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2021年10月8日無料公開記事

【通関業の日特集】 制度改革で在宅通関に追い風、課題も

東京港

日本通関業連合会 岡藤正策会長

 2017年10月8日に約50年ぶりに通関業法が改正されたことを記念し、翌年10月8日に制定された「通関業の日」は今年で4回目を迎える。17年10月の通関業法の改正では、輸出入通関申告官署の自由化や通関士の在宅勤務が認められた。官署自由化はこれまで自然災害の発生時などのBCP(事業継続計画)で利用が拡大したが、コロナ禍では在宅通関利用の機運も高まった。関税局が昨年3月、コロナ対応で弾力的に在宅通関にかかる申請の条件を緩和したことも追い風となった。コロナ禍2年目では、当局が弾力的措置として認めていた在宅通関の条件を正式に採用した。申請対象者はコロナ終息後も在宅勤務を継続できることとなった。ただ、足元の実施状況を地方通関業会に聞くと「『コロナ慣れ』で取り組み姿勢が弱まった」「業務内容に在宅勤務が適さず、取りやめた店社もある」との声も挙がる。(山﨑もも香)
■首都圏と地方でも取り組みに差
 
 コロナ以前の昨年2月末時点、在宅通関にかかる申請の対象者数は約20人で管理職など一部に対象者を絞って申請しているケースなどがあった。それがコロナ禍では4000人以上に急増した。関税局が昨年3月に弾力的措置として、これまで求めていた在宅勤務に関する項目を具備した就業規則の提出を不要とし、情報セキュリティが確保されていることを条件に在宅通関を認めたことで一気に申請が増えた。さらに今年7月、当局は弾力的措置として認めてきた条件を正式な要件とした。「昨年度に弾力的措置として在宅通関を運用した結果、特に問題が発生しなかったため正式な採用に至った」(同局)という。
 
 在宅通関の利用拡大に向けた制度の見直しが進む一方、各地方通関業会に会員企業の取り組み状況を聞くと「コロナへの危機意識が弱まり、取り組みが減っている」「昨年度は実施していたが、うまく運用できずに通常業務に戻してしまった店社も少なくない」といった話があった。紙ベースの業務が多く、自宅での就業環境の整備が難しいことや貨物検査の立ち合いなどで現場での業務が発生するため在宅業務が適さないことなどが課題に挙がった。
 
 就業環境については、パソコンやプリンターなど機器の設置を必要とする事業者も多い。「特にプリンターは自宅への設置が難しく、対応できる業務が限られたり、会社での業務よりも効率が下がったりすると聞く」といった声もあった。情報セキュリティの確保も肝要だ。自宅で行う業務について文書管理の重要性を家族にも理解を得ているか、パソコンにはウイルス対策ソフトが入っているかなどの確認が必要となる。
 
 貨物検査の立ち合いなどで現場業務が発生する点からも、在宅で全ての業務を完結することは困難だ。そのため、事業所の通関士の一部を出社勤務として在宅通関に取り組む事業者も多い。ただ、この場合は在宅勤務中の通関士が出社している通関士に社内でしか対応できない業務を依頼するなどして、負担が偏る点も課題となっている。その中で、「石油など定期的に同じ貨物を輸入している店社では、複雑な申告が発生しないために事業所の全ての通関士で在宅勤務を実施できている例もある」といった声もあった。
 
 地方と首都圏でも取り組みに差が生じている。地方では、会員店社のほとんどの事業所で在籍する通関士が1~2人といった地域もあり「人数が少ないために昨年度を含めて実施できていない店社がほとんどだ」といった声もあった。また、同じ会社内でも首都圏の事業所でのみ、在宅勤務が実施されている例もあるようだ。地方では、首都圏や大都市に比べて緊急事態宣言の発令が少なく業務を継続しやすいことや、通勤時に自家用車などを利用するケースも多いことなどから在宅通関を実施する必要性が薄まっている点も取り組み状況に影響している。
 
■在宅通関拡大へガイドライン作成
 
 一方、働き方改革として在宅通関を利用するケースもある。具体的には、育児中の通関士を優先的に在宅勤務として、その他の通関士で出社あるいは在宅による通関業務を実施している例などがあるという。「育児・介護中などの通関士にとって、在宅通関の実施は選択肢が増えて働きやすくなったと考えられる」とした声があった。
 
 在宅通関の利用拡大に向けた支援も進んでいる。例えば、神戸通関業会では会員企業向けに「通関業者のための在宅勤務ガイドライン」を提供している。厚生労働省が作成した「テレワークにおける適切な労働管理のためのガイドライン」などを参考に兵庫労働局からの助言も受けて独自に作成した。在宅勤務やサテライトオフィス勤務の開始手続き方法や書類管理・情報セキュリティについて定めた社内管理規則の作成に関するポイント、在宅でNACCS業務を行う際の仕様説明などを記載している。7月に実施された通関業法基本通達の改正を受けた際など適宜内容を刷新するなどして、最新の情報を盛り込んで会員店社の在宅通関をサポートしている。
 
■コロナ禍で新たな立て替え金問題
 
 そのほか、通関業界では引き続き関税・消費税の立て替えも問題となっている。特にコロナ禍で社会全体の景気動向が不透明の中、立て替え金の回収にかかるリスクも高まっている。通関業者はリスクを取って案件を引き受けるか、あるいは断るかといった判断を下さなければならない。
 
 関税・消費税の立て替えの現状について、昨年度にある地方通関業会が会員向けに実施したアンケートによると、回答があった会員店者で立て替えを実施していると回答した店社は93社、実施していないとした店社は16社だった。回答があった店社の8割以上が関税や消費税の立て替えに対応していた。また、立て替えを実施している事業者の8割以上が手数料なしで対応しているといった結果も得た。「他の通関業者と比較されるため、無償で立て替え払いに対応せざるを得ないなどの意見がある」という。
 
 さらに、コロナ禍の通関業界では国際物流の混乱も影響し、一部物流コストの立て替えも発生しているという。「コンテナ不足によるフリータイム縮小などが影響し、コンテナ確保のための費用やコンテナヤード内のハンドリング費用の立て替えなども発生しているようだ。コロナ前では聞かない話だった」といった声があった。
 
 関税・消費税の立て替えは、「従来からの課題であり、根強い問題と認識している」といった声が挙がるものの、各社がサービスとして提供しているために自由競争の観点から制限はできない。日本通関業連合会では、リアルタイム・オンライン口座振替方式や納期限延長制度などの利用拡大を積極的に推進している。また、昨年度からはクラウドファクタリング・サービスの紹介も開始するなどして、セーフティネットの拡充を進めている。
 
【インタビュー】
日本通関業連合会会長・岡藤正策氏
専門性向上、多様性推進に注力
 
 日本通関業連合会は、コロナ禍や経済連携協定(EPA)の発効で変化する事業環境を注視し、通関士の業務支援・地位向上に取り組んでいる。特に通関士の専門性向上やダイバーシティ推進に注力する。2017年10月8日に約50年ぶりに大幅な通関業法の改正が行われたことを記念して定めた「通関業の日」を迎えるにあたり、岡藤正策会長に話を聞いた。(文中敬称略) 
 
 ――通関業界を取り巻く環境は。
 
 岡藤 コロナ禍でテレワークが広まった。昨年は関税局が在宅通関にかかる規制を緩和した。コロナは1~2年で終息するといった楽観的な見方が薄まり、現在は「ウィズコロナ」が意識されている。リモートワークを恒久的に導入する必要がある。取り組みに差はあるが、リモートワークは浸透してきている。今後は業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)化が肝要だ。現在はペーパーとデジタルの混在で非効率な業務や在宅で対応できない業務などがある。社内手続き、受注方法、通関後の処理のデータ化が必要で中長期的にDX化を推進したい。
 
 ――注力する活動は。
 
 岡藤 一つは通関士の専門性の向上だ。多層化するEPAの発効で業務の複雑化が予想される。通関士にはコンサルティング能力も求められることから、通関士向けの研修内容を拡充する。具体的には、上級者向けでEPAの原産地や節税に関する研修を企画する。二つ目はダイバーシティの推進だ。鈴木宏前会長が立ち上げ、昨年度まで実施した「女性通関士の会」をバージョンアップさせる。性別や勤務地などさまざまな背景を持つ通関士と意見交換し、業界の方向性を議論する場を設ける。
 
 ――今後の活動方針は。
 
 岡藤 改めて通関業はエッセンシャルビジネスだと感じている。通関士は高い意識を持ち、リモートワークも難しい状況で奮闘している。そうした人たちが報われ、仕事に誇りを持てるように活動する。また昨年、関税局が税関運営の中長期ビジョン「スマート税関構想2020」を公表した。われわれも国が示した方向性に呼応して通関業務の向上を図る。
 
 【略歴】(おかふじ・せいさく)立教大卒。1974年阪急交通社(現・阪急阪神エクスプレス)入社。2010年代表取締役社長、18年 から代表取締役会長。12年 から航空貨物運送協会(JAFA)副会長、15年日本通関業連合会理事、18年同会副会長、19年から同会会長。兵庫県出身。70歳。
 
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財務省関税局業務課長・小多章裕氏
BCP対応拡充と働き方の多様化を支援
 
 「通関業の日」をお祝い申し上げる。また、日夜、貿易関連業務に従事する通関業者は、コロナによる社会経済への影響が続く中で国民生活の維持に不可欠な社会基盤を支えるエッセンシャルワーカーと認識している。この場をお借りして通関業者や円滑な物流に貢献する皆さまに敬意と感謝を表する。
 
 日頃から関税・税関行政にご協力いただき、厚く御礼申し上げる。来年、税関は1872年の発足から150周年という大きな節目を迎えるが、税関の歴史は通関業者とともに歩んできたものだ。
 
 その直近の例としてコロナ禍における通関業者の出勤回避への取り組みの支援がある。通関業務の在宅勤務に関する制度は2017年の通関業法の改正時に整備されたが、昨年3月にコロナ禍で出勤回避の必要から通関業者で情報セキュリティ確保の体制が実質的に整備されていると認められる場合に在宅勤務・サテライトオフィス利用の要件の緩和を実施した。
 
 さらに今年7月には、通関業者のBCP(事業継続計画)の幅を広げることや従業者の働き方の多様化も念頭に取り扱いを恒久化した。結果、通関業者の在宅勤務・サテライトオフィスの利用は飛躍的に増加することとなった。この過程での実態把握や課題の明確化は通関業界の協力により実現したものであった。改めて、関係者の皆さまの労を多としたい。
 
 財務省では、税関150周年の節目を新たな時代を切り開く契機とすべく、デジタルトランスフォーメーションなどの社会・経済の変化に対応した関税・税関行政の見直しを進めているところである。ただ、この新たな時代においても通関業者が税関にとっての重要なパートナーであることは何ら変わらない。引き続き、皆さまからのご意見・ご要望を承り、緊密な連携を図りながら関税・税関行政を運営していく所存。より一層のご協力をお願いしたい。
 
 【略歴】(おだ・あきひろ)。1998年4月大蔵省(現財務省)入省、2009年7月財務省関税局参事官室(国際機構)参事官補佐、10年7月米州開発銀行審議役、14年1月特定個人情報保護委員会事務局総務課課長補佐、同年7月財務省大臣官房政策金融課課長補佐、15年6月関税局第一参事官室関税地域協力室長、16年6月内閣法制局参事官(三部)、21年7月から現職。
 
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函館通関業会・熊坂高会長
通関士地位向上と持続可能な社会を
 
 今、わが国は、デジタル庁の設置など本格的なデジタル化の波が押し寄せてきており、パラダイムシフトが起きている。通関業界もこの大きな流れに順応できるよう、変化を的確に捉え対応をしていくことが重要だ。一方、デジタルは必要なツールではあるが、通関業務のデジタル化が進んだとしても、複雑・困難な通関業務は多面的な手続きや検査立ち会いなどのアナログ的な要素も多く、通関士は不可欠なものである。今後も、通関士の社会的な地位の向上と持続可能な共生社会の実現に向けて活動を進めて行く。
 
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東京通関業会・曽根好貞会長
BCP対応と業務継続性を確保
 
 「通関業の日」制定から4年目を迎えた。東京通関業会は、新型コロナウイルス感染拡大が続く中、エッセンシャルワーカーとしてBCP(事業継続計画)対応策と業務継続性の確保を図り、国際物流の円滑化、適正通関に努めている。テレワーク、サテライトオフィスなどの活用による業務サービスの維持にも努めてきた。さらには「通関業者による関税など立て替え払い問題」の解消にも取り組んでいく所存だ。今後とも、国民の皆様のなお一層の信頼をいただけるよう全国各地区通関業会と共に責任を果たしていく。
 
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横浜通関業会・辻克行会長
情報提供で円滑な業務遂行に寄与
 
 新型コロナウイルス感染症の拡大や自然災害の頻発などが社会生活に大きな影響をおよぼす中、私たち通関業者は国際物流の最前線に立ち円滑かつ適正な通関を確保するという重要な責務を担っている。コロナの影響が長引いており、終息の時期が見通せない。ただ、当会としてはコロナ対策関連情報の収集と共有化を図るとともに、研修会・通関業務関係の説明会の開催や各種情報の提供を行い、会員の皆様の円滑な業務遂行に寄与していく。
 
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名古屋通関業会・柘植要理事長
積極的な在宅通関への意識改革
 
 名古屋港管内の物流事業者の在宅勤務の比率は2割に届いていない状況だ。BCP対策の一環として、サテライトオフィスや在宅での通関業務の比率を高めていく必要がある。特に、自宅のネットワーク環境の整備、通関書類のペーパーレス化をはじめとする情報セキュリティの確保やテレワーク実施への積極的な意識改革が必要と考えている。通関士のテレワークなどに関する情報や課題などを発信し、通関の現場支援を行っている。
 
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大阪通関業会・米澤隆弘理事長
時代のニーズに即応した支援を
 
 環境破壊による異常気象がもたらす大規模災害が世界各地で発生している。加えてコロナとの戦いは2年近くも続き、海上・航空物流にも大きな影響が出ている。一方、相次ぐEPA発効やeコマース急増など通関業界を取り巻く環境は大きく変化している。エッセンシャルワーカーとして、経済活動の要としての通関士の使命と責任は経験したことがない程重くなっている。当会は通関業者が一層円滑かつ適正な通関を実現し、国民の期待に応えられるよう関係機関の協力の下、会員と共に時代のニーズに即応した事業展開、通関士支援を進める。
 
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神戸通関業会・錦織一男理事長
これからの通関士の在り方を
 
 コロナ対応、メガEPA、港湾の電子化などの環境変化により通関士の役割、果たすべき責務も変化した。迅速・的確に通関手続きを行う仕事から、今後は輸出入者への提案や抱える問題解決などにも通関士の専門知識・ノウハウを発揮する必要がある。当会では環境変化に関連する情報提供、研修・セミナーの充実に取り組むとともに、日本通関業連合会とも連携し、通関士の認知度向上、活躍の場の拡大に取り組んでいく。
 
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門司通関業会・野畑昭彦会長
ワクチン普及、治療薬開発に期待
 
 「通関業の日」制定以来4回目を迎えたが、手放しで喜べない。新型コロナ感染症は仕事のやり方を大きく変え、様々な会合は中止やリモートとなった。仕事の面でも、人と人が顔を合わせて話をする機会が激減した。これで十分な意思疎通ができるのか不安である。今後のワクチンの普及、治療薬の開発に期待して経済活性化のためにも、みんなで飲食をともにしながら会話をしたり、大きな声で歌ったりできる日が来ることを待ち望んでいる。
 
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長崎通関業会・牧文春会長
現在の生活様式に応じて情報共有
 
 当会の特徴のひとつは、会員が九州の西側に点在している事だ。このため会長就任後、毎年各地を訪れ、意見交換を行って地域の通関状況の把握に努めてきた。ただ、コロナ禍では思うような訪問がままならない。加えて、今夏は長期豪雨に見舞われた。その様な状況下で、長崎税関は今年長崎開港450周年の節目を迎えた。脈々と続く歴史の中で現代の生活様式に応じたウェブ会議や講習会などの開催による情報の共有化を図り、エッセンシャルワーカーとして日々の円滑な業務遂行を維持していきたい。
 
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沖縄通関業会・喜納政芳会長
緊密な連携で貿易円滑化へ
 
 沖縄県の通関業界では在宅勤務やサテライトオフィスはほとんど活用されていない。通関業従事者の多数が通勤時間30分から1時間以内に居住しており、通勤手段も自家用車などのためだ。またセキュリティ環境や在宅勤務に必要なインフラの未整備なども要因にある。
 
 通関業務の事業継続については、テロや災害を想定して国や県が提供する情報を適宜入手し、的確な行動をとる必要がある。情報提供を含む支援を強化するなど通関業者をはじめ関係者と緊密な連携を図り、適正通関と貿易の円滑化に努めていく。
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