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2020年11月27日無料公開記事

【北九州空港特集】 精密機械・自動車関連貨物の取り込み強化 生鮮輸出や販路拡大に注力

北九州空港

 北九州空港の利用促進に取り組む北九州市は、同空港を活用した精密機械や自動車関連貨物、生鮮品の輸出や販路拡大に力を入れている。北九州空港は24時間離発着が可能であり、貨物定期便が就航していることが強みだ。さらに九州道・東九州道・中国道が交わる交通の結節点に位置し、九州と本州をつなぐ最高の立地にある。こうした特長を生かして「九州・西中国の物流拠点空港」を目指して集貨・路線誘致を強化する。北九州空港の現況や将来展望、同空港を活用する企業などの動向をリポートする。
■国際貨物量、過去最高を更新
 
 北九州空港へのここ数年の貨物便就航動向をみると、2018年6月にANA Cargoが、19年11月に大韓航空の貨物定期便が就航した。深夜早朝アジア着の超高速物流を実現するANA Cargo、ソウル・仁川をハブにアジア最大の貨物機ネットワークを有する大韓航空それぞれの強みが生かされる形で18年度、19年度と北九州空港の国際航空貨物取扱量が2年連続で過去最高を更新した。
 
 北九州空港への貨物搬入フローの一つは福岡空港内の福岡エアー カーゴターミナルから搬入されるもの。直接搬入は北九州空港周辺地域の保税蔵置場で通関後に北九州空港に搬入され、空港内でULDに積み付けが行われているもの。西中国・四国も背後圏として捉え、例えば生鮮品の商圏も拡大したい意向だ。北九州市港湾空港局空港企画課は「北九州空港の定期貨物便への認識も確実に広がってきた。北九州空港を拠点に航空貨物を取り扱いたいとのニーズも確実に増えており、事業継続計画(BCP)の観点からも利用空港の分散を重視する動きもある。より使いやすい体制を整えることで定期貨物便の利用促進に関係者とともに取り組みたい」と話す。
 
 生鮮品はコールドチェーンの維持・リードタイム短縮の観点から直接搬入の意向が強く、北九州空港利用促進協議会は北九州空港直接搬入ルート構築事業の適用を19年度に開始した。同制度は、北九州市に拠点を置くジェネックの太刀浦上屋と、福岡トランスの苅田エアフレイトセンター(苅田町)を協議会の認定保税上屋とし、輸出許可を受ける前の貨物(内貨)を搬入する事業者などに1キロ20円を助成するもの。「生鮮品を含む直搬体制のニーズに応え、スピーディーな物流を実現するため、直接搬入ルートの定着を図りたい」(北九州市空港企画課)としている。
 
 今年5月に大韓航空が仁川ハブとの往復便を開始して以降、輸入貨物の取り扱いについても問い合わせが増えているという。「北九州空港にとって、待望の輸入サービスが開始された。輸入通関体制を関係機関と協力して構築し、輸入貨物の集貨も推し進めたい」(北九州市空港企画課)。
 
 現在、北九州空港の貨物施設は、延べ床面積800平方メートルの貨物ターミナルビル(国内線用)と、約900平方メートルの国際貨物上屋がある。北九州空港でのビルドアップやブレイクダウンといったオペレーション、取扱貨物の内容などを踏まえて約400平方メートルの保税蔵置場を新設し、年内に供用開始する予定だ。
 
■ボルガ・ドニエプル航空とMOUを締結
 
 2020年1月にはボルガ・ドニエプル航空と福岡県、北九州市が北九州空港の利用促進を目的とした覚書(MOU)を締結した。目指すべき方向性として、将来的な滑走路の3000メートル化や、ボルガ・ドニエプル航空がアジアにおける駐機拠点候補として北九州空港を位置付けること、県と市が空港内での駐機スペース確保などでサポートすることなどが盛り込まれた。
 
 ボルガ・ドニエプル航空は世界最大級の貨物輸送機「アントノフ124」12機を含む貨物機をグループ全体で47機保有。重量物貨物や大型貨物、人工衛星などの特殊貨物輸送や災害時の緊急物資の輸送などで、顧客の要望を第一としながら、北九州空港の利用を積極的に検討することを強調した。海上空港ならではの利点として、超重量物など陸上輸送できない大型貨物を運ぶことができるシー・アンド・エア輸送に対応している点を高く評価したという。「今回のMOU締結によって、双方にとってシナジー効果が出せるよう、北九州空港ならではの“強み”を打ち出していきたい」(北九州市空港企画課)。
 
■3000メートル化の検討具体化
 
 北九州空港の滑走路延長に向けた具体的な検討も見られ始めた。10月に開催された「北九州空港施設計画段階PI評価委員会」の第1回会議で、パブリック・インボルブメント(PI)の実施計画書案が示された。北九州空港の背後圏域で発生する貨物需要の取り込み、地域経済への波及効果などを整理。第2回会議で実施計画書を確定した上で、2021年度中にPIを実施する予定だ。
 
 PI実施計画書案によると、北九州空港は大型貨物機の長距離運航を可能とするため、現行滑走路2500メートルを3000メートルに延長する要請が自治体などから行われている。国は2020年度から滑走路延長を検討する調査の実施を決定。関係地方公共団体(福岡県、北九州市、苅田町)と九州地方整備局、大阪航空局が連携・協力して、北九州空港滑走路延長に伴う施設計画段階のPIを実施する。北九州空港の滑走路を延長する「必要性」と「効果」、施設計画の「妥当性」について取りまとめた上で、それら情報を公表し、意見募集する。
 
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<航空会社>
大韓航空
北九州貨物便の定期運航体制強化
 
 大韓航空は2019年11月に貨物便を北九州空港に就航。当初はロサンゼルス→北九州→仁川というルート(うちロサンゼルス-北九州区間の貨物積み降ろしは無し)だったが、今年5月に仁川-北九州の往復運航に切り替えた。仁川経由による世界各地への輸出貨物の取り扱いを「第一ステップ」に位置付け、それに次ぐ「第二ステップ」が往復運航便への切り替えだ。これにより、輸入貨物の取り扱いを開始し、北九州空港を活用した輸出入貨物双方への対応を可能とする体制を構築した。
 
 「第三ステップ」として、9月より北九州空港の販売/運送管理支店を従来の福岡支店から大阪貨物支店に移管。より専門的な管理体制を整え、10月に週2便の定期貨物便に加え、週1便の臨時貨物便の運航を開始した。12月11日には週3便のうち1便の臨時便を定期便へと移行。定期便週3便体制でこれまで以上に安定的なスペース提供につなげる。
 
 李俊夫日本地域貨物総括は「少しでも九州の荷主企業様の費用削減、リードタイム短縮などに貢献できないか、と検討を続けてきた」と話す。北九州空港は高速道路へのアクセスも良く、港湾や鉄道輸送拠点とも近い立地だ。こうした物流網との連携を通じて「東アジアの物流ターミナル」としてのメリットを生かした事業展開を検討しているという。
 
 北九州空港搭降載貨物のうち、ULD貨物は福岡空港の福岡エアーカーゴターミナル(FACTL)でビルドアップ・ブレークダウンする事例も多い。FACTLは11月にモバイルローダーを導入しており、これによりULDのトラックとの搭降載の効率も高まった。北九州空港の近郊でも保税蔵置場を整備する物流企業もあるため、需要に応じて臨機応変に対応できることも北九州空港のポテンシャルを高めている。空港内の物流施設・操業品質の向上化も進められている。李総括は「北九州空港の継続的な発展を推進する福岡県や北九州市、空港施設を管理する北九州エアターミナル、当社の操業を委託した日本航空をはじめ、多くの関係者の協力があってこそ、充実したサービスを提供できる環境になった」と感謝の意を示す。
 
<メーカー>
ディスコ
物流の正確・迅速性追求 利用空港選定も柔軟に
 
 半導体製造装置大手のディスコは、内製化などを通じて物流の正確・迅速性を追求している。利用空港の選定もその一つ。常に最高の品質・サービスを提供するために最適な物流フローの構築に取り組んでいる。
 
 半導体製造工程は一般的に「ウェーハ(材料)製造工程」「前工程」「後工程」に大別される。ディスコは主に「後工程」に位置付けられる、円盤状の材料を半導体チップにするための切断、素材を薄くする研削・研磨のための精密加工装置の製造、製造加工装置に取り付ける精密加工ツール(替え刃)などの製造を手掛けている。工場は現在、広島県の桑畑工場(精密加工装置や精密加工ツールなど)・呉工場(精密加工ツールなど)、長野県の茅野工場(精密加工装置、周辺機器、加工用モーターなどの主要部品)。桑畑工場と茅野工場では需要増加に備えて新棟を建設中だ。
 
 半導体製造装置マーケットについてディスコ・アジア営業本部の則本隆司本部長は「アジア顧客の工場の稼働率が高い状況にあり、製造装置需要は底堅い」と説明。「5G」が関連するスマホ本体や通信基地局、データセンター向けの半導体・電子部品全般の需要が特に高いという。ディスコの売上高のうち海外比率は約8割。そのうちおよそ7割がアジア圏。保守部品など消耗品の輸送は航空、製造装置輸送は航空と海上を利用している。
 
 ディスコは物流内製化に取り組んでいることも特色だ。「ディスコの文化として重要な仕事は自分たちで手がけることが挙げられる。自社通関や梱包など内製化に取り組んでいる」(則本本部長)。物流の事業継続マネジメント(BCM)を確立し、BCMの国際認証(ISO)も取得していることが強みだ。2018年7月の西日本豪雨では、工場の周辺道路が寸断し陸路が使えなかったため、即座に海路に切り替えて納期を順守した。18年9月の台風21号に伴う関西国際空港の浸水に際しては、利用空港を翌日には成田空港に切り替えた。
 
 Eラーニングなど教育も重視。輸出依頼をはじめ、社内資格の取得が求められる業務も多い。則本本部長は「常にリスクを想定するとともに、検証を通じて把握した課題を改善することが重要だ。柔軟な輸送ルートの設定もディスコの強み」と語る。
 
 広島の2工場から距離的にも近い北九州空港の活用に関しては、他空港に横持ちするよりも、陸上輸送中のダメージが抑えられると同時に、二酸化炭素削減にも貢献できる。北九州空港の利用に関して言えば、例えば3時間前の空港搬入を前提に考えると、広島の工場を5~6時間前に出発すれば深夜便への搭載に間に合う。夕方まで製品を製造して、アジアを中心とした海外の顧客に翌日に輸送できる。国内向けと同様の納期を求められる案件も多く、物流の正確・迅速性は非常に重要な要素だ。
 
 則本本部長は「輸送品質や安全性などについて、空港や港湾、航空や海上輸送に関わる物流事業者との協力によって、常に物流フローの改善を追求することは、お互いの発展にもつながると考えている」と強調する。
 
<物流企業>
福岡トランス
北九州空港隣接地に物流センター 保安体制も万全に
 
 福岡県北九州市を中心に倉庫業、通関業、貨物運送事業を営む福岡トランス(本社=北九州市門司区)は、今年6月に北九州空港から至近の距離にある福岡県京都郡苅田町に「苅田エアフレイトセンター」を開設した。さらに9月には福岡県古賀市に「福岡ソリューションセンター」(福岡SC)を整備。物流サービスを強化している。
 
 6月1日に開業した苅田エアフレイトセンターでは北九州空港発の航空貨物の取り扱いを開始。爆発物検査装置の配備をはじめセキュリティーを強化するなど、万全の体制を敷き、航空貨物の取り扱いに対応している。九州とともに中国地方西部の貨物を取り込むなど、北九州空港の利便性を生かしたサービスを強化している。
 
 苅田エアフレイトセンターは北九州空港から約10分弱の空港隣接エリアに位置しており、保税蔵置場の許可も取得している。周辺には多くの生産拠点があり、これまでも各種貨物を取り扱ってきた。「手倉作業を請け負うなど、北九州発航空貨物を取り込むことで、事業拡大と北九州空港の利用促進に貢献したい」(小海衛取締役国際物流部長)としている。
 
 苅田エアフレイトセンターを経由させることで、北九州空港発貨物便の利用価値がさらに高まるメリットをセールスしていく構え。佐藤史行・国際物流部国際複合輸送マネージャーは「フォワーダーに対する営業活動も強化し、九州だけではなく、西中国地方の貨物も当社の苅田エアフレイトセンターを経由し北九州空港発の便を利用することでコスト、リードタイムの面で競争力が発揮できるよう関係各所に訴求していきたい」と説明する。福岡トランスはフォワーダーが集積する福岡空港の近接地に博多事務所(福岡市博多区冷泉町)も開設した。
 
 さらに10月には福岡ソリューションセンター(福岡SC)が稼働した。半導体を中心に北米や欧州、アジア向けの輸出オペレーションを強化することが目的だ。福岡SCの施設内には定温空調室、保税蔵置場、トラック進入レーン幅9メートルを確保した天井クレーン(10トン×2基)ヤードを設けている。約3000平方メートルの荷捌き場も完備し、余裕ある作業スペースが確保されている。
 
 海上貨物はもちろん、国際航空保安に適合したセキュリティーを導入しており、「海上貨物に加え、航空貨物の拠点としても福岡SCの活用の幅を広げたい」(小海取締役)としている。
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