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2020年8月31日無料公開記事

【台湾ハブ特集2020】 米中摩擦、コロナ禍で“光”

 米中貿易摩擦、コロナ禍が世界の貿易を黒雲で覆う中、一筋の光の差す地域がある。台湾だ。米国向け輸出品で中国から製造業の回帰があり、世界的なテレワーク・巣ごもり需要を受けて主要産業の電子・電機・半導体関連が堅調だ。逆境を逆手に取る格好で、成長を目指す台湾。その物流ハブ機能には今後、どのような変化が現れるのだろうか。
■中国生産が台湾に回帰

 「(新型コロナウイルスの感染拡大は)全世界のサプライチェーンの再編を加速・拡大させ、経済の勢力図を書き換えた。複雑さを増した国際情勢の中で、チャンスをつかんだ国が頭角を現す。世界に向けた『台湾ブランド』の戦略物資製造業を海外市場に展開する」

 5月、台湾総統選で再選された蔡英文氏は、就任演説でこう述べた。

 米中摩擦勃発以降、米国向け輸出製造業が中国から台湾に回帰する動きがある。ジェトロによると、台湾の米国向け輸出は昨年17%増と急増し、新型コロナの脅威に襲われた今年上期(1~6月)も5%増と、成長を続けている。「2016年時点で、中国の対米輸出トップ20社のうち、15社が台湾系」(ジェトロ、以下同)ともされ、中国では特にEMS(電子製品受託製造)や半導体ファンドリーなどの台湾系企業が長年活躍してきた。「台湾(全体)の輸出受注のうち、中国・香港で生産される割合は45%。この2割が台湾への回帰、アセアンへの移管など中国外での製造に切り替えたとみられる」という。台湾当局は昨年1月から“台湾回帰投資”を支援し、台湾の「5欠問題(土地、水、電力、労働力、人材の不足)」の対処を重点としている。これを受け、特に「回帰は、高付加価値品で起こっている」とされる。

■情報通信機器、輸出好調

 台湾は、早期に新型コロナの封じ込めに成功した。各国でロックダウン(都市封鎖)が断行される中で、世界的にも珍しく、「台湾は流行初期から行政による対応が早く、感染が抑え込まれてきた。このため、対象を特定しない外出制限や都市封鎖は実施されなかった」(現地の日系フォワーダー関係者、以下同)。

 日系物流各社はマスク着用、消毒、出社時の体温測定といった対策を実施。在宅・時差・シフト制・分散などによる勤務体制として、事務所内のソーシャルディスタンスの確保や動線の管理などにも努めたが、他国に比べれば、影響は大きくなかったようだ。「現地社員の高い防疫意識により、感染者を出すことなく(業務を)遂行できた」との声もある。

 世界的なテレワーク・巣ごもり需要の拡大が、台湾に恩恵をもたらしている。ジェトロによると、台湾の品目別輸出は主要産業の情報通信機器が昨年2割増のうえ、コロナ禍の今年上期に1割増。電子部品は同1桁増のうえで、2割増を達成した。「リモートワークが進み、通信関連機器、ノートパソコンなどが増加した。半導体は、DRAMが前年並みの伸張にとどまったものの、ICチップの出荷量は大幅に増えた」「オンラインによる教育・医療活動も今後ますます普及し、パソコンをはじめとする通信関連機器の荷動きが、特に米国向けで(引き続き)堅調な荷動きを見せると予測する」。

 FTZ(自由貿易区)などを活用する台湾ハブは、「パソコン関連のB to Bのビジネス形態では、FTZの利用価値は大いにあると考える」との見方や、また「世界的に上位に位置する航空、海運のキャリアが複数存在しており、輸送キャパシティーという面では(引き続き)大きなアドバンテージがあると考える」「高い地代と人件費に見合う商品群や非居住者モデルなどは対象になるが、複雑な保税法、他法令などが障壁になると考えている」などの意見がある。

 周辺国を巻き込んだ環境の変化が、これからの注目点になりそうだ。台湾政府の新南向政策(東南アジア・南アジア・オセアニアとの関係強化戦略)も相まって、台湾企業のアセアン展開が拡大。台湾EMS大手では、コンパルがベトナム、クオンタがタイ、インベンテックがマレーシア、ウィストロンがフィリピン、ペガトロンがインドネシアやベトナムに進出を決めるなどしたようだ。台湾シンクタンク、中華経済研究院の担当者は、7月に開催されたジェトロのオンラインセミナーで、「台湾企業は、米中摩擦が続き、中国は加工業の拠点に向かないことを認識し、新型コロナにより、サプライチェーン(SC)を一つとすることにリスクを感じている。エレクトロニクス産業はタイからベトナム、フィリピンへと広がっていく。ベトナムは今後3~5年で、SCが完全化に近づいていくだろう」と述べた。

 さらに、「香港での(中国の)国家安全法の施行で今後、香港の機能がどのように変化するか。(台湾は)香港に代わるハブ機能として考えられる」(現地の日系フォワーダー関係者)との声が出ている。

 台湾-アセアンのレーン、香港の代替としての台湾という新たなテーマは、新規の物流案件創出の可能性につながる。「新型コロナの封じ込めにいち早く成功した利を生かし、大幅な構造転換が起こり得る可能性がある。あらゆる選択肢を踏まえて営業展開を進める」。現地の日系フォワーダー幹部は、力を込める。

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【日本通運】
台湾系荷主へのアプローチ積極化
 
 日本通運は台湾で、半導体関連やEMSなどの台湾系荷主へのアプローチを強めている。台湾への生産回帰が加速し、世界的なリモートワーク需要を受けてサーバーや通信関連・電子機器、半導体チップの台湾発出荷が伸びる中で、現地法人の台湾日通国際物流股份は、フォワーディングで好調な取り扱いが続いている。同社はフォワーディングの品質向上に努めながら、台湾の国内物流の取り込みにも注力している。

 台湾日通の今年上期(1~6月)の取扱量は重量ベースで、海運、航空ともに輸出が1桁減も、海運輸入1割増、航空輸入数%増と輸入が好調だった。

 「米中貿易摩擦の激化で、特に2018年9月にハイテク製品に対して追加関税が発動されて以降、台湾系企業の台湾への生産拠点回帰の動きが加速、北米向けサーバーなどの出荷が増加した。また新型コロナウィルスのまん延によってリモートワークが進み、台湾発の通信関連機器、ノートパソコンなどが増加した。半導体は、DRAMが前年同期並みの伸張にとどまったものの、ICの出荷量は大幅に増加した」(台湾日通、以下同)。

 日通は現行の中期経営計画の顧客(産業)軸で、半導体、電機・電子や医薬品などを重点産業と位置付ける。台湾は、ファンドリー世界最大手TSMCをはじめとする世界有数の半導体関連企業が多数存在し、世界的な半導体産業の集積地。「半導体産業への深掘り、産業構造の解明、取扱量増加に向けて、積極的にセールス活動を実施している」。合わせて、非日系企業への営業拡大という観点でも、「GAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)のような世界有数の企業のグローバルサプライチェーンに組み込まれている台湾EMS企業への営業アプローチも積極化している」。

 米中摩擦回避の動きの中では、同社は台湾FTZ(自由貿易区)の委託加工機能を活用し、半製品を台湾に輸入して保税状態で加工、再輸出する案件を獲得している。

 ロジスティクス面でも輸送品質の向上に注力する。倉庫配送やトラックといった台湾国内の物流も拡大し、「バランスの取れた事業ポートフォリオ形成を目指している」。日通は台湾の国内宅配業者、台湾宅配通股份に出資しており、国内配送での協業を推進。台湾日通の輸入貨物や、需要拡大の見込まれるeコマース(EC)のB to Cのラストワンマイル配送などを共同で提案している。

 ECや販売物流のニーズ増、また人件費上昇に応じて、倉庫の自動化を図る。現地では、棚搬送ロボットや自動仕分け機を特定の顧客用業務で来年以降の導入を検討している。台湾も管轄する日本通運東アジアブロック地域総括はRPA活用を推進しており、台湾でも事業部門に加えて、総務・経理などの作業で、RPAによる効率化も検討中だ。

 同社は、マスク着用などは行政の規制に従って行い、備蓄マスク、消毒液の各拠点への配備、出勤前の自宅での体温測定、発熱・体調不良などの自覚症状がある場合の出社見合わせなどを実施。万が一に備えたBCP(事業継続計画)として、事務所内での動線分離、同じ所属の従業員の分散勤務などを行った。また、現在も第2波に備えてリモートワークを推進している。

 台湾日通は17拠点で、従業員488人、うち日本人駐在員8人。総倉庫面積約5万8000平方メートル、自社車両21台。

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【TIPC】
台湾をアジアの新たなハブへ 内外で投資・整備推進

 急速に変化する国際情勢やサプライチェーンを受け、それに対応しようとしているのは物流事業者だけではない。台湾政府、特に同国のハブ戦略の推進役を担うTIPC(台湾港務)は、現在の環境を好機と捉え、インフラ整備やIT化、さらにFTZ制度の刷新など、さまざまな取り組みを進めようとしている。

■東南アシフト、コロナ禍で加速

 台湾は近年、アセアン諸国や南アジアとの関係強化を目指し、新南向政策を推進してきた。アセアン10カ国、南アジア6カ国、オーストラリアおよびニュージーランドなど18カ国と経済貿易面や人材交流、資源共有などで協力関係を強化するもので、物流分野では、台湾を国際サプライチェーンのハブとして、貨物誘致を図るのが狙いとなる。

 以前より、中国や韓国の釜山が東アジアのハブ拠点として存在感を高め、高雄港など台湾のハブ拠点は取扱量が伸び悩む傾向があった。しかし、東南アジア各国の経済発展に加え、荷主の東南アジアシフトが強まってきたことで、東アジアと東南アジアの結節点に位置する台湾に再び注目が集まっている。アジア地域の国際サプライチェーンにおいて、これまで上海や釜山などがハブ拠点としての比重が高かったが、東南アジア発着の物量拡大を背景に状況は変化している。特に新型コロナウイルスの影響で、サプライチェーン見直しや調達多様化の必要性が再認識されるなか、この傾向はより一層拍車がかかってきた。

 台湾ハブ構想の推進役を担うのがTIPC(Taiwan International Port Corporation、台湾港務)だ。TIPCは2012年3月、台湾政府全額出資の港湾運営会社として発足。これまで各港の港湾局が運営や行政、企業誘致など複数の業務を担当する体制を改め、行政機能を分離すると同時に各港の運営機能をTIPCに集約化した。これにより、台湾全体で一体的な港湾運営を目指しており、現在は高雄、台北、基隆など国際港湾7港、国内港湾2港を統括管理している。

■ハード・ソフト両面で投資拡大

 TIPCは18年から、この新南向政策に基づいて海外投資を積極化してきた。最初の投資先として選んだのはインドネシアだ。同国の経済成長や2億4000万人の人口に支えられた市場規模、台湾との関係性などから選定したもの。このため、同じ台湾の大手船社の1社であるヤンミンと提携する形で、18年5月にインドネシアのスラバヤに物流会社「PT.Formosa Sejati Logistics」を設立。現在、同社はスラバヤの港湾付近でコンテナデポや倉庫・物流サービス、その他の港湾関連サービスを提供している。提携するヤンミンにとっても、不安定になりがちなコンテナ船事業とは異なり、収益面で安定する物流関連事業への出資はメリットがあったようだ。

 TIPCは新型コロナウイルスの影響を受けた今年以降の国際サプライチェーンの変化について、「従来のサプライチェーンの脆弱性が明らかになるとともに、米中間の貿易摩擦、多くの企業の中国からベトナム・タイなどへのシフトが起きている。このことは、新南向政策が国際的な動向と一致していることを示している」と手応えを感じている。このため、TIPCは今後も同政策に基づき、事業の多角化戦略を追求するとともに、新たな事業提携を通じた投資先の拡大や、既存パートナーとの連携をさらに強化する方針だ。

 東南アジア方面への投資強化と合わせ、台湾の港湾や空港に貨物を集める取り組みにも力を入れる。コンテナ船社に対しては、トランシップサービスや新規の寄港サービスに対してインセンティブ制度を設置。同時に昨今のコンテナ船大型化に対応し、インフラ整備も積極的に進めている。現在、台湾最大のコンテナ港である高雄港では、過去最大のターミナル開発プロジェクトとなる「第7ターミナル」の開発が進行中。23年をめどに岸壁長2300メートル、水深18メートルを備え、2万3000TEU級のコンテナ船荷役に対応可能となる予定で、稼働した際にはエバーグリーンが同ターミナルを活用する計画となっている。

 また、インフラ面に加え、昨今のデジタル化の流れに対応したスマートポート事業の推進にも力を入れる。18年に、TIPCは「Trans-SMART」計画を策定。ここでは港湾の海側と陸側の双方で、港湾の運営や航行面の安全性を高める取り組みを推進している。船舶航行支援システムやスマート交通アプリケーションなどがその一例で、後者ではリアルタイムの交通状況や出港時の待ち時間の予測、AIによる入出港時間の予測、ターミナル混雑の緩和予測機能などが盛り込まれており、これによって港湾事業者は柔軟にトラックの配車計画を立てることができるというもの。船舶航行支援システムも、20年末までに高雄港で稼働する予定となっている。

■FTZ、より使いやすく

 海外投資や国内でのインフラ整備と歩調を合わせる形で、TIPCはFTZ(自由貿易区)の利用拡大にも力を入れる。FTZは現在、台湾内で基隆、台北、台中、安平、高雄、蘇澳の6カ所に加え、桃園空港近郊も加えた計7カ所に設置済み。従来のILC(国際物流中心)制度では、保税状態での在庫が可能であるのに対し、FTZでは域内での加工や委託加工が可能となる。いずれも港湾や空港などの隣接地に指定されており、輸出入のトランジット貨物を主眼に海外から物品を輸入し、それらを加工してさらに他国に輸出するようなサプライチェーンの実現を描いている。

 TIPCによると、今年上期はコロナの影響でFTZでの取扱量も減少したが、その一方で企業の誘致活動にも力を入れている。今年7月までに新たに3社のFTZ入居が決まっており、将来的な物量増につながる見通し。LME倉庫として利用したり、海外の複数の国から部品や材料を調達・集約し、FTZ内で加工・再混載して海外へ輸出するMCC(マルチ・カントリー・コンソリデーション)モデルなどを推進し、貨物誘致につなげたい考えだ。

 一方でTIPCは「現在のFTZでは、まだワンストップサービスが実現されておらず、また一部の事例ではかえって競争力が失われる可能性もあり、使い勝手の向上や制度の最適化を進めていきたい」としている。
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