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2020年3月3日無料公開記事

【茨城の港湾特集】 産業港湾として発展、北関東の玄関口に

常陸那珂港区

鹿島港

 茨城県の重要港湾である茨城港と鹿島港は首都圏に近接する地理的優位性を生かし、北関東のゲートウエーとしての機能強化を進めている。ここ数年は京浜港の混雑や、夏に予定されている東京五輪・パラリンピックによる物流への悪影響を懸念する動きから、荷主が代替利用を検討する動きが高まっている。この結果、両港ともにコンテナ取扱量は急増。増加貨物に対応しつつ、さらなる貨物量の増加に向けてポートセールスやオペレーションの改善に積極的に取り組んでいる。(中村晃輔)
 茨城港と鹿島港は産業港湾として発展してきた。茨城港・常陸那珂港区は、港湾直背後に日立建機やコマツの工場を控え、建設機械の一大輸出拠点としての機能を果たす。中央ふ頭では現在、新たな岸壁整備が行われており、来年度中にも完成予定だ。物流機能が強化され、利便性が高まる見通しとなっている。自動車についても日立港区では日産自動車が輸出拠点、メルセデス・ベンツが輸入拠点として長年活用しており、2016年からは常陸那珂港区でSUBARUが北米向けの輸出を開始した。中古車輸出の拠点としても茨城港は活用されている。

 大洗港区では苫小牧行きのフェリーが就航しており、にぎわい拠点としても名をはせる。公共マリーナをはじめ、マリンタワーやアウトレットなどが整備され観光拠点としての機能が充実しており、「みなとオアシス大洗」として登録されている。

 鹿島港は昨年、開港50周年を迎えた。背後のコンビナートを支える海上輸送基地として発展し、足元では年間6000万トン前後の貨物を安定して取り扱う。最近ではコンテナ航路が増え、取扱量も増加傾向にあるほか、新たな機能として洋上風力発電の基地港湾を目指している。再生可能エネルギーへの期待が高まる中、先月には交通政策審議会港湾分科会で港湾計画の一部変更が了承され、海洋再生可能エネルギー発電設備の設置・維持管理拠点形成区域が設定された。近く、基地港湾として国から指定を受ける見通しだ。

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京浜港の代替で利用高まる
北関東エリアでポートセールス推進


 先月3日、2年ぶりに宇都宮で開催した「いばらきの港北関東セミナー」では、京浜港からの貨物分散化が一つのテーマとなった。京浜港の慢性的な混雑に加え、今夏に開催予定の東京五輪・パラリンピックによる影響から、「本当に港湾物流が回るのか」という懸念の声が上がる。こうした中、茨城県は北関東をターゲットに、安定した物流確保のための代替手段として「茨城港・鹿島港利用」という選択肢を提示する。「東京港一極集中の限界が現在の港湾混雑に表れている。茨城港・鹿島港の利用が進めば、東京港の混雑緩和にもつながるのではないか」(茨城県の港湾関係者)とする。

■道路アクセスで優位、定時性・速達性確保

 茨城県の特徴は多くの産業が集積している点だ。2018年の県外企業立地件数は全国1位で、工場立地件数も全国トップクラス。製造品出荷額などは17年時点で全国7位(12兆2795億円)、農業算出額も4967億円で全国3位となっている。栃木県・群馬県を加えた北関東全体で見ても多くの輸出産業が集まる。

 しかし、大半の荷主は依然として京浜港を利用している。茨城県が国土交通省による18年度のコンテナ貨物流動調査から独自に試算した資料によると、北関東発着のコンテナ貨物は約120万TEUで、そのうちの95%超が京浜港に流れているという。足元では、京浜港周辺の交通混雑や東北南部の港湾における処理能力不足などを背景に、「輸入で最寄りの港湾を使おうというインセンティブが働き、輸入では新規に茨城港・鹿島港を利用する荷主も増えている」(船社関係者)が、「輸出は輸入に比べるとまだまだで、輸出の利用を増やしていくことが今後の課題」(茨城県関係者)となっている。

 茨城港のような地方の港では、京浜港に比べてコンテナサービス頻度が少なく、海上運賃も高い傾向にある。加えて、「京浜港利用から茨城港利用に切り替えると、ドレージ事業者や通関事業者の変更など手間がかかってしまう点もハードルとなっている。特にドレージは人手不足の影響もあり、新たな事業者を起用するとしても車両の確保が難しい」(同)との声もある。

 一方で、茨城港や鹿島港を利用する利点は背後の道路アクセスが充実している点だ。茨城県の青山紘悦港湾振興監は「物流は港湾と道路の連携が重要だ。茨城港へのアクセスでは、北関東自動車道がしっかり整備されており、迅速な輸送が可能で、渋滞も少ないことから輸送時間を読みやすい『安定性』も利用顧客から評価されている」と話す。今後の道路整備計画についても、24年度中に圏央道の茨城県内区間が暫定2車線から4車線へと拡幅されるほか、南北方面のアクセスでは東関東自動車道水戸線の整備推進を国土交通省やNEXCO東日本に対して要望している状況だ。

 茨城港を活用する物流事業者は「北関東から京浜港へは1日1往復が限界だが、茨城港では複数回転が可能だ。渋滞が少なくCO2削減効果も高いほか、時間も読みやすい。安定的な物流を実現できる」とメリットを強調する。現に近年の京浜港の港湾混雑や、東京五輪・パラリンピックによる物流混乱への懸念から茨城・鹿島両港を活用する動きも増えつつある。先月7日には都内で茨城県荷主企業懇談会を開催し、荷主に対して両港のメリットをPRし、さらなる利用を呼び掛けた。

■ICD活用でCRU推進の動きも

 近年問題となっているドレージ不足などを背景に、北関東のインランドコンテナデポ(ICD)を活用したコンテナラウンドユース(CRU)を進める動きも加速している。青山港湾振興監は、「ICDを使ってCRUを行う事業者は、京浜港と茨城港・常陸那珂港区の両方の利用をにらんでCRUを実施する傾向が強い。常陸那珂港区を使っていただける流れが出ていることは非常にありがたく、荷主の選択肢が増えることも良い傾向だと思う」とする。

 例えば、ケービーエスクボタは常陸那珂港区と北関東のICDを利用したCRUを推進している。宇都宮工場と筑波工場から出荷する貨物を対象に、真岡ICD、坂東ICD、つくばICDを活用してCRUを実施しており、常陸那珂港区ではベルーナなど約5社をCRUパートナーとしている。ケービーエスクボタの常陸那珂港区利用の年間コンテナ本数は40フィート型ハイキューブコンテナで約360本となっているが、そのうち約70本でCRUを実現している。武山義知海外物流部長は「今後、行政と民間が協力してCRUを盛り立てていきたい。東京五輪を一つのトリガーに京浜港の慢性的な混雑対策として、常陸那珂港区をますます利用していきたい」と話す。

■新バース駆使し、増加貨物に対応

 貨物量が増えていくとコンテナターミナルの蔵置能力不足やゲート前混雑も懸念されるが、茨城港ではまだまだ増加貨物に対応可能だ。青山港湾振興監は現状について、「以前に比べて蔵置貨物は増えているが、ゲート前混雑や長期蔵置コンテナの滞留によるヤード内のキャパシティー不足は発生していない。しかし、今後も物量や航路数が増えてくると、曜日や時間帯によっては発生する可能性がある。状況を注視するとともに、必要な対策を素早く打てるように取り組む」と話す。

 コンテナターミナルのある常陸那珂港区北ふ頭ではコンテナ貨物とともに建設機械を取り扱っており、蔵置能力が制限されている。現在、対岸の中央ふ頭で新たなバースを整備しており、来年度中にも完成する予定だ。「完成後は少しずつ建機の物流機能を中央ふ頭に移していきたい」(青山港湾振興監)考えで、これにより増加するコンテナ貨物への対応が可能となり、建機にとっても利便性が高まる見通しだ。

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【INTERVIEW】
港湾計画改訂を視野
茨城県・青山紘悦港湾振興監に聞く


 京浜港の混雑回避の手段として注目が集まる茨城の港湾。茨城港ではコンテナ取扱量が急増しているほか、フェリー・RORO航路の機能も充実しており、トラックドライバー不足が進む中、モーダルシフトの受け皿としての役割を果たす。鹿島港では背後に立地する重厚長大産業の物流機能を果たしてきたが、今後は洋上風力発電の基地港湾としての機能強化も進んでいく見通しだ。茨城県の青山紘悦港湾振興監に両港の今後の港湾運営の方針を聞いた。(文中敬称略)

 ――京浜港の混雑を回避する手段として、茨城港と鹿島港を利用する動きが増えており、足元ではコンテナ取扱量も急激に伸びている。

 青山 茨城港では昨年、コンテナ取扱量が初めて4万TEUを上回り、前年比で4割近く伸びた。外貿コンテナ航路数も韓国・中国航路と韓国航路が昨秋時点の週2便から週5便に拡充されたほか、京浜港への国際フィーダー貨物も伸びている。足元では航路が増えることで貨物も増えるという好循環を果たしているが、この流れを加速するため、従来の荷主への助成に加えて、来年度は船社に対する支援も強化していきたい。エリア別では北米向けの集貨に力を入れていきたいと考えており、北米などとの輸出入を行う荷主に対する補助を手厚くしたい。鹿島港もコンテナ取扱量の絶対数は少ないが、伸び率で見ると茨城港より大きく増えている状況だ。

 ――茨城港では完成車の一大輸出拠点としての役割も果たしている。

 青山 常陸那珂港区・中央ふ頭では2016年からSUBARUが北米向け完成車輸出で利用を開始しており、昨年は過去最高の取り扱いになったもようだ。今夏には2期目のモータープールも完成する予定で、拡大する需要に応える。常陸那珂港区は北関東自動車道に直結しており、直接港湾に入って来られることが支持されている。日立港区ではメルセデス・ベンツの輸入や日産自動車の輸出が安定的に行われている。また完成車以外では、東京ガスの日立LNG基地2号タンクが建設中で、来年度にも運転を開始する予定だ。LNG基地が拡充することで付加的に発生する産業もあり、これを機に何かできないか検討していきたい。

 ――内航サービスについても、茨城港はフェリー航路やRORO航路が数多く寄港している。

 青山 大洗港区では商船三井フェリーによる苫小牧港とのフェリー航路が就航しているほか、常陸那珂港区では苫小牧港や清水港・大分港との、日立港区では釧路港とのRORO航路が就航している。昨年は川崎近海汽船が運航する日立-釧路航路で、運航船「ほくれん丸」と「第二ほくれん丸」が大型化し、輸送能力も高まった。茨城港は北海道とのフェリー・RORO航路が週31便運航されており、首都圏と北海道を結ぶ海の玄関口だ。今後も北海道との物流を伸ばしていきたい。一方で今後の課題は西側(関西・九州方面)への航路誘致だ。距離的に横須賀港や東京港などの方が優位性はあるものの、中長期的な課題として取り組んでいきたい。

 ――今後の港湾運営・整備計画は。

 青山 茨城港、鹿島港ともに現行港湾計画の目標時期が近づいている。そのため数年後には、足元の状況を踏まえた形で改訂に向けた作業を始めていかないといけない。茨城港・常陸那珂港区では、昨今のコンテナ取扱量が好調だということも踏まえつつ、港湾計画改訂や長期構想の策定と合わせて整備方針を検討していきたい。世界的にコンテナ船の大型化は進んでいるが、(常陸那珂港区への寄港が多い)近海コンテナ航路はそこまで大型化していない。今後、誘致を目指していきたい北米航路も、ハブ港湾への小ロット・多頻度での輸送がトレンドになると考えており、常陸那珂港区への寄港船舶については、将来的にさらなる大型化はあまり進まないと予想している。そのためガントリークレーンも大型化する必要はないのではと見ている。

 鹿島港は重厚長大産業とともに発展してきたが、最近ではコンテナ貨物も好調であり、さらには、洋上風力発電の基地港湾に向けた取り組みも始まっている。このような新たな機能も踏まえながら港湾計画を考えていく必要がある。県としては、外港地区のBバースの基地化に向けた港湾計画の一部変更を行い、今後、国と連携して岸壁の地耐力強化などを進めていく予定で、周辺の洋上風力発電プロジェクトにおける設備及び維持管理の拠点となることを期待している。

 ――全国各港ではクルーズ船の受け入れ促進に向けた取り組みも進んでいるが、茨城港の現状は。

 青山 昨年は外国客船が初めて茨城港に寄港した。今年も常陸那珂港区と大洗港区に入港する予定だ。これを好機に茨城県の観光の魅力をアピールしていきたい。客船は主に大洗港区で受け入れてきたが、大洗港区に入港できない大きさの客船は常陸那珂港区でも受け入れている。常陸那珂港区では、主力である物流に支障がない範囲で客船を受け入れていきたいと考えている。

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定期コンテナ航路、増便相次ぐ
輸出貨物の開拓が課題


 茨城港・常陸那珂港区の定期コンテナ航路が増加傾向にある。昨夏時点では韓国・中国航路週2便のほか、ウエストウッドシッピングラインズの北米航路と国際フィーダー航路が寄港するにとどまっていたが、昨年11月に興亜海運(現・興亜ライン)と長錦商船が韓国航路を新設。南星海運も増便を重ね、同社寄港便は足元では過去最多の週4便に拡充されている。茨城県は来年度から船社に対する支援を拡充する方針で、さらなる航路誘致に取り組む考えだ。

■南星海運
航路開設20周年、週4便で過去最多


 南星海運は今年、常陸那珂港区への定期コンテナ航路開設から20周年を迎える。現在では韓国・中国航路を週4便まで増強しており、同港への寄港サービスが最も多い船社となっている。

 同社は2000年に韓国・中国航路を就航させた。11年の東日本大震災で同港が被災したため、一時的に寄港休止を余儀なくされたが、ガントリークレーンの復旧後、12年4月に寄港を再開した。その後も増便を重ね、今年1月にも新たな韓国・中国航路を新設。現時点では週4便体制となっている。輸入型2便と輸出型2便というバランスの良い配船を実施しており、現在は輸入を中心に堅調に利用が伸びている。

 増加の背景には慢性化する東京港周辺の渋滞が挙げられる。東京港ではターミナルゲート前の長時間待機が常態化しており、ドレージの確保も難しくなりつつある。輸送の安定性を求めるため、「これまで京浜港を使っていたが、新規に常陸那珂港区を利用するケースも多い」(南星海運ジャパン)ようだ。また、福島県の小名浜港もヤードが逼迫しており、東北方面への輸入でも代替として茨城港の利用が増えつつある状況だ。

 また、南星海運ジャパンは北関東の複数のICDとも契約しており、利用できる体制を整えている。北関東エリアから常陸那珂港区までは距離的に京浜港よりも近く、北関東自動車道で結ばれていることから速達性や輸送定時性が高い。そのため、常陸那珂の利便性を生かしながら、北関東エリアの集荷を促進するとともに、輸送効率化に向けてコンテナラウンドユースを進めていきたい考えだ。

 一方で、課題は輸出貨物の開拓だ。「CRUについては、輸入貨物の引き合いは多いものの、輸出貨物が少なく、うまくマッチングできないケースがある」とする。輸入は最終到着地に近い港を使うインセンティブが働き、京浜港からの切り替えが一部で進んでいるものの、「京浜港サービスは運賃競争力が高いメリットがあり、輸出ではなかなか切り替えが進んでいない」状況だ。陸送コストと合わせたトータルコストでの競争優位性を提示しつつ、新たな輸出貨物の開拓を進めていく考えだ。

■興亜ライン/長錦商船
常陸那珂港区に韓国航路新設


 興亜ライン(旧・興亜海運)と長錦商船は昨年11月から、茨城港・常陸那珂港区と韓国を結ぶサービスを新設した。両社の日本総代理店を務めるシノコー成本は、東京五輪・パラリンピックを控え、首都圏港湾の港湾混雑を回避したい荷主のニーズに応えるべく、常陸那珂港区の利用を促している。

 昨年12月に長錦商船傘下のコンテナ船社として興亜ラインが発足した。現在、同航路では1000TEU型船を興亜ラインが2隻、長錦商船が1隻の計3隻体制で運航している。シノコー成本の関係者は、「1社単独では難しく、長錦商船と興亜ラインのコンテナ船事業統合により実現することができたサービスだ」と話す。韓国経由で両社がサービス展開している東南アジア各国などへの輸送も可能で、特に興亜ラインは強みを持つインドネシア向けに注力していく方針だ。

 常陸那珂サービスの開始から約4カ月が経過したが、「徐々にサービスが浸透しており、少しずつ実績は増えてきている」(シノコー成本)ようだ。「東京港の混雑回避のため、最寄りの港湾を使おうという動きがあり、輸出に比べると特に輸入で常陸那珂サービスを使う傾向が強い」。

 同じ茨城県内の鹿島港についても興亜ラインは韓国航路で2016年から配船を開始している。現時点で同港唯一の外航コンテナサービスとなっている。同港背後では化学品メーカーなどが集積しており、同品目を中心に貨物を集めている。

■日立埠頭
増便契機に集荷強化


 日立埠頭は、常陸那珂港区へのコンテナサービスの相次ぐ増便を踏まえて同港区発着貨物の集荷を強化していく方針だ。同社は日立港区と常陸那珂港区を本拠に港湾運送事業などを手掛けるほか、南星海運の代理店事業も手掛けている。茨城県港湾課や企業誘致東京本部、茨城ポートオーソリティ、船社との連携を強化しながら情報収集を進めるとともに、荷主に対して混雑する首都圏港湾の代替として常陸那珂の優位性をアピールし、利用促進を図っている。

 営業本部の山縣一春副本部長兼第一営業部長は「東京五輪・パラリンピックによる影響もあるが、元々約2~3年前から東京港混雑を回避するために常陸那珂港を利用したいという引き合いが増えている。東京港のみを使っていた荷主が常陸那珂を新規に活用したり、京浜港との使い分けを始める動きが急速に加速している」と話す。一時的な利用ではなく、五輪を契機に長期的に常陸那珂港区を使っていただける荷主をターゲットに集荷営業を積極化していく考えだ。

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フェリー・RORO航路
運航船の大型化が進む


 茨城港はフェリー・RORO航路の一大拠点だ。特に北海道方面への輸送ルートは本州で最も航路数が多く、近年は運航船の大型化も進んでいる。ドライバー不足や運転手の働き方改革などで労務管理が強化される中、モーダルシフトの受け皿として内航サービスの重要性がますます高まっている。

 大洗港区では商船三井フェリーが苫小牧港とのフェリー航路を運航しており、今年は就航35周年を迎える。現在は夕方便と深夜便の1日2便を運航するが、2017年には夕方便で「さんふらわあふらの」と「さんふらわあさっぽろ」の2隻の新造船が就航した。従来船比で乗用車輸送能力は約2倍、トラック積載台数は1割向上した。高速化と省エネ化を両立したことでダイヤも大洗発を1時間15分後ろ倒しし、これまで時間的に間に合わなかった貨物も集荷することができるようになった。遅発効果による集荷圏拡大の影響もあり、トラック輸送台数は堅調に伸びているようだ。

 今後注目されるのは深夜便のリプレース計画だ。現在の運航船は来年に就航から20年を迎える。現時点で代替建造計画は明らかにされていないが、国内長距離フェリーは15~20年をめどにリプレースする傾向にあり、同社も検討を進めている。

 川崎近海汽船は常陸那珂港区と日立港区から北海道向けのRORO船を運航しているほか、常陸那珂―清水・大分RORO航路も運航している。常陸那珂―苫小牧航路では昨春に新造船5代目「ほっかいどう丸」が就航した。今治造船グループが建造したRORO船で、輸送能力はトレーラーが約160台(12メートル換算)、乗用車が約100台。川崎近海汽船が近年整備してきたRORO船とほぼ同様の仕様となった。

 また同船の投入に伴い、全航路で船隊の組み替えを実施。釧路-日立航路では投入船を大型化した。北海道内ではトラックドライバー不足に伴い、陸上トラックでの長距離輸送が難しくなっている。従来は北海道の海上輸送拠点である苫小牧港を核に道内各地へ輸送されるケースが多かったが、道東エリアへは釧路から輸送するスキームを構築することで物流の安定性向上を狙う。

 近海郵船は、川崎近海汽船と共同運航で苫小牧港とのRORO航路を運航している。18年には運航船2隻を新造大型船にリプレース。従来の運航船と比べて全長を12メートル、幅を3メートル延長し大型化を図ることで、積載能力を128台(12メートル換算)から160台(13メートル換算)に増強した。曜日や季節による荷動き波動を吸収したほか、荒天対応力と燃費性能が格段に向上した。

 一方で昨年の消費増税や足元の新型コロナウイルスの影響が懸念される。「国内消費が落ち込むと、輸送にも大きな影響が出る。今後の動向には注視していく」との声が大きい。
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