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2020年9月11日無料公開記事

【#コロナに負けない】 羽田空港物流特集2020 発着枠拡大で無二の存在感 国際線の回復見据え機能維持

TIACTは物量増に備え新たに貨物上屋やコンテナ蔵置場を設置した

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う国際線旅客便の減便・運休の影響を受け、国際航空貨物の取扱量も大幅に減る羽田空港。今年は3月からの国際線発着枠拡大でさらなる取扱量の増加が見込まれたが、足元ではわずかに運航される国際線旅客便と、旅客機を活用した貨物専用便で航空貨物を取り扱うのみだ。
 ただ、旅客便の回復後は成田や関空を上回る国内随一の国内線ネットワークと、欧米線の大幅拡大による国際線の充実が、羽田空港の航空貨物拠点としての存在感をさらに押し上げる。羽田のみが持つ内際の接続機能と、首都圏の中心に位置する優れた立地条件は、拡大した国際線発着枠をフル活用して初めて本来の強みを発揮する。新型コロナ終息後の飛躍を見据え、羽田で物流機能を維持する主要プレイヤーを紹介する。
 
国際貨物量、一時7割減も上向く
復便後の物量増に最適運営で備え
 
 新型コロナウイルスの感染拡大以降、羽田空港の国際線旅客便の運航規模は、3月からの現行夏季ダイヤで計画されていた便数の約1割にとどまると見られる。新型コロナの影響が深刻化した3月以降、中国線などの到着空港が成田または関西空港に制限されたほか、その後も極端な海外渡航需要の低下で主要路線が軒並み運休ないし頻度を大きく落としての運航となっているためだ。
 
 グラフは昨年7月から1年間の羽田の国際航空貨物量(東京税関発表、総取扱量)の月別推移だ。羽田では3月末からの国際線発着枠の拡大で、4月はさらなる国際貨物量の増加が見込まれていたが、航空各社の新規就航は軒並み延期。既存路線も大半が減便・運休となり、貨物専用機の運航もないことから、4、5月には総取扱量が前年同月比7割減と急減した。輸出入貨物に加え、三国間の輸送需要も大きく落ち込んでいる。6月以降、航空各社による旅客機を活用した貨物専用便の増加などでじりじりと物量を戻しているものの、前年同月からは依然、6割減の水準だ。
 
 羽田は2010年の再国際化以降、18年まで総取扱量が8年連続の前年超えを記録。19年は米中貿易摩擦などを背景とする世界的な航空貨物需要の鈍化で初めて前年割れも、総取扱量は55万トンと成田、関空に次ぐ国内3番目の物量を取り扱った。今年3月からの国際線発着枠拡大では、国際航空貨物にとっても大市場となる米国線が増えることから、国際貨物も輸出入だけでなく、三国間需要が増えて19年に75万トンを取り扱った関空に物量で肉薄する可能性もあったが、新型コロナでこれらが全て先延ばしになった格好だ。
 
 足元では厳しい物量減に見舞われる羽田だが、旅客便の再開後は航空貨物拠点としても大きなポテンシャルを秘める。表は、国際線発着枠が増える前後の羽田空港の1日当たりの国際線の便数を地域別に示したもの。日本、相手国・地域それぞれに与えられる便数を示しているため、総便数は倍になる。3月から増えた昼間時間帯の便数は1日当たり25便、日本と相手国の相互で50便となり、総便数は従来の約1.5倍に拡大する。増加分の50便のうち24便が米国線に割り当てられたことは、羽田が日本だけでなくアジア-米国間の三国間需要も集める一大航空貨物拠点になることを示している。
 
 羽田で国際航空貨物上屋を運営する東京国際エアカーゴターミナル(TIACT)は、発着枠拡大に伴う物量増に備えて着々と手を打ってきた。今年1月には新貨物上屋「第3国際貨物ビル」が竣工。新上屋の面積は約1万800平方メートルで、TIACTが運営する貨物上屋全体の面積は約3万5000平方メートルと従来比1.3倍に拡大した。航空コンテナの取扱量も大幅な増加を見込み、蔵置スペースの変更も実施済みだ。TIACTの糸魚川信喜・常務取締役は「第3ビルは本格運用を始めようという矢先の減便で、現在は貨物量の減少から本稼働に至っていない。秋以降の航空各社の運航状況を見ながら、稼働時期を検討したい」と話す。
 
 羽田空港は深夜早朝便が発着する特性から、TIACTも開業当初から24時間運営を継続中。貨物量の減少に伴い、一部サービスの営業時間短縮や荷役の人員規模の縮小など、事業継続のためのコスト削減策を実施しているが、国際航空貨物拠点しての機能維持を第一に施設運営にあたっている。糸魚川氏は「国際線の復便時期を見通すのは難しいが、さまざまなケースを想定しながら事業計画を見直している。復便後の貨物量の増加も見据えた最適なオペレーションのあり方を探っていきたい」と話す。
 
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【日本通運】
機能向上で価値最大化を
 
 日本通運は羽田空港に国際、国内貨物上屋を構える唯一の大手フォワーダーだ。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、国際・国内旅客定期便の大幅な減便・運休が続く中、国際、国内航空貨物部門とも感染防止を徹底しながら、オペレーション継続に取り組んでいる。
 
 感染防止では、同社内で常備するマスクと消毒液を現場に優先的に配備し、マスクについては協力会社を含む全従業員に配布。着用を義務化した。一方、熱中症対策との両立の観点から、現場の作業中はマウスシールドを着用している。「3密」防止対策では、▷小グループをつくり、他グループとの接触を制限▷事務グループをビニールシートなどで分離▷共有スペースの利用制限――などに取り組んでいる。
 
 国際線地区では2010年10月の羽田再国際化に合わせ、同地区で共同上屋設営を担う東京国際エアカーゴターミナル(TIACT)から第2国際貨物ビル1階を賃借。大手フォワーダーとして唯一、自社上屋を運営する。オペレーション面では、今年4月から同上屋のランプサイドを開放し、動線を確保した。
 
 ポイントは限られたスペースの有効活用だ。同地区ではTIACTの共同上屋と全日本空輸の航空会社上屋がある。航空機から取り降ろした輸入ULDは両上屋に搬入後、ランプと反対側(トラック待機場側)から搬出され、トラック会社に引き渡される。日通の輸入ULDは、トラック待機場側から自社上屋に引き込む動線だった。これを、TIACTと全日空の上屋搬入後、ランプ側から日通の上屋に搬入し、作業後、待機する車両に引き渡す流れとした。上屋内での動線が直線的となり、インタクトを含めた輸入保税貨物の搬出入効率を高めた。
 
 羽田発着国際航空貨物の20年度(20年4月~21年3月)の目標として、輸出では生鮮貨物、輸入では首都圏近郊への配達貨物の取り扱い拡大を掲げる。生鮮関連では、日本各地から豊洲市場(東京都江東区)を経て、輸出される商材の取り扱い増に向け、同市場の拠点機能を強化した。
 
■国内でウェアラブル端末を導入
 
 同空港の東貨物地区には、国内航空貨物を取り扱う羽田空港営業所を置く。同地区では空港施設が設営する貨物上屋E-1棟を賃借し、「羽田空港貨物センター」を運営している。また、同空港外には「羽田京浜島航空貨物センター」(東京都大田区)がある。
 
 同社は今年4月、国内航空貨物の現場にウェアラブルスキャナを導入した。羽田では同3月から導入した。ウェアラブルスキャナは、仕分け作業で活用する。現場でトレースデータ(貨物追跡情報)の登録作業をウェアラブル化し、作業効率化とともに時間削減効果(時間生み出し効果)も発揮する。また、照合機能を搭載しており、方面別仕分けの際の誤仕分けを未然に防止。人的ミスを削減し、作業品質の向上につなげる。
 
 施設面では17年12月、羽田空港貨物センターで高速自動仕分機を導入した。羽田京浜島航空貨物センターでも、マテハン機器を一新し、処理能力を引き上げる計画もある。
 
 大辻智常務理事航空事業支店部長は、羽田空港では成田空港以上の付加価値を提供できるとの考えを示す。着目するポイントは3点ある。まず、内際接続の「スピード」だ。2つ目は、東京貨物ターミナル駅(東京都品川区)が至近でもあり、鉄道接続での「大規模輸送」と「環境への貢献」が可能な点。3つ目は、都内をはじめとした消費地や卸売市場などへの距離が至近といった「高いアクセス性」を挙げる。
 
 同社は、国際・国内航空貨物輸送だけでなく、鉄道輸送やトラック輸送の機能も持つ。大辻部長は「当社であれば、羽田空港の価値を最大限に発揮し、そして、顧客に提供できる。それが、羽田空港に拠点を構えている理由だ。羽田空港で多様な付加価値を顧客に訴求し、そして、当社を選んでいただけるよう、努力していく」とした。
 
 
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【平野ロジスティクス】
新型コロナ後を見据え体制強化
 
 空港間のOLTサービス、フォワーダーの拠点間・空港間の物流サービスなどを提供する平野ロジスティクスのオリジナルトレーラーの概要は次のとおり。
 
 ▷大型トラックよりも96インチ仕様のユニット・ロード・ディバイス(ULD)を1台多く搭載できる「+1」(計20台)▷同トレーラーに改良を加えて背高貨物搭載の柔軟性が増した「+1α」(計20台)▷大型トラックよりもULDを2台多く搭載できる「+2」(計2台)▷大型トラックよりもLD3コンテナを7台多く搭載できる「+7」(96インチULD対応も可能)(計2台)▷「+7」に改良を加えて大型トラックよりもLD3コンテナを8台多く搭載できる「+8」(96インチULD対応も可能)(1台)▷年内に5台の「+1α」を導入する予定で、これにより「+1α」は25台体制となる▷年内に「+7」を空調仕様に改良した「+7 COOL」を導入。
 
 平野ロジスティクスがオリジナルトレーラーの導入を進める理由には、より効率的な輸送によりコストメリットを提供し、環境負荷低減に貢献するため。成田-羽田間のOLT輸送にも積極的に対応し、物流の観点から、首都圏空港の一体的な運用に貢献している。
 
 トレーラー(台車)とトラクター(けん引車)を分離できるメリットも最大限に活用する。空港現場で貨物積載が完了したコンテナをヘッドが適時に引き取りに来る体制を確立することで、効率的な物流サービスを提供し、同時に待ち時間短縮など、ドライバーの就労環境の向上につなげている。
 
 新型コロナウイルス感染拡大、渡航制限に伴う国際旅客便の減少で、現在、成田-羽田間のOLTは通常時と比べて9割以上の減少に見舞われている。一方、成田から中部・関西空港向けの輸入貨物の転送需要、九州から関西空港向けの輸出貨物の転送需要が増加したという。ここ最近は中部・関西空港から成田向けの輸出貨物のOLT需要が高まる傾向にあるという。ただし、現時点ではOLT全体の需要は通常時を下回っている状況にある。これを安定した、メーカーの物流需要が支えている。
 
 益子研一取締役営業本部長は「新型コロナウイルス感染拡大、国際旅客便の減少で、取り巻く環境は非常に厳しいが、従来、提供しているサービスをしっかりと維持、さらに品質を向上させる時期という認識のもとで事業展開している」と話す。
 
 ドライバー、スタッフの採用も行っており、より充実したサービスを提供するための充電期間と位置付けている。益子取締役は「国際旅客便が回復するタイミングと併せて、世界的にも航空貨物需要が回復し、一気に高まると見ている。こうしたタイミングで、これまで以上に充実したサービスを提供できるように、しっかりと準備していく」と強調する。
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