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2020年7月20日無料公開記事

#コロナに負けない 夏季特集2020

 新型コロナウイルスの影響で、国際輸送市場は一変した。2020年上半期のコロナ影響、物流企業の対策を振り返る。
~トップメッセージ~

■航空貨物運送協会(JAFA) 鳥居伸年会長
航空貨物業界の社会的役割果たす

 新型コロナウイルス感染症は(1)航空旅客便の大幅な減便(2)各国での経済活動停滞――の両面で経営環境に大きなインパクトを与えています。わが国では通常、重量ベースで国際航空貨物の63~64%が(「平成30年度 国際航空貨物動態調査報告書(国土交通省航空局)」)、また、国内航空貨物のほとんどを旅客機のベリーを利用して輸送しています。それが、最近では国際・国内とも旅客便が大幅な減便を余儀なくされております。

 各航空会社とも貨物チャーター便の手配や、旅客機キャビン部を転用した貨物輸送の実施など、御対応いただいています。ただ、大きな制約はあり、当会の会員各社は貨物スペースの確保や、運賃水準の変動に日々対応を迫られてきました。また、各国・地域で工場での生産活動の停止、流通・配送の困難や遅延の問題が業務の実施に影響を与えています。景気低迷による需要減に伴い、当会がまとめた今年5月の貨物輸送重量は輸出が38%、輸入が29%、国内が45%それぞれマイナスでした。

 こうした状況だからこそ、航空貨物業界には「エッセンシャルワーク」として、果たすべき社会的役割に向き合い、業務継続を図っていくことが求められています。顧客のサプライチェーンが途切れることがないよう、最大限の努力が必要です。医療現場などでの緊急調達また、メーカーなどのイレギュラーな必要に応える部品輸送は、高品質で信頼性の高い航空物流システムが担うべき大きな役割です。

 今回の事態を機に、中長期スパンでも荷主企業におけるサプライチェーンの見直しと再構築、消費者向けeコマース(EC)の成長などが進展していくことが想定されます。次の時代への備えを着実に進めていくことが必要と考えます。フォワーダーの海外駐在員や現地法人の従業員の安全確保には平時以上に留意を要します。顧客の経済活動の回復を支援していくために、これからが正念場と考えている次第です。

■国際フレイトフォワーダーズ協会(JIFFA) 渡邊淳一郎会長
変わる土俵、コロナ危機を奇貨に

 新型コロナ禍で先行きの不透明な中で、日々奮闘されている物流業界の皆さま、本当にご苦労さまです。

 昨年の今ごろ、私たちは東京五輪・パラリンピックを目前に、円滑な大会運営と首都圏を中心とする企業活動の両立を図るため、多くの課題に真剣に取り組んでいました。いまやスポーツの祭典は1年延期され、奇しくも同じように感染病の拡大阻止と、人々の生活の基本インフラである物流確保の双方を果たすため、必死の取り組みをしています。私たち物流業者が“essential worker”と呼ばれる理由であり、私たちが手配した大切な貨物は、この未曾有の事態の中でも、国内・海外を途切れることなく輸送されています。物流の現場には、リモートワークになじまない仕事も多く、ウイルスとの戦いは予断を許しません。緊張感の中、安全第一で職責を果たしていただいている皆さまに深く敬意を表します。

 一方で、新型コロナはビジネスの世界に大きな変化をもたらしました。土俵が変わったと言える事象であり、チャンス到来です。仕事の進め方では、これまで、ややスローであったオフィスのデジタル化が、必要に迫られて一気に加速しました。自社内の会議にとどまらず、顧客との打ち合わせでも、オンラインでのサービス提供が普及しているそうです。貿易書類の電子化、効率化のため、物流業者と荷主、金融機関との連携がさらに進むでしょう。JIFFAでもe-ラーニングによる研修が間もなくスタートし、全国の会員の皆さまに簡単にご参加いただけるようになります。顧客にとっての物流選択肢が拡大し、私たちにとってもさまざまな新しいビジネスモデルが生まれるものと期待されます。

 このコロナ危機を奇貨として、変化をチャンスに物流の新たな価値を創出し、“ essential to economic recovery ” の役割を果たしていこうではありませんか。

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【ロジスティクス】
 
航空運賃高騰、リーマン並みの荷動きに

 新型コロナウイルスの影響で、国際輸送市場は一変した。特に航空貨物の影響は大きく、世界各地での渡航制限や旅客需要の減退で旅客便の貨物スペースは大きく減少した。供給不足から運賃は前例のないレベルに高騰し、生産活動が減退したこともあって輸送量はリーマン・ショック後に並ぶ水準に落ち込んでいる。業務・オペレーション面でも、感染リスクへの対応、政府の要請によりオフィスへの出社を控える必要が生じた。フォワーダー各社は在宅勤務の推進などを急速に進めていた。2020年上半期のコロナ影響、物流企業の対策を振り返る。

■中国路線でスペース縮小

 コロナ影響が顕在化したのは1月後半。2月には主要航空会社が日中線の旅客便を運休・減便した。海上輸送でも港湾荷役に遅延が生じたり、船会社が中国寄港を一部回避するなどの動きもあった。フォワーダーも武漢をはじめ、中国主要拠点の営業を一時停止したり、駐在員を避難的に帰国させるなどの措置を取った。

 供給が縮小する一方、中国向けでマスクなどの医療物資の輸送需要は急増した。日本側では貨物が滞留し、日本郵便などが航空貨物チャーターを実施していた。アジアや欧米発も同じで、大手フォワーダーはチャーターや貨物便による輸送スペースの確保に動く必要があった。日系フォワーダーでは日本通運がシンガポールをハブに、上海向けのフォワーダーチャーターを行った。

 ただ、3月半ばまでは在宅勤務を導入する企業も少なく、物流への影響も中国発着に限定されたものという認識が多かったようだ。2月の日本発航空輸出混載重量は、前年同月比14%減の7万3833トンで、中国向けはプラスだった。19年は1年を通じて需要が減退しており、毎月2~3割の減少が続いていたため、中国での生産停止などの影響を考慮すればそう悪くないと捉える物流関係者は多かった。

■欧米ロックダウンで市況一変

 状況が大きく変わったのは欧米にも感染が広がり、各地でロックダウン(都市封鎖)が実施された3月中旬だ。航空会社が旅客便の運航を休止・減便したことでスペースは大きく縮小した。大西洋路線は特に旅客便の依存度が高いレーンで、スポット運賃は一部10倍以上の価格もでるなど異例の水準にまで高騰した。

 混乱が生じているのは航空貨物だけではなかった。EUでは域内でも検査・検疫など国境での取り締まりを強めるなどし、国境でのトラック遅延が多発した。中国で当初影響が出た際も同様だったが、水際まで輸送できても国内輸送が困難で配送できないという状況もあった。フォワーダーも時間指定到着のサービス休止や確約できない
ことを通知するなど対応した。DHLグローバルフォワーディングとシーバロジスティクスは、契約義務の免除を求めるフォース・マジュール(不可抗力条項)を宣言するという事態に至った。

 ロックダウンの動きは欧米から世界各地に広がり、国や地域によって経済活動にも厳しい制限を課しているところもあった。インドでは生活必需品や医療医薬関連品など輸送可能な品目も制限されるなど、物流でも事業活動が制限されるところもあった。

 この時期からは運賃高騰もそうだが、とにかくスペースが確保し難い状況となる。フォワーダーはサプライチェーン(SC)維持のため、中国発着だけでなく欧米路線を中心にグローバルで航空機のフォワーダーチャーターを拡大した。欧州系ではメガフォワーダー以外にジオディスやボロレ・ロジスティクスなども定期輸送サービスを提供している。また、航空運賃の高騰もあって、中国・欧州間の大陸横断鉄道の活用も進んだ。

■日本発も運賃高騰、荷動き減速

 日本も航空貨物スペースが大きく縮小し、荷動きに影響が出てきた。3月の航空輸出混載重量は6万9320トンで、年度末にもかかわらず、例年需要が落ち込む2月の実績よりも低い数字となった。さらに4月は5万4171トン、5月は4万7487トンと月を追うごとに物量が減少。5月はリーマン・ショック後の最悪期(09年1、2月)に迫る歴史的な低水準となっている。

 荷動きが減速したのは運賃が高騰した要因が大きい。4月から5月半ばまでのスポット運賃はTC1、2向けで通常の3~5倍、TC3向けが2~4倍程度に上昇した。世界各地での経済活動停滞で航空輸送の需要は減退しているものの、マスクや防護具、検査キットなどの医療医薬物資、また半導体関連などの需要はあり、スペースが枯渇したためだ。現在はいくらか需給は緩んできているものの、欧米向けの長距離路線と貨物便の運航が少ない東南アジア・南アジア向けはスペース不足が深刻となっている。

 一方、東アジア向けは欧米や他のアジア向けとは異なる市況となった。中国の経済活動復調や、半導体関連や電子部品、eコマース(EC)の底堅い需要に支えられて、荷動きも比較的堅調。スペースも他の方面に比べれば逼迫していなかったことから、4~5月の運賃水準は他の方面に比べて低かったが、荷動きが回復してきている現在は上昇傾向にある。

 運賃の高騰は輸入にも大きな影響を与えた。特に生鮮品は運賃負担力が低く、物量が大きく落ち込んでいる。ホテルや外食の休業により卸売市場で高値がつかず、そもそも低い運賃負担力がさらに低下していたということもある。アメリカンチェリーなど、産地での労働力確保といった課題もあったようだ。

■自動車弱く、物量落ち込み続く

 マスクなど保護具の需要は5月終盤ごろには一巡し、航空輸送の活用は落ち着いてきた。ただし、需給に緩みが生じ、世界各地で経済活動が再開されているにもかかわらず、需要回復の動きは鈍い。特に航空貨物の主力品目である自動車関連の需要が弱い。生産の再開に備えて海上輸送で部品を輸送し、現地での在庫を積み増しする動きもあったという。フォワーダーは、7月に入っても自動車関連の回復の動きは遅いと口をそろえる。

 需要が戻らない一方、旅客便は若干復便している。世界各地のロックダウンが本格化していた時期には、旅客機からの転用を含め貨物機をチャーターして輸送スペースを確保するフォワーダーも多かったが、そうした動きも弱まっているようだ。大手フォワーダーはこれまで、スペース確保に加えて、コストメリットの面でもチャーターを多用していた。運賃の高騰で1機用機した方が安いという状況だったが、運賃が落ち着いてきたことでチャーターの需要も低下しているようだ。

■リモート対応で「物流止めない」

 感染拡大はフォワーダーの事業活動やオペレーションにも大きな影響を与えている。日本では4月7日に発令された政府の緊急事態宣言や各自治体からの外出自粛要請、従業員の安全確保の面から、フォワーダーは出社体制などのオペレーション見直しを迫られた。各社は感染防止対策の徹底に加え、在宅/リモート勤務を導入・拡大。外出自粛要請や「密」の回避など事業に課題が生じたが、顧客のSCや物流を止めないよう、リモートでオペレーションできる体制の構築に尽力した。

 大手フォワーダーでは、日本通運は東京本社組織の従業員を対象に「原則テレワーク」を指示し、部署単位で出社率30%を目安とした。他の会社でも本社機能、管理部門などで通常から3~7割減の出社率を目指して、可能な限り出社しないと取り決めて感染防止に取り組んでいる。

 テレワークの拡大においては、多くの会社がノートPCの貸与やVPNの端末を増やすなどして社内システムにアクセスできるようにしてオペレーションの維持を図ったほか、コミュニケーションの円滑化としてビデオ会議やチャットなどのツールを利用した。日系物流企業ではこれらコミュニケーションツールの利用は限定的だったが、4月以降に急速に進んだようだ。

 他の感染防止策としては、ペアを決めた交互出社、時差出勤やフレックス制度の柔軟な運用、マイカー通勤の適用緩和など、出社に関する規程を変更・一時緩和するなどして対応したところも多い。また、会社によって拠点の分散、事務所での仕切り板の設置など各種の衛生対策を行っている。

■新しい日常で働き方変わるか

 在宅勤務対応はこれまで、働き方改革やBCPの一環として検討する企業はあったが、紙ベースの業務も多いことなどから本格的に運用されてこなかった。一部、通関士の在宅勤務制度を導入していたところはあったが数社にとどまっていた。

 今回、営業や管理部門などのリモート勤務はスムーズに導入できたというところは多かったが、紙ベースでの業務となる通関や海運の輸出入業務では在宅勤務が難しい領域もあった。スペース不足で顧客や関連部署とのやり取りが増加したカスタマーサービス部門も出社が必要だったというところが多い。決算業務の集中期でもあったため、経理・会計部門で在宅勤務が困難だったところも多かった。

 ただ、通関に関しては、財務省関税局への通関士の在宅勤務開始にかかる申請数が、緊急事態宣言の発令を機に大きく拡大している。同局は、本来通関業務を行わない事務所などサテライトオフィスでの通関業務の実施も一時的措置として認めたことで、以前は申請者数約20人だったのが、7月8日時点では4000人に大幅に増加した。

 政府の緊急事態宣言の解除以降も、現在まで在宅勤務の推奨を継続しているところも多い。従来、育児や介護など特殊事情のみ対象だった在宅勤務の対象を緩和するなど制度を改めたところや、これを機にテレワークを含めた新たな働き方を検証しようというところもでてきた。

 業務プロセスで、ペーパーレス化や稟議書などのワークフロー見直しなどを図るところや、改めて単純作業でのAIやRPAを検討するところもある。また、シェアオフィスの活用や固定電話を削減してフリーアドレス化させることなども検討されているようだ。コロナ対応での業務見直しは、「新しい日常」でのフォワーダーの働き方に大きく影響している。
 
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【航空】

航空会社の売上半減、赤字化で試練の年に

 新型コロナウイルス感染症拡大により、航空産業が未曽有の危機に直面している。国際航空運送協会(IATA)は6月、世界の航空会社の業績予測を前回(2019年12月)から大きく下方修正。20年の売上高は前年比50.0%減の4190億ドル(約44兆8330億円、107円換算。前回予測は4.0%増の8720億ドル<93兆3040億円>)、最終段階では843億ドルの赤字(9兆201億円。同293億ドルの黒字)となる見通しを示した(表参照)。

 新型コロナ感染拡大防止のための渡航制限が世界に拡大し、今年3月下旬には、市場のほとんどの国際線旅客便が運航停止した。IATAが提供する、各国による新型コロナの渡航規制をリアルタイムに表示する世界マップを見ると、7月上旬時点でもなお、世界中のほとんどの国が、新型コロナによる渡航制限を行っていることを示す青色で塗られている(図参照)。

 旅客売上高は今年通期で、19年比約6割減の2410億ドル(前回予測は5810億ドル)に減少する見通し。一方で、貨物は8%増の1108億ドル(同1012億ドル)に増加する予測だ。従来、世界的に貨物輸送スペースの約55%を旅客便が占めていた。ベリースペースの減少により貨物輸送量は前年比16.8%減の5100万トン(同6240万トン)となる一方で、貨物イールドは前年のマイナス成長から一転し30%のプラスへと改善する見通しだ。

 貨物輸送量、供給量およびロードファクターの推移を見てみると、20年半ばの貨物量(貨物トンキロ=CTK)は19年を基準とするとおよそ7割の規模まで減少している(グラフ1参照)。供給量(有効貨物トンキロ=ACTK)がそれ以上の速度で減少していることもあり、貨物LFは今春から急激に改善している。

■貨物需要は21年にV字回復へ

 市場はいつ元の姿を取り戻すのか。IATAは、21年ごろには貨物需要はほぼ19年並みに回復し、旅客需要は19年より3割減の水準となる見通しを示している(グラフ2参照)。旅客需要がコロナ以前まで回復するのに数年かかるだろうという見方は強い。欧州大手航空機メーカーのエアバスは、「23年以前の回復は考えにくい。遅ければ25年ごろになるだろう」とする。長期戦を覚悟した事業戦略が求められそうだ。

日本発総量、上期16%減の152万トン
旅客便運休、需要低迷で2013年水準

 
 新型コロナウイルスの影響で国際航空貨物の輸送手段が限られ、世界的な経済活動の停滞から輸送需要も低迷した2020年。上期(1~6月)の全国空港の総取扱量は、積み込みが約67万トン、取り降ろしが約85万トンの計152万トンで、前年から16%程度の前年割れとなったもようだ。全国空港の総取扱量は18年には半期で200万トンを取り扱っていたが、今年は昨年に引き続き重量水準が低下。半期ベースの取扱量が160万トンを割り込むのは13年上期(約144万トン)以来だ。足元でも、新型コロナの完全収束や国際線旅客便の大幅な復便の見通しは立っておらず、下期も厳しい取扱量が予想される。

 グラフは全国空港の国際貨物取扱量を積み込み、取り降ろしに分けて半期・通年ベースで示したもの。20年上期実績は財務省関税局発表の1~5月の全国実績と、6月の主要6空港の実績(一部予想)を元に見込みを示した。表には空港別の実績を示したが、成田・羽田の数値は東京税関発表の1~5月実績に、本紙が各空港の上屋実績などから6月実績を予想して加えている。このため、6空港計と全国空港計も本紙予想となり、20日以降に発表される東京税関と関税局の発表とは数値が異なる。

 日本発着の航空貨物需要は18年まで右肩上がりで推移してきたが、19年は米中貿易摩擦を背景に上期、下期とも輸出を中心とする積み込みの物量が大幅に減少。20年上期は1月からこの影響を引きずって重量水準が低下していたが、3月以降はさらに新型コロナの影響が加わる最悪の市場環境となった。2、3月こそ、アジアなどで既に生産が終わっていた貨物の出荷需要や、新型コロナによるマスク需要の急増で輸入貨物が大幅に増えたが、4月以降は国際線旅客便が9割減となるなど輸送手段も限られ、総量は大幅減が続く。

 空港別実績を見ると、貨物専用機や旅客機による臨時の貨物専用便が多く運航された成田、関西が1桁の前年割れに持ちこたえる一方、羽田や那覇、福岡など貨物便の運航がない空港の減少幅が目立つ。特に4月以降は羽田が7割減、那覇はほぼ全減となっており、このままの状況が続くと下期はさらに厳しい取り扱いになりそうだ。1日も早い世界経済の復調と旅客便の復便が待たれる。

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【海運】
 
コロナで見えた“2つの課題”
BCPや安定化へ次の対応は

 
 新型コロナウイルスの影響で深刻な需要減に見舞われた海上コンテナ輸送。一時は前年比20%前後と大幅な下落となったが、意外にもコンテナ船業界は悲観一色とはなっていない。むしろこの間、市況はより安定し、業績にも想定ほどの悪影響が出ていないのが現状だ。一方で、コロナの問題はコンテナ船産業が直面する幾つかの課題も明確に炙り出している。

■完全在宅に大きな壁

 「“在宅ではできない業務”が改めて明確になった」。ある船社関係者は、コロナの影響で一斉に行われたテレワークを振り返り、こう指摘する。日本では緊急事態宣言に前後する形で、各船社の日本拠点は一斉にリモートでの勤務体制へと切り替わった。細かな問題はいろいろあったとは言え、大半の業務は比較的スムーズに切り替えが行われたが、大きな壁となったのがB/L発行とカウンター業務だ。

 「B/L発行業務の在宅化は難しい――」。テレワーク開始に伴い、コンテナ船社からはそうした声が多く上がった。ウェイビルが普及したとはいえ、特に近海航路ではL/C比率がまだ高く、オリジナルB/Lが必須というケースも多い。一部の国では、オリジナル提出が義務化されており、船社側の都合のみでB/L発行業務を止めることも難しい。海外では、B/Lの郵送も珍しくないが、日本では付保枠の限度額が低いために普及はしていない。

 発行業務だけでなく、輸入貨物の引き取りにおけるB/L差し入れでも課題が明確になった。B/L差し入れができないと貨物の引き取りが進まなない。このため、保証状(Letter of Guarantee)の差し入れや、スキャンしたB/Lのメール添付での貨物リリースなど、コンテナ船社はさまざまな形で臨時の対応を行ったが、セキュリティー面を考えれば本来は望ましい対応とはいえない。

 今回のコロナ禍で、国際的に電子B/Lを巡る議論が加速している。これまでは期待されつつも、なかなか実現しない取り組みだったが、今回が大きな転機となる可能性もありそうだ。

■真の安定化へなお課題

 もう1つ浮かび上がった課題は、市況の安定性に関するもの。年初以来の需要急減に対し、コンテナ船業界はこれまでのところ、安定した対応で市況の混乱を回避してきた。

 今回は一時、荷動きが前年同期比で20%前後も落ち込み、しかも最初はまず中国で、次に欧米を中心とする需要地で、といった形で非常に不規則かつ非連続な恰好で需要の減少が急速に発生した。しかしこの間、コンテナ船社は需要減に対応してサービス体制を大きく縮小。この結果、需給バランスが大きく崩れることもなく、運賃市況はむしろ以前に比べて上昇もしている。一部の海運会社は、最も需要減に見舞われたはずの第2四半期(4~6月)の業績が、第1四半期(1~3月)実績を上回る、との見通しも発表。多くの船社関係者も「再編の効果で、需要に合わせて適切な船腹量を投入することができるようになった」と口をそろえる。

 ただ、この半年間で業界再編が市況安定化につながることが実証されたとは言え、新たな課題も見えてきた。荷動きが回復するなか、一部の航路では需給タイト感が急速に強まり、運賃水準が大きく高騰している。海運会社側にとっては需給軟化で運賃急落を招くわけにはいかず、船腹投入は慎重に行う必要がある。一方で需要の見通しは非常に不透明で、思わぬ形で需要が伸びれば一気に船腹不足を招き、運賃高騰にもつながる。荷主の立場で見れば、欠便や減便でサービスの使い勝手が落ちているにもかかわらず、運賃も高騰するという恰好となりかねない。

 世界のサプライチェーンを支えるインフラとして、本来コンテナ船輸送に最も望ましいのは「安定性」。B/Lにせよ運賃市況にせよ、いついかなる時でも安心・安定して利用できるインフラとなるために、今回のコロナを通じて浮かび上がった課題に対し、改めて取り組む必要がありそうだ。
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