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2020年12月16日無料公開記事

【内航フェリー・RORO船特集】 環境対応で機運高まるモーダルシフト

 「2050年カーボンニュートラル。脱炭素社会の実現を目指すことを宣言します」。菅義偉首相が所信表明演説で強調したように、温室効果ガス(GHG)削減などの環境対応が全産業で待ったなしの課題となっている。国内物流では現状、トラックによる陸送が主力だが、荷主の環境意識の高まりもあり、今後は長距離輸送を中心に環境に優しい海上輸送に転換する、いわゆる「モーダルシフト」が加速する余地は大きい。内航船社も需要増加に備え、受け皿機能を強化する。一方、あるフェリー会社首脳は「待っているだけではモーダルシフトは進まない。何のメリットがあるのか、具体的に荷主に示す必要がある」と指摘する。海運モーダルシフト促進に向け、内航船社の積極的な姿勢が問われている。
■ドライバー不足で追い風
 
 日本で「モーダルシフト」という言葉が初めて登場したのは1981年。運輸政策審議会の答申で、省エネ対策の一つとして現れ、90年には同審議会物流部会で労働力不足への対応としてモーダルシフトの推進が提言された。翌91年には運輸省(現・国土交通省)がモーダルシフトの推進を表明した。
 
 モーダルシフトとは、トラックによる幹線輸送を、環境に優しく大量輸送が可能な海運や鉄道に切り替えることだ。労働力不足や環境への対応策として一つの有効な手段として捉えられている。例えば、海上輸送の場合は、同じ重さの貨物を運ぶ際のCO2排出量がトラックの約6分の1となっている。また、海上輸送中はドライバーが休息を取れるため、労働時間の削減にもつながるメリットがある。
 
 他方、90年代以降はモーダルシフトの必要性が叫ばれてきたが、これまでの歴史を振り返ると急速に進んできたとは言い難い。ドア・ツー・ドアで小回りが利く利便性の高さに加え、政府による高速道路料金の大幅割引などがトラック輸送の利用増に追い風となった。対して船舶は、燃料油価格の高騰などもあり、相対的に競争力を失い、航路の統廃合や撤退も進んだ。
 
 しかし近年は、状況が変わりつつある。少子高齢化に伴うドライバー不足や、ドライバーの拘束・乗務時間など労務管理の強化に伴い、長距離でのトラック輸送が難しくなっている。さらに環境問題に対応していくためにも、代替輸送手段として海運モーダルシフトの機運が高まっている。こうした中、政府は2016年に物流総合効率化法を改正。モーダルシフトや輸送網集約、輸配送の共同化を行う計画を認定し、取り組みの促進を図っている。11月末時点で海運モーダルシフト関連の計画認定件数は41件となり、荷主や物流事業者、船社が連携したモーダルシフト施策が加速している。
 
 モーダルシフトの優良事例を表彰し、広く社会に紹介することでさらなる促進を狙う取り組みも出ている。日本物流団体連合会は毎年、モーダルシフト優良事業者を選定・表彰しており、今年度はF-LINE南関東支店マルチモーダルサービスセンターによる取り組みが最優良事業者賞を受賞した。
 
 同取り組みでは、食品輸送に関してトラック輸送から海上・鉄道輸送に切り替えた。輸送モードの転換に当たっては、リードタイムが一番の課題となっていたが、メーカー各社と交渉し、トラック輸送と比較してリードタイムが1日延びることを了承してもらえるよう働き掛けた。さらに近年は、自然災害が多発していることを踏まえ、トラック・鉄道・船舶といった複数の輸送モードを併用することで、災害時にも柔軟に対応できる供給体制を構築した。国交省の久保田雅晴公共交通・物流政策審議官は「CO2削減に取り組まれたほか、トラックと海上・鉄道輸送をミックスして非常時にも対応できる体制を構築した極めて優れた取り組みだ」と評価する。
 
 エコシップ・モーダルシフト事業実行委員会も毎年、エコシップマーク認定制度を実施し、特に海運モーダルシフトに対する貢献度の高い事業者に対して表彰を行っている。昨年度からは「海運モーダルシフト大賞」が新設され、初の大賞に月桂冠と日本通運京都支店の取り組みが選ばれた。
 
 月桂冠は、環境対応の一環で海運や鉄道へのモーダルシフトに取り組んでおり、ドライバーの労働環境改善に向けても「ホワイト物流推進運動」に賛同を表明している。今回受賞した取り組みでは、製造場がある京都から東北6県への製品輸送を、従来のトラックから太平洋フェリーの名古屋-仙台航路の活用に切り替えた。日通の協力により、在庫を持たない「スルー型」から、物流の中継倉庫(蔵置所)の設置による「在庫型」へと切り替えることで本格的なモーダルシフトへの体制を整え、安定的な輸送を可能とした。京都から東北エリアへの輸送は、重量比で34.6%分を海上輸送へ転換することとなり、CO2の排出削減やドライバー負担の軽減などを実現した。
 
■荷主間連携の加速も
 
 これまでの荷主の物流効率化策は1社単独で完結することが多かったが、足元では荷主間連携による共同モーダルシフトを実施する動きもある。例えば、ライオンとキユーピー、日本パレットレンタル(JPR)は従来、各社それぞれで陸送していた。だが18年からは、トレーラーの固定利用や出荷量の平準化、出荷日の固定などにより、フェリーを活用した共同モーダルシフトを実施。関光汽船が全行程の輸送を手配し、CO2排出量やドライバーの運転時間の大幅な削減を実現した。
 
 ある雑貨系の荷主からは、「鉄道の輸送能力には限界があることから、海運の活用を強化していきたい」との声も上がる。今後も、海運モーダルシフトがさらに加速する兆しが出ている。
 
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船舶大型化が加速、輸送能力増強
フェリー・RORO船、新規航路も相次ぎ開設
 
■国内物流縮小予想も、海上シフトは有望
 
 内航フェリー・RORO船各社は、船舶のリプレース時期に併せて大型化を図っている。例えば、これまではシャーシ120~130台積みの船舶を運航するケースが多かったが、160台積み程度へと輸送能力を増強する動きが相次ぐ。
 
 フェリー・RORO船は基本的に、新造から20年前後の期間で運航するため、将来の輸送需要に合わせた船型で建造することが求められる。国内物流全体で見ると、今後は人口減少の影響を受けて荷動きが縮小する可能性が高いと見込まれている。だが、海上輸送の観点から見ると、ドライバー不足やドライバーの働き方改革、環境対応の加速などを背景にモーダルシフトが進むため、増えると見る向きが強い。対鉄道輸送という点から見ても、鉄道は旅客優先でダイヤが組まれており、大幅な輸送能力の増強が難しい。海上輸送も船員不足という問題はあるものの、共同運航や船社間連携などを通じて工夫できる余地は大きく、モーダルシフトの受け皿として持続的な機能強化がしやすい状況にある。
 
 さらに同じ海上輸送でもフェリー・RORO船に貨物が流れることも想定される。例えば、「これまで専用船で運ばれていた貨物が人口減少に伴う物量の減少により専用船を仕立てられなくなることで、フェリー・RORO船などの定期サービスに流れる余地がある」(RORO船社関係者)との指摘もある。また、鋼材などについても、これまでは499総トンクラスの一般貨物船で運ばれるケースが多かったが、RORO船への輸送転換を検討する動きもある。従来の一般貨物船と比べて大型船となるRORO船に切り替えることで、輸送速度の向上や欠航率低下による計画的な運航、荷役能率の向上などを実現することが見込まれている。
 
 こうした需要の増加を見越して、船舶の大型化が進むとともに、新規航路の開設や投入船の増配といった動きも相次ぐ。既存航路の拡充ではマルエーフェリーが昨年、阪神-鹿児島航路で増配し、定曜日化を実現。商船三井フェリーの東京-苅田航路や川崎近海汽船の清水-大分航路でも1隻追加投入し、デイリー運航体制とした。
 
 ミッシングリンクとなっていた日本海側西日本でも、近海郵船が昨年4月、敦賀-博多航路を新設。夏には1隻増やし、デイリー化した。今年は鳥取港で井本商運のコンテナ船を寄港させるトライアルを実施するなど、今後も日本海側で内航サービス拡充に向けた動きが進むと見られる。
 
 内航フェリー・RORO船社は近年、モーダルシフトの受け皿として海上輸送能力の強化を進めている。日本長距離フェリー協会加盟会社は2015年以降、老朽船のリプレースを相次ぎ実施。全運航船35隻中17隻が新造船に切り替わり、さらに8隻の新造計画がある。この大半が船舶を大型化し、輸送能力を高めた。RORO船各社も船舶大型化に加えて、新規航路の開設も進めており、川崎近海汽船の清水-大分航路の新設・増強や、栗林商船の清水港への定期寄港開始、近海郵船の敦賀-博多航路の新設・増強といった動きがあった。来夏には、SHKライングループの東京九州フェリーが横須賀-北九州フェリー航路を開設する計画となっている。
 
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【インタビュー】
エコシップマークの啓蒙加速へ
エコシップ・モーダルシフト事業実行委員会・浦塚敏彦座長
 
 ――エコシップマーク認定制度の内容と意義について聞きたい。
 
 浦塚 一般的に海上輸送のCO2排出量原単位は、トラック輸送に比べ約6分の1以下と言われている。同制度では、「海運モーダルシフト促進は地球環境の保全に貢献する」ということをアピールする目的で、2008年度から実施している取り組みだ。認定者の選定基準は、(1)海上貨物総輸送量/総貨物輸送量(トンキロ)が20%以上の輸送に船舶を利用した者(会社または事業所・工場単位)(2)前年度の輸送実績に対し、海上輸送量(トンキロ)のシェアが10%以上改善した者(3)海上貨物輸送へのモーダルシフトを行ったことで、CO2排出量を陸上輸送の場合と比べて10%以上削減した者 ――の3項目となっている。
 
 さらに、認定事業者のうち特にモーダルシフトに対する貢献度の高い事業者について毎年20~30者を国交省海事局長が表彰しており、これまでに荷主153者と物流事業者168者が表彰されている。昨年度からは「海運モーダルシフト大賞」制度が新設され、革新的な取り組みを表彰しており、初の大賞として月桂冠と日本通運京都支店の取り組みが選定された。
今年度についても選定作業を進めている。
 
 菅義偉首相が50年までに温室効果ガス(GHG)の排出を実質ゼロとする方針を示すなど、環境への意識が高まる中、荷主や物流事業者にとってエコシップマークの取得は対外的な企業イメージのアップにつながる。優良事例を公表することで、さらなる取り組みの促進にも寄与する。まだまだ認知度を高めていく余地はあると思うので、引き続き啓蒙活動を進めていきたい。
 
 ――現在の海運モーダルシフトの状況は。
 
 浦塚 近年はドライバー不足によるトラック輸送の問題が顕在化され、モーダルシフトの機運も上昇していた。だが、新型コロナウイルスの感染拡大による経済低迷の影響を受けて、トラック陸送の需給関係も変化して一時的に「逆モーダルシフト」の懸念も見られる。一方、海運業界では今年から始まった硫黄酸化物(SOx)の排出規制による規制適合油への切り替えに伴い、燃料調整金(BAF)も引き上げられ、相対的に海上輸送コストが増加している。そのため、荷主企業にとっては短期的にはトラック輸送に傾いている現状だ。しかしながら、長期的に見るとドライバー不足の底流は変わらず、ウィズコロナ・ポストコロナを経て、経済が再び巡航速度に戻れば、再び代替策がクローズアップされよう。またドライバーの高齢化は、全産業平均以上のテンポで進んでいると聞いており、高齢者の退職などでますます労働力不足に拍車がかかるものと見ている。特に24年度には、トラックドライバーに対する罰則付きの時間外労働の上限規制が始まる。この影響は大きいと考えており、海運モーダルシフトへの機運が高まると予想している。
 
 ――陸上輸送に比較した海上輸送の強みは何か。
 
 浦塚 CO2排出量の削減といった環境面での優位性も確かにあるが、スケジュールの安定性も挙げられる。フェリーと鉄道を比較してみると、定時から15分遅れになるケースは海運も鉄道も同程度の比率だったが、1時間遅れのケースになると、鉄道に比べて海上輸送の遅延比率は低くなっているという分析もある。長距離海上輸送と長距離鉄道輸送を比較すると、それぞれ遅延のリスクがあり、例えば、海上輸送では濃霧などの海気象の影響あるが、長距離鉄道の場合は多くの路線をまたぎ運行されていることから、意外に輸送トラブル遭遇の可能性も報告されている。また、輸送中の「振動」が少ないこと、特に貨物重量が増えれば増えるほど海上輸送が品質優位と思われる。加えて、海上輸送の場合、「大規模災害における大量輸送の強み」を持っている。近年、頻発する地震や台風、豪雨災害などによる甚大な被害によって陸路が寸断された場合に、物流代替ルート・サプライチェーンを確保することのみならず、自衛隊・警察・消防、電源車両を含めた緊急輸送手段として活躍しており、この面での社会的意義は大きい。
 
 ――今後の海運モーダルシフト促進に向けた展望は。
 
 浦塚 政府は交通政策基本計画の中で、内航海運における貨物輸送を20年度までに12年度比10%増となる367億トンキロに高め、地球温暖化対策計画では30年度に410億トンキロを目標に掲げている。次期総合物流施策大綱でも、モーダルシフトの推進が盛り込まれる見通しだ。今後もこうした目標の実現に向けて、後押ししていきたいと考えている。
 
 近年はフェリー・RORO船のみならず、各内航船の大型化が進んでおり、輸送キャパシティーが増加傾向にあり、こうした受け皿の整備が進むことで増加需要にも対応できるようになっている。将来にわたって海運モーダルシフトを推し進めていけるように取り組んでいきたい。
 
 内航船社や国土交通省海事局で組織されるエコシップ・モーダルシフト事業実行委員会は、エコシップマーク認定制度の啓蒙活動に力を入れる。同制度は、海運モーダルシフトを通じて環境対策に貢献した荷主や物流事業者を、「エコシップマーク認定者」として認定し、特に貢献したと認められる優良事業者を年1回表彰している。昨年度からは新たに「海運モーダルシフト大賞」も新設され、モーダルシフト推進に向けた取り組みを加速する。実行委員会の浦塚敏彦座長(商船三井フェリー常務)にエコシップマーク認定制度の取り組みや、最近の海運モーダルシフトの状況について聞いた。(文中敬称略)
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