがトレーラーで行われていることも交通混雑の一因だ。ドライバーの高齢化に伴う将来的な輸送車両不足が懸念されることも踏まえ、欧米諸国のようにバージや鉄道の活用を考えるべきだという意見も上がる。神奈川臨海鉄道は、横浜港背後の横浜本牧駅と川崎港背後の川崎貨物駅をハブに、自社路線とJR貨物のネットワークを組み合わせた全国各地への鉄道輸送を手掛ける。「車両確保が難しくなる中、鉄道輸送という手段もあることを知ってもらいたい」(下村直専務取締役)とアピールする。

■新型コロナで一層脚光

 フォワーダー・NVOCC・海上混載各社は昨年来、BCP対応ソリューションの販売を進めている。輸入貨物の集中する首都圏港湾でなく、阪神や博多のほか、名古屋などの各港で揚げ、鉄道に加えて内航船に接続するなどの首都圏直航を回避する代替サービスだ。

 大森廻漕店は日中間で、関西発着フェリー&レール輸送の事業化を進めている。東京港の代替として阪神港で揚げ、国内鉄道をつなぐ。私有12フィート鉄道コンテナを活用することで、港到着後にデバンニングせずにそのまま輸送できる。既に神戸港発着でトライアルを成功した。

 新型コロナの感染拡大に伴って、中国では航空旅客便の大幅減便・運休が続いており、旅客便ベリースペースが大きく減っている。フェリーに加えてコンテナ船でも、近距離の日中航路は船足が比較的早く、現在はこのBCPとして航空からの海上シフトの動きがある。特に、コンテナ船社の「ホットデリバリーサービス(HDS)」の需要が高まっているとの声がある。「マスクの輸入で(HDSによる)輸送実績が急増している」(NVOCC関係者)という。

 また近年では、荷主のLCL(混載)利用が多様化しており、大ロットの一括輸送から小分けするような動きもあり、各事業者はサービスの充実に努めている。

 荷主のBCPに対する意識は過去と大きく変わった。ある大手荷主は近年、年1回のフォワーダー入札のプレゼンテーション項目にBCP対応を追加し、評価ポイントの一つとした。自社とフォワーダーが従来やり取りする部署同士でなく、別の地域の拠点で指示してスムーズに手配できるか、トレーニングも行っている。別の大手荷主は、台風対策として一定時期に他ルートの輸送の定常化などを図っている。

 新型コロナの感染拡大による緊急事態宣言が発出される中、荷主の物流に対する理解、港湾・物流事業者への協力体制は広がってきている。コロナ禍の世界でBCPが一層重要となり、物流サービスで脚光を浴びる分野となることは間違いない。どんな有事でもサプライチェーンを維持すべく、港湾・物流事業者は奮闘を続けながら、今後もさまざまな取り組みを進めていくだろう。

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■大森廻漕店
日中間で鉄道・フェリーの一貫輸送

 大森廻漕店は私有12フィート鉄道コンテナを利用した、鉄道とフェリーで日中間の輸送を行う、関西発着フェリー&レール輸送の事業化を進めている。私有鉄道コンテナの利用で、首都圏港湾の混雑回避や国内でのドライバー不足への対応を図り、BCP対策としての利用促進につなげる。

 昨年11~12月にかけて神戸港発着のトライアルを実施し、輸出入の双方で試験を成功裏に終えた。鉄道とフェリーをつなぎ、コンテナをそのまま輸送する。フェリー輸送は、日中国際フェリーの新鑑真号を利用した。鉄道コンテナを利用した日中間の海上輸送は、下関でのサービスはあるが、神戸、大阪ではなかった。大森廻漕店は税関など関係者と協議し、オペレーション体制の構築を進めた。現在、神戸港に加えて、同様スキームの大阪港発着のサービス開発にも取り組んでいる。

 フェリーと鉄道の定時性も大きな売りとなる。私有鉄道コンテナの利用で、港到着からデバンせずに輸送できるため、リードタイムの短縮も可能。トライアル終了後、アパレルや雑貨などの引き合いが出てきているという。特に輸入での需要があり、輸出荷主の開拓も進めていきたいとの意向だ。加藤千明国際本部副本部長は「輸入トライアルでは東北にある荷主のセンターまで輸送し、リードタイムも2日程度短縮できた。東京以東や東北、北関東などの貨物の場合、関西で揚げてトラックするよりもコスト面でのメリットも出てくる」と、リードタイム、料金面での優位性もあると話す。

 来年夏に延期された東京五輪で予想される東京港の混雑対策や、モーダルシフトでの環境負荷軽減としての活用もねらいだ。CO2削減について、同社の試算では、上海から首都圏までコンテナ船とトラックを組み合わせて輸送する場合と比べて、約50%の削減効果が期待できるという。

 事業化の次のステップとして、フェリーに加えてコンテナ船でも12フィートコンテナを利用した同様のサービスができないかも検討していく。「船社とタイアップして、サービス拡充に取り組んでいきたい」(加藤副本部長)としている。
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