2020年3月12日無料公開記事
【大阪税関・大阪通関業会特集】 電子部品・機械類の輸出増に期待 医薬品輸入額が伸長
大阪税関の本関の入居する大阪港湾合同庁舎
大阪税関は近畿・北陸の2府6県(大阪府、京都府、和歌山県、奈良県、滋賀県、福井県、石川県、富山県)を管轄している。管内には大阪港や関西国際空港をはじめとする12の海港(開港)と2の空港(税関空港)を抱える。2019年(1~12月)の輸出総額、輸入総額はともに3年ぶりのマイナスだった。管内では、半導体など電子部品や機械類の輸出が多く、経済連携協定(EPA)の活用での輸出増にも期待が集まる。輸入では医薬品も伸びている。大阪税関と大阪通関業会の活動概況を報告する。(山﨑もも香)
大阪税関の19年(1~12月)の管内の輸出入総額は前年比5.1%減の21兆7061億円。輸出額は5.3%減の10兆5965億円で3年ぶりの減。中国や韓国向けの低調が目立ち、アジア向けの輸出額は7.2%減の7兆2976億円、北米向けも3.8%減の1兆4145億円だった。主要な輸出品目は半導体など電子部品などで、同税関管内の輸出総額の17.9%を占める。半導体など電子部品は台湾向けのICが増加しており、単価も上昇しているため、輸出額が増加している。昨年の輸出額は前年比1.3%増の1兆8942億円だった。液晶関連製品などの科学光学機器やコンデンサー、電気回路などの機器など部品関係も増加基調にある。近年では、特にスマートフォンや自動車に使用される関連製品(半導体、コンデンサーなど)の輸出が増えている。コンデンサーは車載用の需要が拡大しており、3.6%増の4169億円だった。一方、液晶パネルや偏光板など科学光学機器は中国向け液晶パネルの減少や一部、在庫調整などもあり、昨年は23.0%減の4972億円。電気回路などの機器は一部に出荷減少があるなどで減少した。
輸入額は5.1%減の11兆1095億円と3年ぶりの減だった。アジア発の輸入額が4.1%減の6兆7025億円、中東発が21.5%減の9420億円と低調だった。輸入の主要品目は原粗油、衣類やその付属品など。近年、輸入額が急増しているのが医薬品だ。難治性の病気に対する治療薬などの需要が増えている。高価格の医薬品や試験研究用の単価が上昇しており、昨年は輸入額が24.4%増の9558億円で過去最高だった。一方、原油や粗油は単価下落や一部輸入者が他港で通関したこともあり、輸入額が減少した。通信機は大手販売店でも一時に比べて売行きが良くないところもあり、昨年の輸入は減った。衣類やその付属品は大きな動きはなかった。
■国際拠点として長い歴史
大阪税関の前身は1867年に現在の大阪市西区に設置された「川口運上所」だ。その後、川口運上所は「大阪運上所」に改称され、72年には運上所を「税関」と呼称統一することが決まり、73年に大阪税関と改められた。大阪は江戸時代には「天下の台所」と呼ばれ、全国から物資が集まる経済・商業の中心地として栄えた。大阪港が開港したのは、川口運上所が開設された翌年の1868年だ。ただ、同港の歴史はさらに古く、古代から住吉津、難波津と呼ばれ、小野妹子が難波津から遣隋使として隋に向かうなど国際交易の拠点として重要な役割を果たしてきた。97年には築港工事も始まり、1938年には貨物取扱量が日本一となった。近年では、2007年12月に港則法施行令改正によって大阪港、神戸港、尼崎西宮芦屋港の3港で一開港化した「阪神港」が誕生した。阪神港は国際コンテナ戦略港湾にも指定されるなど、国際拠点港としての大きな役目を担っている。また、関空は1994年9月に開港した。4000メートル級の2本の平行滑走路を有する完全24時間運用の空港だ。昨年の港別貿易額では、輸出入総額で関空が全国5位、大阪港が7位だった。両港ともに日本の重要な物流拠点として位置付けられている。
■関空の輸入額、医薬品が2割
大阪港と関西国際空港の概況を見ていこう。大阪港の昨年の輸出額は11.0%減の3兆7742億円。輸出の主要品目は半導体やコンデンサー、プラスチック(液晶関連の部材)など電子部品関連だ。半導体など電子部品は、同港の輸出額全体の13.2%を占めている。輸入額は3.9%減の4兆7757億円だった。輸入の主要品目は衣類など繊維製品や肉類などの食料品だ。衣類やその付属品の輸入額は輸入総額の15.0%。また、同港の貿易相手国は輸出、輸入ともにアジアが中心だ。特に中国は同港の輸出総額の約3割、輸入総額の約5割を占める最大の貿易相手国だ。
関空の昨年の輸出額は1.5%減の5兆1895億円。2年連続のマイナスだった。輸出の主要品目は半導体など電子部品や電気回路などの機器、科学光学機器(液晶関連製品)だ。半導体など電子部品は同空港の輸出額全体の26.2%を占めている。輸入額は0.5%増の3兆9669億円。3年連続のプラスだった。輸入は医薬品のシェアが高く、輸入総額の23.2%を占める。その他、携帯電話などの通信機や半導体など電子部品の輸入額も高い。貿易相手国は輸出、輸入ともに中国のシェアが最も高く、輸出入額の約4分の1を占めている。
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【INTERVIEW】大阪税関長・中山峰孝氏
インフラ面、EPAが貿易を後押し
大阪税関は管内に関西国際空港、大阪港の2大港を抱える。2019年(1~12月)の管内の輸出入貿易額は21兆7061億円で、全国シェア14.0%を占めた。阪神港は「国際コンテナ戦略港湾」に指定され、現在、国会審議中の関税法改正案が成立すれば、今秋にもとん税・特別とん税が軽減される見通しだ。これにより、コンテナ取扱量の伸びも期待される。今年1月に発効した日米貿易協定による一部工業産品の段階的な関税削減・撤廃も貿易面での追い風となりそうだ。中山峰孝大阪税関長に概況を聞いた。(文中敬称略)
――管内の概況は。
中山 昨年は全国で輸出入額が前年比でおおむね5%低下した。当関管内の輸出入額も5%ほど減った。輸出入額の全国シェアは18年と同等の14.0%。全国のトレンドに沿っている。管内では近年、旅客が増加している。昨年は関空の入国者数が前年より約10%増えた。職員には気を引き締めて、業務に取り組むように指示している。
――近年の管内の動きは。
中山 阪神港が国際コンテナ戦略港湾に指定されており、大阪港については、17年から3年連続で取扱量が200万TEUを超える見込みだ。20年度の関税法改正案が成立すれば、阪神港を含め、京浜港、名古屋港、四日市港の4カ所の国際コンテナ戦略港湾を対象に、欧州・北米航路のコンテナ貨物定期船が入港する際のとん税・特別とん税の軽減制度が実現する見通しだ。現行1トン当たり108円のとん税・特別とん税が54円(とん税24円、特別とん税30円)に減額される。成立すれば、今年10月1日から施行される予定だ。大阪港の貿易拡大に影響すると見ている。
――日本を巡るEPA(経済連携協定)の発効が続く。
中山 現在、世界貿易機関(WTO)交渉が事実上ストップしているので、日本が貿易の円滑化や自由化を進めるには、EPAを活用せざるをえない状況だ。当関では、日本貿易振興機構(ジェトロ)や商工会議所、貿易協会などのセミナーで制度を解説し、EPA利用を促している。18年12月にはTPP11(米国を除く11カ国による環太平洋パートナーシップ協定)、また19年2月には日EU・EPA(日欧経済連携協定)、今年1月には日米貿易協定がそれぞれ発効した。いずれも原産地証明で自己申告制度のみを採用している点が特徴だ。第三者証明が不要で、貿易の円滑化が図られる期待がある一方、輸出入事業者らが原産地の証明方法に迷うことも多い。セミナーなどで解説し、自己申告制度の活用を支援している。管内は、特に米国向けの機械類の輸出が多い。日米貿易協定による産業機械などの輸出にかかる関税撤廃・削減もさらに貿易を盛んにさせる要因になると期待している。
――管内のAEO取得状況は。
中山 現在、全国でAEO事業者数は710者で、そのうち当関承認・認定の事業者は102者(2月末時点)だ。AEO通関業者は全国225者に対し、管内認定は29者だ。私が昨年7月に大阪税関長に着任して以降、2者を認定した。ただ、管内は中小規模の通関業者が多く、管内通関業者273者のうち、187者が非AEO通関業者だ。今後はこの中小規模の通関業者のAEO取得を増やしていく。AEOを取得すれば、事業者は社内の業務処理体制が整理されるなど、事務の効率化につながるなどのメリットがある。税関では、AEO取得を支援するノウハウを持っているので、前向きに相談してもらいたい。
――急増するeコマース(EC)への対応は。
中山 関西国際空港島内にあり、国際郵便物を取り扱う大阪外郵出張所では、新たなX線検査装置の導入を進め、検査の精度向上と効率化を図っている。ECの取扱件数が増えており、科学的な根拠に基づいたメリハリのある検査を実現する。
――迅速な旅客対応も課題に。
中山 関空では、第1ターミナルの大規模改修工事が計画されており、旅客処理能力が拡大する見通しだ。LCCの就航増加やビザ発給要件の緩和を背景に、同空港の利用者は増えている。今春から、入国時に事前情報などから検査不要と判断した旅客を顔認証で通す「電子申告ゲート」を導入し、利用者の利便性向上を図る。
また近年、管内では大阪港を始め、舞鶴港や金沢港でクルーズ船の寄港が増えている。今年3月からは全国の税関で「クルーズ船パスポートリーダー(CPR)」を用いた検査を行う。卓上サイズのパスポートリーダーで、持ち運ぶことができる。職員が目でパスポートを確認しなくてもCPRにパスポートをかざすだけで旅客の氏名などを読み取って利用することにより、通関などの効率化を図っている。
――今回で2度目の税関長就任。
中山 8年ほど前に名古屋税関長を務めた経験があり、これまでのキャリアでも税関業務に携わることは多かった。現場業務を理解するため、通関士資格も取得した。また、現在の税
関職員の制服は10年前に関税局管理課長を務めた際、私がデザインの決定に関わったものだ。自分自身でも将来着ることを想定していたが、現実に着ることができて感慨深く思う。
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【INTERVIEW】大阪通関業会理事長・米澤隆弘氏
会員企業が値打ちを感じる活動を
大阪通関業会は地域に密着した豊富な情報を会員に提供している。年間を通してさまざまな切り口のセミナーを積極的に開催。大阪府以外の通関業者とも会合を開き、地域ごとの課題にも向き合っている。会員企業向けのアンケートは9つの通関業会の中でもいち早く取り組み、会員の声を反映した。米澤隆弘大阪通関業会理事長(近畿通関代表取締役社長)に取り組みを聞いた。(文中敬称略)
――活動の方針を。
米澤 「会員企業が会費を払う値打ちを感じる活動」をどれだけできるかを考えている。管轄は大阪府、京都府、富山県、石川県、福井県、滋賀県、奈良県、和歌山県の2府6県。会員数は今年2月末時点で250社。例年、おおむね同水準の会員数を維持している。通関業者向けのセミナーなどを毎月開催しており、税関職員から「大阪通関業会は特にセミナーが多い」と言われるほど活発だ。情報提供で通関士の知識や技能向上に努めている。
――地方通関業会としての使命は。
米澤 地域に関わる情報の提供だ。2017年10月の輸出入申告官署の自由化で通関営業所を集約する企業が増えた。その中、神戸へ事務所移転した後も当会に名前を置く事業者もいる。当会は大阪税関職員らと意見交換会を頻繁に開催し、その時々に合わせて地域特有の細かな課題も議論している。大阪港と神戸港が阪神港として運営会社が一つになっていることもあり、当会で得た情報を神戸の事務所で展開する事業者もいるようだ。
――近年の活動概況は。
米澤 昨年は日EU・EPAやTPP11に関する勉強会を実施。参加人数を例年の2倍に増やし、100人規模で開催した。大阪だけでなく金沢でも実施し、税関職員を講師に制度の活用例などを解説してもらった。昨年9月末には、税務署や税関の職員を招いて消費税改正に関わる説明会を開催。221人が参加し、講師らに軽減税率の対象となる輸入貨物などを教えてもらった。そのほか、新たに通関士資格を取得した人への実務研修や大阪税関担当官との連絡会、神戸通関業会との情報交換会なども実施している。
毎年、大阪府以外に所在する通関業者のニーズを把握して業会運営に反映するため、地元での会合を実施している。昨年は福井県の敦賀港、京都府の舞鶴港、滋賀県を訪れた。地域によって考え方に温度差がある。例えば、輸出入申告官署の自由化が始まったとき、地方では地場の業者との付き合いが深く、AEO取得に関心がない事業者も多いと感じた。地方を含めて会員企業の考えを知る機会としている。
――会員企業のBCP(事業継続計画)支援は。
米澤 18年9月には台風21号が関西国際空港を直撃した。その際、早期に物流機能を回復させるため、大阪税関に複数の要望を出した。例えば、通関済みで倉庫に残っていた貨物では、保税地域から搬出されていないものの、被災で貨物の価値が落ちているものもあった。税金を支払ったものの価値がない状態だ。その税金の払い戻しができないかを掛け合い、対応してもらった。被災した保税倉庫の掃除には、貨物を取り出す必要があった。通関処理前の貨物は、被災で貨物の価値が著しく低下していても通関処理しなければならなかった。貨物の正確な価値判断を一時遅らせ、貨物の引き取りを優先できないか交渉し、対応してもらった。BCP対策に申告官署自由化が非常に有効と立証された。認定通関業者増加のため、今後もセミナー開催などの支援を行う。
――会員企業のニーズに応えるための取り組みは。
米澤 毎年、現在の関心事について会員企業にアンケートを取っている。9つの通関業会の中で当会が最も早く実施した。結果は大阪税関に提出している。業界を代表して、会員の要望を税関などに伝えるのも通関業会の大きな役割だ。個別の企業からでは1社の意見と取られかねない事案も、通関業会を通して意見集約することで、業界全体の考えとして受け止めてもらいやすいと考えている。
――通関士の働き方改革の取り組みは。
米澤 昨年のアンケートでは在宅勤務を導入していると答えたのは3件。検討中は前年から3件増えて、6件。今後の課題と考えていると回答したのは43件で前年から18件増えた。徐々に在宅勤務の関心が高まっているようだ。現在、会員企業の中で2社が在宅勤務を登録している(2月末時点)。ただ、2社とも土日や深夜などのイレギュラーな申告に管理者が対応するためのもの。本来の働き方改革のための在宅勤務とは異なっているのが現状だ。当会では、日本通関業連合会で提供予定の、輸出入申告書類の作成業務で通関士らが参照する資料の閲覧や案件管理をクラウド上で行うサービス「JCBAクラウド」の紹介などを行って、在宅勤務導入を支援している。