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2020年9月29日無料公開記事

【ベトナム航空特集】<インタビュー> ベトナム航空 キエウ・アイン日本地区ゼネラルマネージャー 旅客機貨物便駆使で日越供給維持

キエウ・アイン日本地区ゼネラルマネージャー

貨物需要に対し、積極的に旅客機貨物便を投入してきた

 ベトナム航空は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で3月下旬に旅客便を全便運航停止した直後から、旅客機を貨物輸送目的で運用する“旅客機貨物便”を積極的に展開してきた。日本では3~6月だけでも285便を運航し、旺盛な日越間需要に応えてきた。日本支社の、キエウ・アイン日本地区ゼネラルマネージャー(GM)は「日本は貨物売上高が本国に次いで最大の海外拠点であり、重要市場だ。旅客便が復便するまでは旅客機貨物便を活用し、9月現在と同程度の貨物輸送力を維持する」と述べた。キエウGMに日本地区の貨物事業概況、方針を聞いた。(文中敬称略、聞き手・望月彰乃)
 ――現状の輸送力は。今後の需給調整をどのように行っていくか。
 
 キエウ 9月時点では、旅客機貨物便として、成田-ハノイ週5便、同-ホーチミン週2便を運航している。ハノイ線を前月から週1便増やし、ホーチミン線を週1便減らした。10月以降も、同程度かそれ以上の供給を維持する方針だ。旅客便がいつどの程度復便するのか、今は見通しがつかない。しかし日越間の航空貨物需要は底堅い。旅客便が戻らなければ旅客機貨物便の運航量を継続し、一定の貨物供給量を保っていく。
 
 ――もともと、日本への乗り入れ規模が大きかった。
 
 キエウ コロナ禍以前は成田、羽田、関西、中部、福岡と5地点に定期旅客便を乗り入れていた。広胴機による乗り入れは、1日7便、月間200便あった。昨年は広島、高松、熊本、福島へと、地方都市向けチャーター便を多数運航し、ローカル路線での存在感を高めるべく供給を増やした。
 
 ――コロナ禍発生直後、いち早く旅客機貨物便を運航し始めていた。
 
 キエウ 3月23日に世界の国際線全便を運航停止した直後から、日本では成田、関西、中部発着で、旅客機貨物便の運航を開始した。全て合わせ、3月は6便、4月は77便、5月は102便、6月は100便を運航した。マスクなど医療関連の緊急輸入需要が特に強かった。5~6月は従来の広胴機運航便数の50%以上を維持することができた。
 
 日本では輸出入ともに旺盛な需要がある。旅客機貨物便では、ベリーだけでも収益性を確保できている。日越間では、ベトナム発便でのみ、客室への貨物搭載実績がある。5月はベトナム発日本向け便の6割に客室搭載した。一方、日本発は品目が多岐にわたり、荷姿が不定形になりやすい。
 
■越発着需要底堅く
 
 ――日本地区の業績を振り返って。
 
 キエウ コロナ禍で上期(2020年1~6月)の貨物輸送量は前年同期比24%減となった。ベトナムはアジアの主力生産拠点だ。世界経済が停滞している中、日本発ベトナム向けの加工部品の供給需要にもマイナス影響が出た。
 
 ――日越間の直近の荷動きは。
 
 キエウ ベトナム発日本向けでは海産物、農水産物、洋服、再輸出製品など。日本発ベトナム向けでは自動車部品、テキスタイル、機械類、化学品と、さまざまな航空輸送需要がある。また、最近では船員不足の影響で、従来、海上輸送されていたのが航空貨物として動いているものもあるようだ。
 
 とても良好な関係を築いている日越間の経済をつなぐ、重要な役割を担っていると自負している。日本における在留ベトナム人数はおよそ37万人で、中国人、韓国人に次ぐ規模だ。ベトナムの、製造国としての成熟に伴い、日本からの投資も一層活発化している。
 
 ――ベトナム発着の空輸需要が底堅いと。
 
 キエウ コロナ禍で在宅勤務を奨励する企業が増え、パソコンやタブレット関連の需要増に伴い、生産が加速されている。このため、日本からも電子部材を輸出する需要が強い。ベトナム税関の1~7月の貿易統計を見ると、輸出は前年同期比1.5%増の1476億ドル(約15兆円、1ドル=106円換算)、輸入は3.0%減の1398億ドル(約14兆円)と、コロナ禍でも成長し続けている。
 
 世界経済の回復状況にもよるが、ベトナム国内の景況感は、来年夏前までは大きく変化しないのではないかと思っている。
 
■過去の経験生かし迅速に
 
 ――全社的な経営状況は。
 
 キエウ コロナ禍により、運航便数の9割が消失した。それまで1日400便運航していたのが、40便に減った。20年上期の最終損益はおよそ6兆6000億ドン(約297億円、1ドン=0.0045円換算)の赤字。通期ではこれが13兆ドン(585億円)の赤字に膨らむ見通しだ。通期売上高は前期比55兆ドン(2477億円)減と予想している。ベトナム政府に対しては税制面の救済措置や融資、雇用助成金などの支援を要請している。
 
 現在、当社は民営化の過程にある。政府出資比率は70%で、全日本空輸が8%を保有している。グループ全体でも合理化を進めている。子会社の格安航空会社(LCC)、パシフィック航空(元ジェットスター・パシフィック航空、出資比率はベトナム航空70%、カンタス航空30%)は8月に現在の社名にリブランドし、機能面で当社との統合、接続性強化を強めている。
 
 ――コロナ対応について。
 
 キエウ 感染症に起因するネガティブインパクトを受けるのは、今回のコロナ禍が初めてではない。過去を振り返ると、今回ほどではないが、02年に重症急性呼吸器症候群(SARS)、04年の鳥インフルエンザ(H5N1)、12年には中東呼吸器症候群(MERS)の影響で、旅客需要が一時的に低迷した。こうした時期に、旅客機貨物便の実績を積んでいた。
 
 今回、旅客便の全面運休後すぐに、旅客機の貨物便への転用を実現した。このスピーディーな決断力と柔軟な組織体制、危機管理の高さが当社の強みだ。今回のコロナ禍を契機に、航空会社における貨物事業の重要性はますます高まるだろう。特に、安定的な貨物スペースを迅速に提供することが重要で、顧客からの信頼獲得につながる。
 
 ――日本市場でどのような存在を目指すか。
 
 キエウ 全社的にも、今はコストを削減し、新型コロナウイルスの終息、航空市場の回復に備える時期。非常に厳しい時期。フォワーダー顧客各社にとり、ともにこのコロナ禍を生き残るパートナーでありたい。オンラインセールスなど「新常態」に合わせたサービスを提供し続けていく。来月には日越間のフライトは、当社4便、邦人航空4便で、少なくとも合計週8便になる。両国政府ともに、供給維持、確保に協調して努めている状況だ。
 
 貨物は、売上高のうち、8~10%を占める重要事業だ。ベトナム、そして当社にとり貨物はとても大切だ。日本路線の貨物事業を継続し、両国経済を繋ぎ続けていく。
 
 
 【略歴】1995年ベトナム航空入社。2003~10年日本地区ゼネラルマネージャー代理。10年4月から上海支社に移り、中国地区ゼネラルマネージャー。19年7月から現職。ハノイ出身。47歳。