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2020年9月18日無料公開記事

【空の日特集】世界の空が激変、航空貨物が経済回復下支え

カーゴルックス航空は保有機にマスクをペイントした

客室への搭載は人海戦術だ。ケータリング用のローダーも駆使する(写真はルフトハンザ機)

 航空業界はいま、過去最大級の危機にある。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、何カ月もの間、世界の国際線の大半が運航停止している。航空各社は貨物便をフル稼働。旅客機を貨物輸送目的で運用する“旅客機貨物便”も多数運航して供給を投入している。コロナ禍初期においてはマスクなど医療物資の緊急輸送などと、国際経済を支える必須インフラとしての機能を発揮してきた。
■需要回復、貨物は一足早く
 
 新型コロナの影響で各国政府が入国制限を強化するに伴い、3月下旬には世界中のほぼすべての旅客便が運航停止した。そこから約半年、今も規制緩和のめどは立たず、旅客便の供給が戻る時期が読めない状況が続く。航空業界の損失は大きく、国際航空運送協会(IATA)は、2020年の世界の航空会社の売上高が前年比50.0%減の4190億ドル(約44兆円、1ドル=106円換算)となると試算した(6月予測時点)。
 
 利用航空会社の多くを失う空港も痛手は大きい。国際空港評議会(ACI)は、コロナで世界の空港の売上高は、コロナ以前の予測値と比較して60%減少するとみている(金額ベースでは1043億ドル<約11兆円>の減少)。
 
 国際航空市場が昨年並みの規模に戻るのに、数年かかるという見方が強い。「24年以前にコロナ以前の水準に回復するとは見込めない」(IATA)。旅客売上高が激減する中で、貨物は重要な収入源として、航空会社の経営に貢献する。IATAによると、従来、航空会社の売上高に占める貨物の割合は15%程度だったが、コロナ禍で約25%に増えている。
 
 貨物需要は旅客より一足早く、昨年並みに戻りそう。航空貨物の需要と供給は、いまだ前年同月比2桁減が続くが、4月をピークに徐々にマイナス幅が小さくなってきている(いずれもトンキロベース、グラフ(1)(2)参照)。9月上旬時点のIATA資料によると、航空貨物の重要なドライバーとなる製造業PMI(購買担当者景気指数)は鋭いV字回復に向かっており、世界の生産活動も同様に推移している。
 
 コロナ禍からの回復期に向けては、ワクチン輸送の需要が強まっていくことが予想される。航空輸送の重要性が日ごと強調されていく環境下、供給だけでなく、迅速さ、信頼性の高さなども従来以上に強く求められていきそうだ。
 
■“旅客機貨物便”は世界2300機に
 
 IATAによると、9月上旬時点で、世界の旅客機の3分の2に相当する約1万6000機がいまだ運航停止し、係留されている。貨物便需要は徐々に高まり、同時点ですでに世界で約2300機が旅客機貨物便として運航され、そのうち150機の座席が撤去された。ベリーだけ利用するもの、客室の座席や手荷物棚への貨物搭載も行うもの、座席を撤去したメインデッキに貨物を搭載するものと、状況や需要に応じて、あらゆるパターンが活用されている。
 
 しばらく旅客便は限定的な運航が続きそう。冬にかけての航空貨物高需要期に向け、旅客機貨物便の活躍の機会はまだまだ多そうだ。
 
 
幹線中心に旅客機貨物便の運航も
国内航空、宅配需要の取り込みが鍵
 
 新型コロナウイルス感染拡大は国内航空貨物にも影響を及ぼしている。国内旅客需要の停滞、旅客便の運休・減便、機材小型化に伴って供給スペースが減少していることが背景にある。旅客需要、旅客便動向に影響される国内航空貨物事業は、しばらく一進一退の状況が続きそうだ。九州を中心に甚大な被害を招いた7月の豪雨、9月以降の台風襲来が、農産物の生育・出荷にどのような影響を与えるか、という点も課題だ。新型コロナウイルス感染拡大、旅客便運航の減少という事業環境にある中で、スペース不足を旅客機貨物便が補完する動きが見られた。「巣ごもり需要」を受けて宅配需要が増加しており、こうした需要を取り込むことが、事業拡大に向けた鍵ともなりそうだ。
 
 本紙集計によると、今年に入っての国内航空貨物取扱量の月ごとの実績は資料のとおり。
 
 なお上半期(1~6月)の累計は26.6%減の25万5654トンだった。
 
 国内航空貨物は昨年末までマイナス基調だったが、今年に入ってプラスに転換した。荷動きの盛り上がりに期待が寄せられたが、特に3月以降に新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた。移動自粛や旅客需要の低迷に伴って旅客便の運休・減便、機材小型化が相次いで発生。スペース減少を余儀なくされたことも受けて、貨物量はマイナスに転じた。
 
 旅客便の運休・減便、機材小型化が最も顕著だった5月の国内航空貨物量は、5割を超えるマイナスを記録した。国際貨物ほどは需要にぶれがない国内航空貨物だが、新型コロナウイルス感染拡大という事業環境にあって、過去に例のない落ち込みを見せた。6月以降は旅客便運航再開の動きも出始めてマイナス幅は縮小したが、再度の感染拡大などを受けて、需要が安定しない状況が続いている。
 
 7月は九州を中心に豪雨に見舞われたほか、9月に入っても規模の大きい、勢力の強い台風の襲来が重なった。今年は全国的に梅雨明けのタイミングも遅かった。豪雨や長雨、日照不足、さらに台風が農産物の生育、出荷にどのような影響を及ぼすのか、という点が大きな課題だ。北海道でさんまの漁獲量が減少していることなど、鮮魚の荷動きにも注視が必要な状況だ。
 
 新型コロナウイルス禍においては、旅客便の運休・減便、機材小型化による供給スペースの減少を、幹線を中心とした“旅客機貨物便”の運航で補う事例が目立った。旅客が搭乗しない旅客機のベリースペースを活用して貨物を輸送する施策だ。新型コロナウイルス感染拡大に伴う旅客需要激減を受けて、国際線でも活発に旅客機貨物便が運航されており、国内線でも同様の動きが見られることになった。
 
 「巣ごもり需要」に伴って宅配貨物全体の取り扱い個数が増加傾向にあり、こうした需要を継続して航空輸送に取り込むことも重要だ。国内航空貨物業界では昨今、スタートアップとの提携も目立つようになっており、デジタル化も組み合わせながら事業効率化、事業拡大に取り組むことが求められそうだ。
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