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2021年6月10日無料公開記事

【名古屋税関・名古屋通関業会特集】 輸出額1位を保持 自動車回復が寄与

 名古屋税関は愛知県、静岡県、三重県、岐阜県、長野県の5県を管轄する。管内には、1999年から22年連続で輸出額日本一を誇る「名古屋港」や、日本における国際拠点空港の一翼を担う「中部国際空港」などを抱える。2020年(1~12月)の管内の輸入額、輸出額はともに2年連続のマイナス。輸入は原粗油などの価格低下が影響。輸出は、新型コロナウイルスの影響による需要低下などで自動車や自動車部品が減少した。ただ、自動車関連は5月頃から徐々に荷動きが回復。荷動きが不調だった時期は、税関別輸出額で東京税関管内の実績を下回っていたが、年間では9年連続で日本一を維持した。中部圏の産業と物流を支える名古屋税関と名古屋通関業会の活動概況を見ていく。(山﨑もも香)
■輸出、中国好調も欧米2割減
 
 昨年の管内の輸出額は前年比14.9%減の16兆1609億円、輸入額は19.4%減の8兆253億円だった。主力の自動車は18.6%減の4兆7458億円、自動車部品は16.8%減の1兆9977億円。新型コロナの感染拡大で現地のディーラーが営業できなかったことや、景気減退で需要が減少したことなどが影響した。
 
 国・地域別では、中国やアセアンを含むアジアが輸出額7.9%減の6兆4656億円。自動車部品が15.9%減の8264億円だった。このうち中国は4.6%増の2兆9531億円。自動車が69.9%増の1837億円、重電機器が40.0%増の1084億円でともに過去最高だった。米国は17.4%減の4兆2107億円。自動車19.7%減の1兆6950億円、航空機類36.1%減の1995億円などだった。EUは18.2%減の2兆106億円。自動車14.4%減の6008億円、自動車部品20.4%減の3318億円
などだった。
 
 輸入は資源価格の低下が輸入額減少に影響した。主力の原粗油39.4%減の6822億円、液化天然ガス26.9%減の5650億円でともに2年連続減。輸入数量は原粗油11.1%減の2184万8000キロ、液化天然ガス4.6%減の1297万5000メトリックトンだった。
 
 国・地域別では、アジアが13.7%減の4兆3845億円。衣類・同附属品20.4%減の3115億円、液化天然ガス30.7%減の1378億円などだった。このうち、中国は13.8%減の1兆9043億円。織物用糸・繊維製品は39.3%増の1236億円で過去最高だった。米国は8.8%減の8513億円。液化天然ガスが2.4倍の647億円で過去最高だった。EUは23.4%減の9236億円。自動車18.6%減の4437億円、医薬品47.3%減の702億円などだった。
 
■自動車輸出、4年ぶり減
 
 昨年の管内の自動車輸出台数は19.5%減の206万4400台。数量・額ともに4年ぶりのマイナスだった。ただ輸出額で全国シェア49.5%、台数で42.7%を占めた。港別では、輸出金額・数量ともに全国で最も取り扱いが多かったのは名古屋港で、同じく管内の三河港が続く。輸出額は名古屋港が2兆5570億円、三河港が1兆9567億円。輸出台数は名古屋港111万3997台、三河港は75万3493台だった。両港の実績を合算すると全国の輸出額の47%、輸出台数の38%を占める。なお、名古屋港の自動車輸出台数は42年連続日本一だった。
 
■大阪税関から独立して誕生
 
 名古屋税関の前身は1907年11月に開設された「大阪税関名古屋支署」だ。当時の熱田港が名古屋港へと改称されるとともに開港となり、設置された。以降、目覚ましく貿易は発展し、37年10月にこれまで大阪税関の管轄だった愛知県、三重県、岐阜県の3県と横浜税関の管轄だった静岡県、長野県の2県の計5県を管轄する税関として独立した。
 
 管轄エリアにおいて、海の玄関口である名古屋港も07年の開港。名古屋市、東海市、知多市、弥富市、飛島村にわたる広大な臨港地区(陸域約4288万平方メートル)と港湾区域(水域8167万平方メートル)を有し、臨港地区の面積で日本一を誇る。今日ではコンテナ貨物、バルク貨物、完成自動車などを取り扱う総合港湾として、世界約170カ国・地域とつながっている。昨年の輸出額は前年比15.4%減の10兆4137億円、輸入額は15.1%減の4兆3159億円。港別の輸出入総額では成田国際空港、東京港に次ぐ貿易額だった。現在は、海運市況混乱によるコンテナ不足などが課題で、税関では現場・事業者の声を収集するなどして対応を進めている。
 
 一方、空の玄関口である中部空港は2005年開港。昨年は輸出額13.8%減の8049億円、輸入額26.2%減で8239億円。輸出入総額は1兆6288億円で第15位だった。現在はコロナ禍で国際旅客便は減少しているものの、国際郵便の取り扱いは増加傾向だ。中部外郵出張所では、より効率的に検査できる体制構築に取り組んでいる。また同空港には昨年から入国時の事前情報などから検査不要と判断した旅客を顔認証で通すシステム「電子申告ゲート」を導入した。東京五輪・パラリンピック開催を前に、効率的に旅客にも対応していく。
 
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【インタビュー】 名古屋税関長・羽田弘氏
ウェブ積極活用で業務維持
 
 名古屋税関は、事業者と対面で実施してきた監査業務などにおいて、積極的にウェブ会議の活用を進めている。昨年以降、愛知県では3回にわたり緊急事態宣言が発令された。その間、原則として対面形式の業務を制限しており、非対面による業務継続に取り組んでいる。また、県外への移動が難しくなるケースも増えたため、各地域に密輸などの情報を税関に提供する「税関協力員」を増員。職員が訪問せずに、全ての管轄区域の情報を把握できる体制を強化している。羽田弘名古屋税関長に取り組みを聞いた。(文中敬称略)
 
 ――管内の貿易概況は。
 
 羽田 管内は輸出が中心で、全国の輸出額の4分の1を占めている。昨年(20年1~12月)の輸出額は前年比14.9%減の16兆1589億円。全国の輸出額の23.6%を占めた。主要貨物は自動車、自動車部品だ。昨年5月まで低調な荷動きが続き、同月の輸出額は前年同月比6割減だった。ただ、それ以降は徐々に回復し、年末には前年並みに回復した。自動車関連が低調だった時期は、税関別の輸出額は東京税関が首位だったが、1年を通してみると当税関がトップだった。
 
 一方、輸入は前年比19.4%減の8兆249億円。全国の11.8%を占めた。主要貨物は原粗油、液化天然ガスだ。昨年はエネルギー単価が低下し、輸入額が減少した。そのほか輸入で目立った動きとしては、昨年2月から中国がロックダウンしたことで衣類・同附属品の取り扱いが大きく減少した。一方、巣ごもり需要で運動用具などが増加した。
 
 ――海上市況混乱の影響は。
 
 羽田 海上コンテナ不足は注視しているところだ。管内の取り扱い貨物の傾向として、輸出はコンテナ船、輸入はLNG船などを利用することが多い。輸入より輸出が多いことからコンテナが不足しており、東京や大阪などからコンテナを引き受けて利用している状況だ。ただ、現在は世界的なコンテナ不足で事業者もますます手配に難航していると聞いている。本船のスペース不足も問題で、「輸送が来月になった」などの声もあった。税関としては、現場を間近で見る立場から本省に状況を報告し、対応につなげていく。
 
 海上から航空輸送に切り替えるケースも若干増えている。ただ、中部国際空港を発着地とする航空便が多くないため、大きな混乱は見られない。従来から、発着便数が多い成田国際空港や関西国際空港を利用して輸送するケースが多かった点も影響しているだろう。
 
 ――感染防止の取り組みは。
 
 羽田 職員に対しては、マスク着用や手指の消毒など基本的な感染対策を指示している。利用者には、税関への来訪を極力減らしていただくように説明している。紙ベースでの書類提出に慣れてしまっている事業者もいるが、来訪者に対してはできる限りNACCSの汎用申請業務を利用した届け出の提出方法を案内したり、電話での相談をお願いしたりして接触機会低減を図っている。
 
 ――コロナ禍での業務継続の取り組みは。
 
 羽田 ウェブ会議の活用を進めている。感染防止のため、職員同士の会議に限らず、事業者とのやり取りにも積極的に取り入れている。従来は対面形式で実施していた監査業務などで、まずはウェブ会議で代替できないか考えるよう職員に指示している。実際に、AEO事業者に実施状況などを確認する監査業務では、事業者から事前に資料を送付していただいた上でウェブ会議による対話を実施している。緊急事態宣言下などでは、事業者への訪問自体を見送るケースもあるが、この方法であれば業務を継続できる。また、遠隔地に所在する複数の事業者の監査を1日で実施することも可能となり、業務効率も向上した。
 
 今後もウェブ会議の活用を増やす予定だ。輸入事後調査や保税業務検査などでの利用を進めている。事業者の環境によって外部との接続が難しい場合があったり、事務所のセキュリティなどは実際に訪問して確認する必要があったりと全ての業務をウェブで完結できるわけではない。また、ウェブ会議による業務フローなどのマニュアルがあるわけでもない。その中で、まずは実施してみて課題を見つけようとしている。
 
 ――遠隔地の事業者に対する取り組みは。
 
 羽田 各地の情報を提供していただける「税関協力員」を増やし、対応を強化している。税関協力員は各地区に詳しい人に依頼しており、昨年も数人を増員した。管内は例えば、名古屋市内は職員が多いものの三重県や静岡県などでは職員数が少ないなどの偏りがある。手薄なところには密輸などのリスクがある。コロナ禍で職員が訪問するのが難しいケースも増えたため、税関協力員から情報を得て取り締まり強化につなげている。密な連携が重要となるため、有事の際に限らず普段から連絡を絶やさないよう職員にも働きかけている。
 
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【インタビュー】 名古屋通関業会・加納吉康理事長
オンライン研修検討、在宅通関推進も
 
 名古屋通関業会は、会員の業務知識向上に向けた研修に力を入れている。昨年度は新型コロナウイルスの影響により、予定していた研修の一部を中止・延期したが、今年度はオンライン併用での開催も検討して会員支援につなげていく。コロナを機に、通関士のテレワーク活用促進にも取り組む。BCP(事業継続計画)の観点からも浸透させる必要があると捉え、通関士部会などを通して課題や現状を共有して発信する。名古屋通関業会の取り組みを加納吉康理事長に聞いた。(文中敬称略)
 
 ――活動概況を。
 
 加納 通関業務の向上・改善に努め、税関と連絡を保って通関業務の円滑な運営に資するとともに会員相互の親睦を図ることを活動方針としている。管轄は愛知県、静岡県、三重県、岐阜県と長野県の5県。現在(5月1日時点)の会員数は157店社。営業所数は219カ所、通関士数は988人だ。会員数は2009年をピークに162店社まで増え、それ以降は概ね160店社前後を維持している。17年10月の輸出入申告官署の自由化では、一部通関拠点を集約する動きはあったものの、さほど会員数の増減はなかった。
 
 ――力を入れている活動は。
 
 加納 税関職員に講師を依頼して実施している通関事務研修だ。新入社員や通関業務初心者を対象とした通関事務基礎研修をはじめ、輸出入商品分類研修、AEO制度研修などをさまざまな研修を実施している。昨年度は本関地区で11回、空港地区で3回、清水地区で7回、四日市地区で4回実施した。ただ、コロナ禍で予定していた研修の一部は実施できなかった。本関地区では5回、空港地区で3回、清水地区で5回、四日市地区で1回の研修を中止しており、開催日を延期したケースもあった。
 
 今年度は本関地区で17回、空港地区で5回、清水地区で10回、四日市地区で5回の研修を計画している。基本的には集合型研修で開催したいと考えている。ただ、昨年度の経験を踏まえて、状況に応じてオンラインによる研修にも取り組んでみようと検討している。また、昨年度は研修だけでなく、定時総会、通関士部会総会、通関懇談会なども中止とした。実際に顔を合わせることにより会員相互の親睦を深める機会は減ってしまったが、今年度は可能な限り、交流を図りたいと考えている。
 
 そのほか、毎年女性通関士会議も開催している。今年は「女性通関士の本音を探る」をテーマに通関士として働く現状と理想を比較し、課題を克服して現状を理想へと近づけるために何が必要かについて意見交換を行う予定であった。ただ、愛知県で緊急事態宣言が発令されたことを受け、昨年に引き続き中止となった。当会で、女性通関士支援事業に対する関心、期待の高さは非常に高いと感じている。今年2月に日本通関業連合会が実施したオンラインによる「女性通関士支援事業フォローアップ会議」には、当会からは30人が参加。全国各地区の通関業会の中でも参加人数が最も多かった。
 
 ――コロナによる通関業の変化は。
 
 加納 会員でも一部、テレワークを取り入れようという動きがある。財務省関税局が昨年3月、税関ホームページで通関士の在宅勤務開始に関する申し出(相談)について柔軟に認めると発表して以降、当会でも通関士の在宅勤務開始にかかる申請が増加した。会員の中には、在宅通関を行うために自宅のパソコンからNACCSなどをリモートで操作できるソフトを導入した会社もあった。ただ、在宅通関では業務処理がスムーズに行えないことから全体的にはあまり浸透していないのが現状だ。コロナ対応として、社内で作業を行う部屋を分けるなどして接触を抑える会社はあったが、在宅通関は環境面からまだまだハードルが高いようだ。自宅にパソコンがない場合もあるし、会社側でも書類の印刷・持ち出しについて制限を設けているケースもある。
 
 ――テレワーク・在宅通関推進の取り組みは。
 
 加納 通関士のテレワークはBCPの観点からも進めなければならないと考えている。いつ発生してもおかしくない東南海地震などの災害時にも港湾物流機能を維持する必要があり、官署自由化の活用と合わせて、コロナを機にサテライトオフィスや在宅での通関業務実施が一層浸透するように努めていく。特に、在宅通関を広めるには自宅のネットワーク環境の整備、通関書類のべーパーレス化をはじめとする情報セキュリティの確保や積極的なテレワーク実施への意識改革が必要と考えている。通関士部会などの場でそれぞれの通関士のテレワークの実態、取り組み状況を把握するようにしている。課題を発信することで、現場支援を行っている。
 
 ――近年増えている会員からの要望は。
 
 加納 最近の通関業を取り巻く環境を見ると、昨年11月の東アジア地域包括的経済連携協定(RCEP)合意に続き、今年1月には日英経済連携協定(EPA)が発効。また東京五輪・パラリンピックの開催や米国大統領の交代による貿易への影響などもあるだろう。さらに、国内の規制緩和の一層の推進やコロナの影響による社会生活の変化などで社会経済が今まで以上に多様化するとも考えている。通関業務従事者の専門性は今まで以上に強く求められていく。われわれは通関業務のプロフェッショナルとしてわが国の貿易円滑化と活性化を図るとともに適正通関を確保する。通関業務の認知度向上を高め、通関業務従事者が働きがいを感じ、誇りを持てる仕事となるよう精一杯取り組んでいかなければならない。
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