1. ニュース

特集【無料】

  • twitter
  • facebook
  • LINE

2021年8月27日無料公開記事

【台湾ハブ特集2021】 物流混乱、新たな好機に

 コロナ禍が2年目に入る中、台湾発着トレードが順調に伸びている。輸出・輸入ともに大幅な伸びを示しており、この勢いはまだまだ続きそうだ。スペース不足や運賃高騰といったサプライチェーンの課題はなお残るが、電子部品や液晶、半導体といった品目を中心に貿易が経済成長を牽引している。激変する国際サプライチェーンの中、アジアの中で新たなハブ拠点の確立を目指す台湾の現状を紹介する。
■輸出入とも大幅増
 
 台湾の輸出入貿易が好調だ。台湾財政部の貿易統計によると、2021年上期の貿易額は、輸出が前年同期比で31.0%増の2069億ドル、輸入が28.6%増の1751億ドルとなり、上半期として過去最高の実績を記録した。
 
 前年同期がもともとコロナ禍初期で輸出入量が減っていたこともあるが、世界的なオンラインビジネスの拡大、第5世代移動通信システム(5G)の普及開始など、世界的な環境の変化が台湾にとって追い風となっている。輸出を牽引するのは、集積回路(IC)や情報通信機器だが、これに加えて原油価格上昇や需要増を背景に非金属や同製品、プラスチック、ゴムおよび同製品などが輸出の増加に寄与。仕向地で見ても、主要国・地域向けはほぼ軒並み過去最高を記録している。
 
 財政部は今後の見通しとして、「感染拡大で企業や家庭でのデジタル化が進展し、台湾半導体メーカーの生産能力などの優位性により、下期を通じて引き続き輸出が拡大する」との見方を示している。台湾は、こうした好調な輸出を背景に今年のGDP予測を5.88%増に上方修正した。実現するかどうかは不明ながら、これは10.25%増を記録した2010年以来の高成長となる見通しだ。内需を巡る動向はまだ厳しい情勢が続くが、当面は輸出が台湾経済を牽引する構図は変わらなそうだ。
 
■シー&エアなど新たな需要も
 
 一方で現在は、世界的に海上コンテナ貨物の輸送需要が急増。一方で各地の港湾混雑やコンテナ不足、スケジュール遅延の影響でスペース確保が困難になっており、さらに海上コンテナ運賃も大幅に上昇している。台湾でも他のアジア諸国同様、海上コンテナ貨物の取り扱いも好調に伸びてきた。 
 
 コンテナ需要の推移を見ると、2020年の台湾の港の総処理量は、台北港が162万TEU、基隆港が153万TEU、台中港が182万TEUとなり、さらに最大のハブ港である高雄港が962万TEUだった。台湾全体としては約1459万TEUとなる。
 
 さらに今年1~5月で見ると、特に高雄港以外の港湾での取り扱い増が著しい。高雄港は0.5%増の411万TEUと微増に留まったのに対し、台北港は32%増の84万TEU、基隆港は11%増の65万TEU、台中港は12%増の82万TEUと軒並み2ケタの増加だった。東西基幹航路のサービスやアジア域内サービスが多数寄港する高雄港が、海外港の混雑や輸送スケジュール遅延の煽りを受けて取扱量が伸び悩んだのに対し、代替輸送ルートを求める動きが活発化し、この結果として台北や台中、基隆といった各港の取り扱いが一気に伸びたものと見られる。
 
 また、代替輸送ルートという点では、海上貨物から航空貨物へのシフトという点でも顕著に見られた。台湾を拠点に事業展開する主要フォワーダーによると、今年上期はコンテナ船スペースを確保できないことで発生する緊急輸送貨物、いわゆる“船落ち”貨物が急増。あるフォワーダーは「上期の航空貨物輸出は前年同期比で5割増となり、最近は船落ちだけでなく航空貨物全体が増えている」と話す。台湾発の輸出貨物の増加はもちろんだが、さらにここに来て目立つのが「シー&エア」の増加だ。東南アジア各国で輸出スペースが取れないため、東南アジア各国から台湾まで海上輸送した後、空路で欧米各国に輸送するというルートが脚光を浴びている。今後の動向次第では、台湾をハブとした新たな輸送サービスとして定着する可能性もある。
 
 一方で海上輸送のスペース逼迫は少なくとも年内は続く見通しであるため、この点でも対応が急務。別の大手フォワーダーは「船社との連携強化やコ・ローダーとの関係強化、顧客に対する丁寧な説明による適正運賃の収受など対応に力を入れている」と話す。
 
 このほかコロナ禍のなかで、改めて在庫の持ち方に関して新たな動きも出つつある。従来は極力、棚卸資産を減らすジャスト・イン・タイム方式が主流だったが、サプライチェーンの大混乱を受け、在庫そのものの積み増しや分散化を図る動きも出つつある。アジアにおける新たなハブ拠点として、台湾の立ち位置もより重要なものとなりそうだ。
 
=======================
 
■日本通運
桃園と台南に5年ぶり新倉庫
 
 日本通運は台湾に倉庫2カ所を新設する。現地法人の台湾日通国際物流股份が、5月に台北周辺の桃園国際空港近郊に開設し、9月には台南の科学工業園区近くでオープン予定だ。台湾での新倉庫は同社として5年ぶりとなり、台南地区での日系フォワーダーの倉庫拠点は初めてという。川本勝董事長兼総経理は「桃園では医薬品関連を主なターゲットとし、台南では半導体関連を軸とする。新倉庫を生かして内陸事業を拡大し、フォワーディングと合わせて営業を強化していく」と話す。
 
 桃園の新倉庫は桃園空港と台北港にも近く、台湾最大の消費地である台北、新北の両市に近接した立地だ。倉庫面積約8300平方メートル(2500坪)の内貨倉庫で、主なターゲットを医薬品に据える。同倉庫では現地当局からGDP(医薬品の適正流通基準)・GMP(医薬品の適正製造基準)認証を今年中に取得する予定。航空貨物に関してもGDP認証を来月にも取得予定。台湾でのGDP、GMP認証は同社として初めて。現在、健康食品などの取り扱いがあり、両認証の取得後、新倉庫では輸入品を含む一般医薬品(OTC)や医薬品原料などを扱う計画だ。
 
 台南の新倉庫は、ファンドリー世界最大手TSMCが先端半導体ラインの投資を進める同社のファブのある南部科学工業園区台南園区にも近く、庫内には保税スペースも設ける予定。半導体関連の材料や製造装置の保守パーツなどに主軸を置くほか、周辺には化学や繊維産業も集積しており、保管・輸配送拠点としての活用に加えて、保税機能を活用した輸出入貨物の取り込みも狙う。
 
 台湾日通の今年上期の取扱量は、航空輸出が5割増、海運輸出が3割増。2019年比でも、いずれも物量を大きく伸ばした。同期の航空輸入、海運輸入はいずれも3割増。好調な取り扱いを受けて同期の売上高は4割増だった。
 
 台湾日通は6月時点で18拠点を置き、従業員約500人、うち日本人駐在員8人。台南倉庫開業後の総倉庫面積は計7万500平方メートルで、自社車両は22台を運行する。
 
=======================
 
■近鉄エクスプレス
航空輸出でトップ3入り目指す
 
 近鉄エクスプレスの台湾現地法人、近鐵運通(以下、KWE台湾)はフォワーディング取扱量の拡大を推進していく。同社は台湾での航空輸出取扱実績(重量ベース)で第5位に位置しており、トップ3入りが当面の目標だ。スペース不足が慢性化する中でもTPEB(アジア発北米向け)を拡大するという全社方針の下、積極的な仕入れ強化に取り組み、航空輸送を中心に取扱いを伸ばしている。サプライチェーンの混乱に対応するソリューションも提案し、物量拡大を推し進める。
 
 直近数カ月、台湾発全体の航空輸出重量が対前年で5割前後の増加で推移する中、KWE台湾は8割増と市場の成長を上回り、物量を増やしている。この他、航空輸入は件数で3割増と堅調。海上輸送もスペースひっ迫、コンテナ不足で予約が困難な中、輸出・輸入ともに前年並みの取り扱いを維持している。 
 
 KWE台湾の白杉庄一郎取締役社長は「今期は特に航空貨物を拡大する」との方針を示す。ブロック・スペース・アグリーメント(BSA)の拡大などにより、マーケット規模の大きい北米向けの強化を図るほか、中国、香港、韓国など東アジア域内の輸送力強化を進めていく。
 
 KWE台湾ではまた、アジアと欧米間の輸送を仲介する代替輸送ルートの提案やサービス提供にも注力。東南アジア各国は、航空輸送では貨物便の発着が少ない問題を抱え、海上輸送ではスペース供給、リードタイムの不安定な状況が継続している。同社では東南アジア各国からいったん海上で台湾へ輸送し、アジア各国や欧米への航空便に搭載するシー・アンド・エアや、欧米・アジア各国から東南アジアへ向けた貨物便の積み替え輸送といった取り扱いを行っている。
 
 ターミナル倉庫や税制優遇措置などを活用したサービスも提供していく。同社は台北・桃園空港の背後地にある自由貿易区(FTZ)内に4万平方メートル規模のターミナル施設を有する。同施設では保税倉庫での非居住者在庫サービスなどを提供でき、アジアでのハブとしての需要が増えているという。保税機能を生かしたバイヤーズコンソリデーションなどのサービスも強化していく考えだ。また、同施設では冷凍/冷蔵の温度管理施設も備えており、医薬品の取り扱い拡大に向け、今年7月には同施設を拠点とした輸出入・保管サービスに関するGDP(医薬品の適正流通基準)認証を取得した。さらには簡易加工(医療機器薬事ラベル貼付、仕分け等)に必要なGMP(医薬品の適正製造基準) 認証取得の準備も開始しているという。
 
=======================
 
■TIPC
競争力強化へ、新マスタープラン
 
 台湾のハブ戦略を担うTIPC(台湾港務)はコロナ禍の中、新たな競争力強化に向けて新たなマスタープランを策定した。今後、行政院の承認を経て関連プロジェクトを推進するとともに、インセンティブ制度やターミナル計画、自由貿易区の投資促進などさまざまな取り組みを開始する予定だ。
 
■4本柱で取り組み推進
 
 TIPCは2012年、台湾政府全額出資の港湾運営会社として発足。高雄、台北、基隆など国際港湾7港、国内港湾2港について港湾運営を担っている。
 
 これまで台湾各港のデジタル化やインフラ開発、自由貿易区(FTZ)開発や海外投資など、さまざまな取り組みを通じてハブ港戦略の拡大に取り組んだTIPCだが、今年は「コアビジネスを安定させつつ、多様な展開を拡大する」という戦略のもと、(1)コアカーゴビジネスの集約(2)資産投資の活性化(3)事業領域の拡大・多様化(4)スマートポートへの転換」という4本の柱を策定した。(1)では今年、「台湾国際商業港の将来的な発展と建設のためのマスタープラン(2022~2026年)」を行政院に提出。港湾競争力の強化により、海外からの投資を呼び込み、寄港サービスの拡充や港湾の処理能力拡充を図る方針だ。
 
 新しい取り組みとしては、(3)の「事業領域の拡大と多様化」が挙げられる。昨今の環境負荷低減の流れに合わせ、台中港と台北港を洋上風力発電の拠点として位置付け。風車のタービン組立、タービン製造の現地化や運転・保守、トレーニングセンターと4項目を柱に事業計画を進めており、最近では新たに新会社「台湾国際風力発電訓練(TIWTC)」を設立している。
 
■インドネシア事業、着実に成長
 
 台湾はこれまで、アセアン諸国や南アジアとの関係強化を目指し、新南向政策を推進してきた。以前より、中国や韓国の釜山が東アジアのハブ拠点として存在感を高め、高雄港など台湾のハブ拠点は取扱量が伸び悩む傾向があった。しかし、東南アジア各国の経済発展に加え、荷主の東南アジアシフトが強まってきたことで、東アジアと東南アジアの結節点に位置する台湾が再び注目されている。アジア地域の国際サプライチェーンにおいて、これまで上海や釜山などがハブ拠点としての比重が高かったが、東南アジア発着の物量拡大を背景に状況は変化してきた。特に新型コロナウイルスの影響で、サプライチェーン見直しや調達多様化の必要性が再認識されるなか、この傾向はより一層拍車がかかってきた。
 
 TIPCは18年から、この新南向政策に基づいて海外投資を積極化してきた。最初の投資先として選んだのはインドネシアだ。同国の経済成長や2億4000万人の人口に支えられた市場規模、台湾との関係性などから選定したもの。このため、同じ台湾の大手船社の1社であるヤンミンと提携する形で、18年5月にインドネシアのスラバヤに物流会社「PT.Formosa Sejati Logistics」を設立。現在、同社はスラバヤの港湾付近でコンテナデポや倉庫・物流サービス、その他の港湾関連サービスを提供している。開業から3年経ち、新規顧客の開拓や利用増が進んでおり、TIPCは「効率的な経営を心掛けることで着実に事業成長が進んでいる」としている。
 
■港湾IT化を積極推進
 
 港湾分野のデジタル化で注力するのが「Trans-SMART」戦略だ。
 
 この計画は、ビッグデータ、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)などの新興技術の発展に伴い、スマート技術を用いて革新的で先進的、持続可能な近代港湾を実現するというビジョンのもと取り組みが進められている。革新的なIT技術の導入によって港湾運営における安全性と効率性の双方を強化することを狙っており、その範囲は海運、貨物輸送、港湾管理などさまざまな分野をカバーし、具体的なアクションプランも検討・実施されている。
 
 海上輸送分野では、「ポートセキュリティシステム」「船舶航行支援システム」「インテリジェントパーキングシステム」「インスタントウェザーサービス」などが既に導入されている。船舶航行支援システム(Ship Navigation Aid System)は、過去のビッグデータを分析して最適な航路と必要なパラメータを算出するもの。入港した船の現状と最適化された進路や方位、速度などの数値を比較。船の航行に異常が見られた場合、システムが警報を発し、VTSのスタッフが船上のパイロットや船長に早期に警告を発し、衝突可能性を回避することができる。
 
 さらに陸上輸送分野では、昨年に「ポートセキュリティシステム」の導入を完了。高度な監視装置を利用して港全体の情勢をモニタリングし、港内で発生したさまざまな状況に対してスタッフが迅速に対応できるような体制がとられている。
 
 ターミナル運営そのものについてもデジタル化を進め、今年は「Trans-SMART 2.0 Plus」の推進を図る。港湾環境、船舶の接岸、荷役、輸送、環境モニタリング、港湾施設の検査などの重要な領域に焦点を当て、ビッグデータ分析、モノのインターネット、AI、自動運転車などの技術応用を組み合わせにより、港湾運営の効率化を図る。
 
■FTZ、21年は取り扱い回復へ
 
 海外投資や国内でのインフラ整備と歩調を合わせる形で、TIPCはFTZの利用拡大にも力を入れる。FTZは現在、台湾内で基隆、台北、台中、安平、高雄、蘇澳の6カ所に加え、桃園空港近郊も加えた計7カ所に設置済み。従来のILC(国際物流中心)制度では、保税状態での在庫が可能であるのに対し、FTZでは域内での加工や委託加工が可能となる。いずれも港湾や空港などの隣接地に指定されており、輸出入のトランジット貨物を主眼に海外から物品を輸入し、それらを加工してさらに他国に輸出するようなサプライチェーンの実現を描いている。
 
 TIPCによると、昨年こそパンデミックの影響でFTZでの取扱量は減少したものの、その後経済活動の再開に伴い、取扱量は堅調に推移しているという。
  • 会社要覧24年度版 発売