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2021年4月26日無料公開記事

【物流BCP特集2021】 コロナ禍で高まる、危機への備え

危機下では航空の緊急輸送が激増する

 荷主の国際輸送入札において、近年、欠かせない要素となっているBCP(事業継続計画)対応。昨年からのコロナ禍で国際物流が激変する中で、その重要性はますますクローズアップされている。
■震災、スト、破たん、台風
 
 本紙のデータベースで過去の記事を検索すると、「BCP」のワードに対応した記事は直近5年間合わせて約540本に上った。さらにさかのぼって、その前の5年間では300本超だったことを考えると、記事で取り上げるケースが大きく増えていることが分かる。
 
 最初に出てくるようになったのは、誰もが忘れもしない2011年3月の東日本大震災の後である。本紙の過去の記事を振り返ってみたい。
 
【邦船3社社長緊急インタビュー 震災復興支援に全力】
 
 「未曾有の大惨事をもたらした東日本大震災。海運会社も支援に向けた動きを活発化させている。本紙は邦船大手3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)の各社長に緊急インタビューを実施。各社とも復興支援に全力を尽くす考えを表明した。『総力を挙げて支援策を検討している』(郵船・工藤泰三社長)『グループの輸送力を生かして被災地へ輸送する』(商船三井・武藤光一社長)『復興するまで実のある支援を行っていきたい』(川崎汽船・黒谷研一社長)。船社間連携も視野に入れ、実効性のある支援体制を確立するため各社とも対応を急ぐ」(11年3月30日付、肩書は当時)。
 
 日系自動車大手がサプライチェーンを見つめ直すきっかけになったともされた大震災。「物流BCP」が本質的に意識され出したのはこのころだったのではないか。
 
 続く大きな出来事としては、14年半ば~15年前半まで影響があった北米西岸港湾のストライキだ。
 
【北米向け臨時・チャーター便 旧正月明けの機材確保焦点】
 
 「北米西岸港湾の荷役遅延に伴う航空貨物臨時・チャーター便が中部、成田、関西の各空港から多く運航される中、機材確保が大きな焦点となっている。自動車関連の緊急出荷需要は(15年)4月以降も継続する見通しが強まっている。ただ、旧正月明けの中国・香港発の需要や用機費用次第では、機材確保ができない可能性もある」(15年2月23日付)
 
 翌16年半ばには、韓進海運の経営破たんがあった。
 
【韓進海運 運航再開のめど立たず ブッキング停止】
 
 「韓進海運の経営再建の見通しが危ぶまれている。(16年8月)31日に法定管理を申請し、ソウル中央地方裁判所が財産保全処分を決定したことで、運航船の差し押さえは不可能となったが、実際に海外各国でどの程度効力があるか不透明だ。既に入港拒否や差し押さえで韓進のサービスは停止しつつあり、韓進自身もブッキング受付を停止。アライアンスのパートナー船社も韓進サービスの利用を停止するなど、影響が広範囲に広がっている。荷役費用や用船料などの未払い金が巨額に上り、当面の運航再開のめどが立たない状況だ」(16年9月2日付)
 
 いずれの時期も北米航路の海上コンテナ運賃が急騰し、緊急出荷を受けた航空輸送が急増した。
 
 近年は、毎年のように大きな災害に見舞われている。西日本豪雨と台風21号、18年に立て続いた被災は記憶に新しい。
 
【西日本地区豪雨 陸送停止で国際貨物遅延】
 
 「西日本地区を中心とした広範囲での豪雨被害を受け、物流に影響が出ている。トラック路線業者や宅配便は受託停止や集配業務が遅延している。九州・中国・四国地方の国際航空貨物は関西空港を利用するケースが多いが、陸送手段が限られるため、関空と各地域間の発送作業を見送るケースもある。国内航空貨物の集配も一部で遅延している。加えて、日本貨物鉄道の被害状況も受け、内航フェリーでの代替輸送の打診が相次いでいる」(18年7月10日付)
 
【台風21号 関空が冠水、港湾にも被害 連絡橋に船舶が衝突】
 
 「台風21号の襲来や潮位上昇の影響で(18年9月)4日午後、1期島を中心に関西空港が冠水した。滑走路やランプサイド、貨物地区を含めて広範囲に冠水。さらに関空と対岸を結ぶ連絡橋に船舶が衝突するなど、甚大な被害が発生した。同日午後3時に空港は閉鎖。関空内貨物地区に勤務するスタッフは事務所に避難。関空で一夜を過ごすことになった。貨物上屋や連絡橋を含む被害、復旧の状況次第では、物流への甚大な影響が懸念される」(18年9月5日付)。
 
 「有事の際に物流を継続するBCP、物流のBCM(事業継続マネジメント)を以前にも増して重要視している」。荷主の間に、そんな声は広がってきた。入札の要件のほか、日ごろから代替ルートや代替モードなどの検討とトライアルを進め、物流事業者はそれらの要望に的確に、丁寧に応じることが求められてきた。
 
 そのうえでの、昨年以降の新型コロナウイルスの感染拡大である。海上コンテナマーケットの混乱で、本船スペースや空コンテナの不足は現在も続き、運賃は過去最高レベルに高止まりし、諸チャージも値上がりをし続ける。海上貨物の“船落ち”が拍車を掛けて日本発航空輸出混載は急増、旅客便が激減したままの中で、成田空港の貨物量は今年3月に開港以来最多の重量に達した。
 
【『コロナ禍の国際輸送入札<海運編>』 コンテナ長契交渉、岐路に立つ日本市場 安定輸送実現へ、値上げ
でもなお課題】
 
 「海上コンテナ貨物の長期契約交渉が始まりつつある。先行して妥結した海外では、スポット市場の高騰を受けて昨年より大幅な値上げが進む。サプライチェーンの深刻な混乱から、荷主はスペースとコンテナ確保を最優先し、日本でも値上げの実現自体は確実視されている。ただ、需給ひっ迫で急騰するアジア出し運賃を横目に、日本の船社関係者は『値上げしても、日本の水準で本当に船積みをコミットできるだろうか』と不安を口にする。「長期安定」を名目に、長らく他のアジア各国と別扱いされてきた日本市場だが、スペースとコンテナをめぐる世界規模の取り合いの中で、新たな岐路に立たされている」(今年1月15日付)
 
【『コロナ禍の国際輸送入札<航空編>』 長期契約激減でスポット契約軸 航空入札一変、荷主物量確約を】
 
 「旅客便の大幅減便・運休が続く中、国際航空貨物輸送の入札が一変している。荷主が21年度の起用フォワーダーを選定する入札では、高止まりする運賃のさらなる上昇リスクや、目まぐるしい変動も受け、多くが長期契約からスポット契約に切り替えるもよう。大手日系フォワーダーは現段階で、長期契約を求める日系大手荷主は1%未満とする。安定した航空輸送を維持するためにも荷主に安定した物量を求め、キャリアとの交渉に臨み、サプライチェーン維持を図る」(同1月18日付)
 
 激変の最中にある国際物流。危機時はもちろんのこと、港湾混雑とドレージ不足、開催未定なものの東京五輪・パラリンピックへの対応と、さまざまな課題が山積している。有事に社会生活を支える「エッセンシャルワーカー」たる物流事業者にとって、「物流BCP」の言葉に託された重みは、大きい。
 
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■日本通運
グループ運航の内航船活用へ体制整備
 
 日本通運は、BCPに対応する輸送手段として、東京を基点に北海道、九州・瀬戸内の両航路に就航している自社グループ運航船「ひまわり」5隻の活用を中心に検討している。最近では、2018年の西日本豪雨への対応で北海道航路船を西側航路へ投入し、鉄道コンテナの代替輸送を行った事例や、今年2月には東京五輪・パラリンピックによる東京港の混雑対応を想定した実証実験を行った事例がある。指定公共機関でもある同社は、災害時などの緊急時のBCP対応として、公共機関や荷主による要望があれば、同船をスポット輸送に対応すべく体制を整えている。
 
 同社の内航RORO船「ひまわり7・8・9」の3隻は、東京―北海道(苫小牧・釧路)航路に就航し、週5便のサービスを提供している(各船トレーラー172~177台、乗用車95台積載可能)。特に「ひまわり8・9」の2隻は、17年就航と船齢の若い新鋭船で、青函エリアで規制を受ける危険品輸送対応として、RORO船では類を見ないという暴露甲板積載の設備を有している。
 
 東京―九州・瀬戸内航路の「ひまわり5・6」は、商船三井フェリーの同型2隻を加えた4船体制での東京―博多間の週6便運航に加え、東京向け上り便では大分・岩国・松山に寄港している(各船トレーラー160台、乗用車251台積載可能)。
 
 どちらの航路においても、トレーラーシャーシだけでなく、他船社との差別化として、オリジナルの内航用12フィート(5トン)コンテナを中心とした各種タイプのコンテナに対応しており、さまざまな輸送ニーズに応えることができる。
 
 さらに、同社ではモーダルシフト対応商品の開発を進めており、内航定期船と鉄道輸送の両方で使用可能な12フィート(5トン)型のハイブリッドコンテナをここ5年間で整備し、今後も継続的に新造コンテナを導入していく予定だ。ハイブリッドコンテナの特徴は、ツイストロックに加えて、コンテナ中央部で固縛する日本貨物鉄道(JR貨物)のアンカー緊締式に対応できる仕様だ。外装には内航船用番号とJR貨物コンテナ番号が併記され、内航と鉄道双方に即時積載可能である。
 
 たとえば、本船揚げ地の港頭地区から中長距離の内陸地への陸路輸送を従来のトラックに代わって鉄道で輸送するといった、SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みの一つである環境配慮の実現に向けた有効な手段となる。また、ハイブリッドコンテナを使用することで、悪天候などで鉄道輸送が不通になった区間で同社の内航定期船輸送に切り替えることも可能となり、緊急時に有効な輸送手段の一つとなる。
 
 国内定期船部の高梨祐二次長は、「陸路に比べて、海上輸送は気象海象などで輸送障害が起きても(港湾などへの影響がない限り)リカバリーが比較的早いといえる。BCP対応の観点から、荷主の取り組みとして、一つの輸送モードに偏らない輸送計画を日ごろから実施していくのが有効と考える」と話す。
 
 内航RORO船事業でもコロナ禍の影響を受けているが、北海道発はメインカーゴの製紙関連が荷主の再編により荷量が大幅に減少、九州発は競合する関東までの長距離のトラック輸送が減っていないという従前からの背景にさらに追い打ちをかけており、いずれも厳しい状況は同じだが、航路によって取り巻く環境の違いがあるという。同部の牧野繁徳専任部長は「どちらの航路も東京発の消費財関連は堅調だが、北海道や九州からの生産財を中心とする貨物が伸びを欠いている。地方発の営業に力を入れていきたい」とする。
 
 同社は、トラック、鉄道、海運、航空の各輸送サービスを網羅的に展開しており、近年、豪雨や地震、台風、大雪などと毎年のように大きな災害が発生し、コロナ禍による突発的な制限なども起こる可能性がある中で、内航船に加えて、各輸送モードを駆使し、ドア・ツー・ドアの一貫輸送を日通グループで担えることは武器になる。
 
 トラック業界では改正労働基準法が24年4月に施行され、ドライバー不足が年々深刻化する中で、一層の輸送能力の減少が懸念されている。代替手段の一つとなる内航RORO船は同社の「ネットワーク商品」の一角であり、「東京港を基点とするという他社にはない強みを生かし、これからも日通だからこそできる一貫輸送サービスを提供していく」(牧野専任部長)とし、近い将来に起こると想定される急激な環境の変化に対し、モーダルシフトの受け皿となるべく、既存航路の拡充と有効な寄港地模索など、意欲的な航路運営を行っていく考えだ。