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2020年8月21日無料公開記事

【コイルコンテナ輸送特集】 専用コンテナ・新資材の開発進む

鉄鋼コイル

コンテナ輸送の安全性と利便性が高まっている

 在来・バルク貨物のコンテナ化が進展する中、近年は海上コンテナによる鉄鋼コイル輸送が脚光を浴びている。コイル専用コンテナや、海上コンテナへのコイルの固縛資材などが相次ぎ開発・改良されており、コンテナ輸送の利便性が高まっている。コンテナ輸送の魅力は、小口の輸送需要に対応できる点と、定時性の高さや仕向け地の幅広さ・柔軟さだ。足元では輸送安全性や品質も向上しており、「コンテナによるコイル輸送市場は今後、拡大していく可能性が高い」と見る向きも強い。コンテナによるコイル輸送の最新動向を紹介する。
コンテナのシェア拡大へ共存共栄

 鉄鋼コイルの海上輸送は通常、在来船によって大量輸送されることが多い。しかし、日本発の鋼材はロットやタイミングの問題で小口貨物が発生する場合も多く、在来船1隻に満たない小口需要もある。こうした小ロットの貨物や、急送需要に対応する時にはコンテナ船が好まれるケースもある。

 コンテナ輸送の場合は、木材をコンテナ内に組み、その上に円筒状のコイルを固縛する方法が主流だ。だが、木材の組み立てには時間がかかるほか、長年の経験に基づいた高い積み付け技術が必要不可欠となる。足元では技術者の高齢化が進んでおり、現場の作業負担の重さと将来への技術伝承が課題となっている。輸送中の安全性についても、特に海外ではコンテナの底に荷重が集中することによる底抜け事故や、輸送中の船体動揺によってコンテナ側面の壁を損傷するなどの事故も起きていた。

 こうした課題を解決するため、木材に代わるコンテナへの固縛資材や、新たな輸送システム、専用コンテナを開発する動きが加速する。豊田スチールセンターは、鋼材や大型機械などの重量物をコンテナへ簡単に搬出入することを可能にした独自技術「コンテナ・バンニング・テクノロジー(CVT)」を開発し、サービス提供する。郵船ロジスティクスは2013年から、豪州港湾作業会社のストラングシステムズ社が特許を持つ発砲ポリスチレン(EPS)資材を活用した海上コンテナへのバンニング方法を導入している。商船三井グループは、簡易に組み立て可能なコンテナ内へのコイル固縛キットとなる「MOLコイルポーター」を開発。NVOCC事業の差別化商品として今年5月から販売を開始した。SITCグループも6月にSITCインターモーダルジャパンの営業を開始し、日本市場にコイル専用コンテナを投入している。

 海上コンテナによるコイル輸送のシェアは現時点でそこまで高くない。しかし、新たな輸送システムの開発により、安全性・コスト面で利便性が高まっている。コンテナ船のメリットでもある定時性や輸送網の広さを評価する意見もあり、「コンテナ輸送は将来的な有望性を感じる」(NVOCC関係者)と話す関係者もいる。また、足元では新型コロナウイルスの影響で鋼材の輸送需要が低迷しているが、「小ロットになれば在来船による混載と比較して、コンテナ輸送の優位性が出てくる」とする声もある。コイルのコンテナ輸送革新化を目指すある関係者は「コイルのコンテナ輸送にはさまざまな手法や資材がある。それぞれの強みがあるが、これらを生かして共存共栄のコイル輸送体制を構築していきたい。コンテナによるコイル輸送のマーケットを開拓し、広げていきたい」と意気込む。

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■商船三井グループ
MOLコイルポーターで差別化
陸海空でコイル輸送の競争力強化

 商船三井グループは5月から、海上コンテナによるコイル輸送のセキュアリングシステム「MOLコイルポーター」の販売を開始した。簡易に組み立て可能なコンテナ内へのコイル固縛キットで、バンニングやデバンニングにかかる労務負担の軽減と、輸送中の品質維持・向上を実現する。これまでも商船三井グループとして在来船や航空機によるコイル輸送と、積み地・揚げ地でのロジスティクス事業を手掛けてきたが、MOLコイルポーターの導入によって海上コンテナによる輸送利便性も高める。陸海空のコイル輸送で差別化を進める方針だ。

 MOLコイルポーターは、重量物・プラント輸送に関する商船三井グループの統一ブランド「MOL Project & Heavy Cargo」の参加各社が中心となり、2015年ごろから開発を始めた。海上コンテナでコイルを輸送する場合は通常、熟練工が計150~200キロにおよぶ木材を手作業で運搬・加工してコンテナ内に櫓のように組み、その上に固縛する方法が主流になっている。しかし、積み付けに時間がかかるほか、熟練工の高齢化も進んでいることから、鋼材メーカーなどからは作業を効率化しつつも安全性を高める方法が求められていた。「誰でも簡単に安全で確実に組み立てられる輸送用のキット」を目指し、完成したのがMOLコイルポーターだ。

 素材には、カネカが独自に開発したビーズ法発泡ポリオレフィン「エペラン」を採用した。軽量性と緩衝性に優れる素材で、組み立てキットのパーツは最大でも3キロ。材木と比べて大幅な軽量化を実現した。荷役作業を行ったことのない素人でも、架台を手間なく迅速に組み立て・解体でき、港運会社からは「とても便利なものが開発された」「現場作業を効率化する画期的な素材だ」といった評価の声が上がる。初めて組み立て体験に参加した本紙記者も、約2分で組み立て、約5分でバン詰めを完了することができた。また、特殊な機材を使わずにコンテナ奥への押し込み・引き出し荷役もスムーズに行える点も特長だ。商船三井港湾・ロジスティクス事業部の浅井亮吉部長代理(商船三井ロジスティクス営業開発部長)は「現場で組み立てを行う熟練工が高齢化し、人手不足が進む中、簡単かつ誰でも同じように積み付けられる仕組みが必要だった。現場からは好評をいただいており、実際に利用の引き合いも強い」と話す。

 緩衝性についても、硬さと粘りの両方を備えており、ダンネージとコイルの接触ダメージを軽減する。含水率もほぼ0%となっていることから木材利用時とは異なり、資材自らが発する水分によるスチールコイルへの汗かきダメージを軽減できる。広範なコイル径や身幅に対応可能な標準仕様とし、さまざまな仕様のコイルにも迅速に対応可能。また、高い復元性と耐久性から反復利用することができるほか、組み立てキットにしたことでコンパクトな収納が可能となり、回送コストも圧縮できる。在庫管理・回送の管理や現在地をリアルタイムで把握できるアプリも開発しており、タイムリーな情報提供も行う。安全に焼却処分することも可能で、かつ反復利用による資源の有効活用を通じ、環境に優しい資材を実現した。

 安全性についても、荷重分散機能を持ち、コンテナの底抜け事故を防ぐ。開発段階で輸送トライアルを何度も重ねた結果、高い安全性が評価され、オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)から包括輸送承認を取得している。今後も利用者の声を聞きながら、より使いやすいものにしていくために、細部の微調整・改良を進めていく考えだ。

 商船三井グループでは、商船三井近海が在来船によるコイル輸送を手掛けるほか、商船三井ロジスティクス(MLG)がコイルの航空輸送や、東南アジア各国で港湾到着後の荷揚げ作業と通関、現地納入先までの陸上輸送などを行ってきた。MOLコイルポーターの導入により、海上コンテナ輸送についても利便性と安全性を格段に高める。顧客ニーズや製品の特性に応じて最適な選択肢を提示し、陸海空の各輸送で差別化を図っていく。

 MOLコイルポーターの営業体制は、鋼材関係の荷主と相対するMLGや商船三井近海、宇徳などが営業窓口となり、実際のNVOCC事業はMLGが担う。商船三井テクノトレードが資材供給・管理と生産を担当する。まずは日本発東南アジア向けをターゲットとするが、将来的には日本発に留まらず、東南アジア発やアジア域内の三国間輸送も視野に入れる。

 足元ではPRに力を入れており、MLGのホームページ内に特設サイト(https://www.mol-logistics-group.com/solution/mol-coilporter/index.html)を開設。専用アドレス(molcoilporter@mol-logistics-group.com)も作った。緊急事態宣言が解除となった6月以降は各地で実演を行っており、バン詰め作業会社含む顧客に簡単に積み付けできることを体感してもらっている。浅井氏は「商船三井グループの広範な海外ネットワークや、MLGが東南アジアを中心にスチールコイルの陸上作業・輸送で培った知見は効果的な運営の実現に必要不可欠なベースとなる。今後もMOLコイルポーターの運営を通じて顧客のバリューチェーンにフィットする体制を国内外で拡充・調整することで、需要の変化に即応していく」と意気込む。

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■SITC
コイル専用コンテナを日本市場投入
需要に応じて改良も検討

 SITCグループは、日本において鉄鋼コイルの海上コンテナ物流を強化していく。今年、日本でコンテナ物流事業を展開する新会社「SITCインターモーダルジャパン」を設立し、6月から営業を開始した。コイル専用コンテナとなるCOWINコンテナを日本市場に投入し、海上コンテナ輸送を含めた海陸一貫輸送を展開している。呂開献社長は「6月以降、営業を行っているが手応えを感じている。日本発の輸出のみならず、日本向けの輸入や、SITCが強みを持つアジア域内の三国間輸送についても顧客ニーズに合わせて展開していく。日本で海上コンテナによるコイル輸送マーケットを盛り上げていきたい」と意気込む。

 SITCグループは昨年、独自のコイル専用コンテナを開発・運用している広州のフォワーダー、COWINを買収。今年1月からSITC COWINとして運営を開始した。

 COWINが開発したコイル専用コンテナは、独自設計された全範囲ゴムカバー付V字型床面を採用しており、固縛資材を内蔵しているオープントップ型のコンテナだ。オープントップの強みを生かし、鉄鋼メーカーの倉庫やディストリビューションセンターに設置してある天井クレーンでコンテナ上部からの荷役が可能な点が特徴だ。ラッシング作業の省力化により、「5分でコンテナ5本への固縛が可能」(呂社長)とするなど作業時間の短縮化と効率化を図ることができるほか、V字型の床面は角度調整が可能なため、さまざまなサイズのコイルにも対応する。加えて、コイル単重6~29トンまで対応可能で、「重量物も扱えることが強み」(同)とする。固定加工コストも、従来の木材組み立てによるラッシングと比較して約90%削減可能という。

 COWINコンテナは2015年以降、中国や韓国、台湾、東南アジアなどで投入されてきた。安全性についても、これまでラッシング不十分によるコンテナ損傷は一度も発生していない。今回、SITCインターモーダルジャパンの設立を契機に、日本市場への投入を始める。呂社長は「コンテナ船社は近年、海上コンテナ輸送のみならず、両端での物流事業も展開している。SITCは総合物流プロバイダーとして各国で物流事業も手掛けているが、SITCインターモーダルジャパンの設立を機に日本でもロジスティクス分野を強化していく。まず、最初の切り口が専用コンテナによるコイルの海上輸送だ」と強調する。

 SITCは昨年11月、SITCインターモーダルジャパンの設立のため、日本でコイル専用コンテナの需要調査と販路開拓を開始。今年6月の新会社稼働後は、自前の営業網のみならず、SITC JAPANやSITCロジスティクスジャパンといったグループ会社のネットワークを活用するほか、SITCの各港における代理店と、これまでCOWINコンテナの日本代理店を務めた東興物流などとの連携を通じて、さらに営業展開を加速している。日本鉄鋼連盟に加盟する商社などをはじめ、関係事業者に対してアプローチしているが、呂社長は「手応えは想定していた以上に良い。6月以降、引き合いは多い」としている。SITCの本船活用を基本とするが、地方港やアジア側のニッチな港などSITCがサービス展開していない港などへのサービスについては他船社の活用も柔軟に行う。現在は横浜港と大阪港を拠点としているが、需要に応じて名古屋港や西日本の主要港など取り扱い拠点を拡大していく方針だ。

 COWINコンテナの改良も続けていく。現在のコンテナは第6世代だが、年内をめどに第7世代を開発する予定だ。コイル専用コンテナや同業他社がサービス展開するコイルのラッシング資材は、ラウンドユースが難しく、回送が一つの課題となる。COWINコンテナでは、コンテナの内部溝を調整することで通常のドライコンテナとしてコイル以外の輸送にも対応可能とし、往復利用しやすい体制を整えている。しかし、第6世代までは内部溝を収納する関係上、通常のドライコンテナと比べてコンテナ内の容積が制限されていた。第7世代では全範囲ゴムカバー付V字型床面を改良し、通常のドライコンテナとして利用する際の容積を拡大する。今後も顧客ニーズに応じて、第8世代以降の改良についても継続していく。

 また、第7世代の開発と並行して、鉄道用のコイル専用コンテナの研究も進めている。現在の海上輸送用のCOWINコンテナは、縦揺れには強いが、鉄道輸送特有の横揺れには対応していない。ラッシング方法の改良などを通じて、鉄道でも安全に輸送できるコイル専用コンテナを開発していきたい考えだ。SITCインターモーダルは中国鉄道(CR)との戦略提携関係のもとで、中国内陸鉄道や中欧班列のブロックトレイン(コンテナ専用列車)と日中コンテナ航路を組み合わせたシー・アンド・レール輸送も展開していく方針。鉄道用のコイル専用コンテナが完成すれば、コイルの輸送手段の幅が広がり、荷主にとっても需要に応じて最適な輸送手段を選択できるようになる。

 呂社長は「コンテナによるコイル輸送は将来的な有望性を感じる。現在は在来船での輸送が主流だが、コンテナ輸送のマーケットを育てていきたい」と意気込む。

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■郵船ロジスティクス
ストラングシステムでニーズに柔軟対応
西日本で拠点拡充検討

 郵船ロジスティクスは2013年から、ストラングシステムを活用した鋼材の海上コンテナ輸送を行っている。ストラングシステムとは、豪州港湾作業会社のストラングシステムズ社が特許を持つ発砲ポリスチレン(EPS)資材を活用した、海上コンテナへのバンニング方法だ。一般的に使用される木材の固縛資材と比べて、積載効率の向上と作業負担の軽減、コスト削減につながるほか、鉄鋼コイルや長尺鋼材、機械・装置、鉄鋼線材などの重量物を高い安全性を保って輸送することが可能だ。日本では郵船ロジスティクスが独占販売している。同社は、「鉄鋼業界におけるサプライチェーンの変化により、今後はコンテナで輸送される鉄鋼製品が少しずつ増えていくだろう。多様化するニーズに迅速かつ柔軟に対応するソリューション提案を続けていく」とする。
 
 郵船ロジスティクスは12年11月から市場調査を開始し、13年5月からストラングシステムの提供を開始した。現在は、横浜、名古屋、神戸、徳山、北九州の各1カ所にEPS自動切断機を置き、サービスを展開する。足元では月間500TEU前後の取り扱いがあり、おおむね横ばいで推移している状況だ。今後は、さらなる利便性向上のため、同一港内に複数拠点を構えることも検討するほか、西日本を中心に拠点拡充を進めていく考えだ。

 ストラングシステムの特徴は、高効率、安全性、柔軟性だ。効率性では、作業負担の軽減と省力化により、バン詰め作業を1本当たり約10~15分で行うことが可能となる。安全性では、高い緩衝性と静加圧耐性を持ち、輸送中に発生する衝撃の吸収と高いホールド力を実現する。柔軟性では、さまざまな形状、幅広いサイズの製品に対応する。鋼材コンテナ輸送において往復利用を前提とする資材や専用コンテナもある中、シングルユースで完結することも大きな特徴となっている。

 現在は、中国向けや東南アジア向けが多いが、「鉄鋼製品の仕向け地の中でも在来船の定期寄港地ではない、南米東岸や豪州、欧州、アフリカなどもターゲットとしていく」方針だ。また、在来船の運航が旺盛な東南アジアとインドにおいても、「バルク船に積載できなかった製品を輸送する補完的役割を果たす」と意気込む。アルミニウム製品やスリットコイル、小径穴縦コイルなどは特性上、コンテナ輸送の方が適しており、安全輸送の観点からストラングシステムを活用する事例も多い。今後は棒鋼や線材などでの輸送も狙う考えだ。

 また同社は、ストラングシステムによる鉄鋼コイル輸送をきっかけに、エアーバッグと発砲スチロールを用いた輸送技術を新たに開発。18年には特許を取得した。昨年度は同技術を活用して約300TEUを輸送しており、さらなる普及を目指す考えだ。「これまでは単重5トン前後のコイル輸送の実績を重ねてきた。今後は裾野を広げ、パレットに積載した一般貨物への適用を前提とした商品も打ち出していく」としている。