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2021年9月17日無料公開記事

【空の日特集】 持続的成長へ脱炭素化急務 次世代機開発など技術革新不可欠に

主翼が機体と一体化したデザインの「ブレンデッド・ウィング・ボディデザイン」。設計上の航続距離は2000カイリ(3704キロ)を超える

未来の空港イメージ。写真中央左に「TTBW」、手前に無人搬送車、上空にドローンも

 気候変動への対応が世界的な課題となる中で、航空業界もその責務を問われている。新型コロナウイルス禍に伴う移動制限や渡航自粛に伴って、世界の航空旅客需要は激減。航空業界からの温室効果ガス排出量は大幅に削減された。一方、新型コロナ収束後の航空業界の持続的成長、将来的な発展を見据える上で、温室効果ガス削減、脱炭素化は避けては通れない。新型機材あるいは次世代機材の開発、燃費改善、運航効率化など、多くの分野で技術革新が求められている。国際航空運送協会(IATA)を中心に航空業界の対応も加速している。
■運航効率から新動力開発まで
 
 民間航空業界においては2050年までに二酸化炭素(CO2)排出量を05年比で半減させる目標が示されている。IATA資料によると、19年における民間航空業界の二酸化炭素(CO2)排出量は約9億1500万トン。これは人為的なCO2排出量の2%余りを占めるという。IATAは航空業界による環境負荷の現状を指摘した上で「われわれの業界は、こうした事態を深く認識する必要があり、非常に深刻なものと捉えなければならない」と強調する。国境を越えてグローバル化するビジネス、世界的な人の移動を支えるために航空輸送が重要な役割を担い、不可欠な存在になっているからこそ、こうした危機感が示されている。
 
 航空業界における21年以降の目標は、19年のCO2排出量レベルを上回らないこと。持続可能航空燃料(SAF)の開発・普及、運航や施設・インフラの改善などに積極的に取り組むことが求められている。最新機材への代替は15~20%の燃費改善効果が見込まれるという。さらに技術的側面においては電気あるいは水素を動力源としたエンジンの開発・活用、次世代機の開発・投入も重要だ。
 
 IATAによると、SAFを活用した運航はこれまでに35万回以上実施されているという。SAF導入により最大80%の温室効果ガス削減効果があるとされる。通常のジェット燃料の約3倍という価格が課題となっており、技術革新とそれによる普及が急務だ。SAF普及の短期的な目標として、25年までに航空業界の燃油消費量の2%(約70億リットル)を、さらに30年までには5%をSAFで代替することが掲げられている。
 
 運航時の重量低減や効率的な運航ルート確立、地上走行の効率化も重要だ。運航ルート効率化に関しては、より高度な航空交通管理システムが求められる。米国や欧州連合(EU)、さらに日本においても次世代の航空交通管理システム構築への取り組みが積極的に行われている。空港発着時の混雑緩和、航空交通の整流化による運航時間短縮も目下の課題。管制高度化、需要動向に基づく事前予測技術の導入といった分野の研究もさらに加速しそうだ。
 
 各種施設の効率的配置など空港インフラに関する対策も欠かせない。地上走行時間の短縮に最適な旅客・貨物ターミナル配置、トーイング・トラクターなどのGSEやフォークリフトを含む空港関連車両の電動化も中長期的な課題だ。日本でも実証実験を通じて、電動化を目指す動きが本格化する。空港における太陽光パネル設置などエネルギー供給源としての機能高度化の検討も進められる。
 
■ICAOは22年に中長期目標
 
 IATAをはじめとする世界の航空・空港関係業界は、温室効果ガス削減の指針として国際民間航空機関(ICAO)のCORSIA(Carbon offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)を指針としている。ICAOは2022年の総会で中長期的な温室効果ガス削減目標を策定する方針を示している。
 
 国際航空分野の温室効果ガス排出削減に関してCORSIAは▷燃料効率を毎年2%改善▷19年以降の総排出量を増加させない―というグローバル目標を掲げる。これを実現するための施策として新技術の導入、運航方式改善、代替燃料の開発・活用を挙げており、これらの施策で補えない部分を経済的手法(オフセット)でカバーする。
 
 CORSIAは21~26年の国・地域ごとの自発的参加、27~35年の義務的参加(小規模排出国などを除く)という段階が設定されている。参加国・地域を結ぶ国際線でCORSIAが適用される。ICAOによると今夏の時点で参加国・地域は100を超えたという。27年以降の義務的参加は、世界の国際航空輸送規模(total activity)の9割の枠内に該当する上位国・地域が対象となる。この枠内に含まれない国・地域も参加が可能だ。ICAOによると、9割の枠内に該当する国・地域(17年時点)は36。日本は例年、国際航空輸送規模が10位前後となっており、義務的参加の枠内に入ることは確実だ。
 
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【エアバス】
ベルーガ運航にSAF、「水素機」も
 
 エアバスは2050年までに温室効果ガス排出量を05年比で半減し、騒音を65%削減の目標達成に向け、脱炭素化戦略を(1)経年機の入れ替え(2)持続可能な航空燃料(SAF)の利用拡大(3)100%SAF利用、水素を活用したゼロエミッション機の実用化――の3ステップで進めている。
 
 SAFは現在、燃油総量に対し最大50%までの利用のみ認められている。エアバスは、将来の完全利用に向け、パートナーと協同で実験プロジェクトを推進している。ワイドボディ機では21年3月に独航空宇宙センター(DLR)やロールスロイス、フィンランドのネステとともに、A350-900型機による完全SAF運航についての飛行調査に着手した。21年末には仏運輸省や国立航空宇宙研究所(ONERA)、航空宇宙大手サフラン、ダッソー・アビエーションといった仏民間企業とともに、ナローボディ機の飛行調査を開始する計画だ。
 
 16年からは仏トゥールーズや独ハンブルクおよび米アラバマ州モビールの最終組み立て工場から、納入先の航空会社拠点へのフェリーフライトにSAFを搭載するオプションを提供している。近く中国の天津工場からのフェリーフライトも同様の取り組みを開始する計画だ。19年末からはエアバス機構造体や部材輸送に使用する大型輸送機「ベルーガ」の運航でもSAFを使用している。
 
 エアバスは「現行機のCO2排出量は1990年から半減している。しかし、今後、業界が掲げる目標を達成するには、あらゆる関係者と協力し、SAF使用拡大、航空管制効率化とデジタル化、新しい航空機の開発などを促進しなければならない」と連携の重要性を強調する。18年9月には航空業界の企業として初めて、水素技術の促進を目的とする水素協議会(Hydrogen Council)に参加した。
 
 20年9月には、ジェット燃料の代わりに水素を利用したゼロエミッション旅客機「ZEROe」のコンセプトを発表した。35年までの実現を目指す。ターボファンデザイン(120~200席)、ターボプロップデザイン(最大100席)、ブレンデッド・ウイング・ボディデザイン(同)の3種類を展開する。
 
 ほかにも退役機の廃棄、解体、リサイクルを環境負担の小さい方法で行うなど事業継続性を高めるべく取り組んでいる。エアバス機は機体構成部品の最大90%を再利用またはリサイクルしている。日本ではエアバス・ベンチャーズを介し、炭素繊維廃材リサイクルのカーボンファイバーリサイクル(CFRI)に出資するなど世界各地に取り組みを広げている。
 
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【インタビュー】ボーイング ジャパン ウィリアム・シェーファー社長
全機種100%SAF運航を可能へ
 
 航空機製造大手、米ボーイングは今年6月に発表した同社初の持続可能性リポートの中で、2030年までに、民間航空機ではすべて、持続可能航空燃料(SAF)100%での運航に対応させる目標を掲げた。しかし現在、ジェット燃料に対するSAFの混合比率は最大50%までしか認められていない。ボーイング ジャパンのウィリアム・シェーファー社長は「業界目標の達成にはSAF利用を拡大するしかない。十分な量を確保することも含め、官民を挙げたグローバルな協調が必須だ」という考えを強調する。同社が描く脱炭素化の未来像をシェーファー社長に聞いた。(文中敬称略、聞き手・望月彰乃)
 
 ――航空機メーカーとして、航空業界の持続可能性をどう考え、取り組んでいくか。
 
 シェーファー 50年には、航空旅客は年間100億人、雇用数は1億8000万人、経済規模は約9兆ドル(981兆円。1ドル=109円換算)に達する見込みだ。この巨大産業で、50年までに二酸化炭素(CO2)排出量を05年比で半減させるという業界目標を達成し、持続可能性の高い産業となるには、多面的なグローバルアプローチとパートナーシップが必要だ。具体的には、新世代機への移行や、積極的かつ徹底的なSAF利用の取り組みが求められる。
 
 ――再生可能エネルギーは様々ある。なぜ、SAFか。
 
 シェーファー 現状、民間航空機による排出量のうち7割以上が、中長距離路線で排出されている。現時点で、これを代替する再生可能エネルギーはSAFしかない。電気、水素などの研究も進められているが、現在の技術やインフラでは、中長距離路線で使うような比較的大きい機材の動力源として運用するのは難しい。短距離路線向けの小型機でも、導入が進み始めるのは30~40年ごろになるだろう。50年までにCO2排出量を半減するには、CO2排出量のボリュームゾーンである中長距離路線の排出量を減らす必要がある。
 
 ――機材刷新で脱炭素化に大きな効果が見込める。
 
 シェーファー そうだ。当社製品の場合、新世代機種に取り換えることで、旧機材と比較して燃費、CO2排出量ともに15~25%削減できる。炭素複合材の採用による機体軽量化、先進的なエンジン開発などの技術革新で、今後さらに向上していく。新型コロナウイルス禍では多くの航空会社が古い航空機を手放し、燃費効率の高い最新鋭機の導入を進める動きが強まっており、この傾向は続くだろう。
 
 航空機の寿命は決まっていない。一般的な例を見ると、旅客新造機として市場に出回ってからおよそ20年前後でいったんの役割を終え、貨物機に転用され10~20年程度運用されることが多い。当社の機材は最終的に退役して解体する際、機体構成部品のうち重量ベースで90%以上を再利用もしくはリサイクルできる。
 
 ――SAFの活用事例を。
 
 シェーファー 08年にヴァージンアトランティック航空が747型機で、世界初のSAFを利用したフライトを運航した。11年には商業利用が可能となり、18年にはフェデックスエクスプレスが777F型機を100%SAFで運航した。日本では09年以来、日本航空および全日本空輸が当社機を活用したSAF使用フライトを運航している。同年、日航は747型機で、ジェット燃料50%と、カメリナやジャトロファ、藻類を原料とするSAF50%を混合したデモフライトを運航した。12年には、全日空が787型機を使用済み食用油を主原料とするジェットケロシンとSAFの混合燃料を使用し、シアトルから東京に向けて運航した。これはSAFによる運航便として初の太平洋横断フライトだった。
 
 SAFについては十分な量をいかに確保するかが大きな課題だ。当社では今年7月にはSAFプロバイダーであるオランダのSkyNRGおよび同社米国法人と供給契約を結び、将来の需要増に備えている。
 
 ――全く新しい機材の研究も進めている。
 
 シェーファー いくつかある。ひとつは、米航空宇宙局(NASA)と共同開発を進めている「遷音速(せんおんそく)トラス支持翼(TTBW)」だ。航行速度はマッハ0.8(時速約864キロ)で、高燃費と低騒音を同時に実現する機材となる。ほかにも電気エネルギー活用などのプロジェクトを展開している。キティホークとの共同事業であるウィスクは都市部での活用をねらう。乗客や貨物を搭載する電動垂直離着陸機(eVTOL)の2人乗りエアタクシー「Cora」は、プロジェクトが始動した17年から現在までに1500回以上の試験飛行に成功している。
 
 ――航行技術向上も環境目標達成に貢献する。
 
 シェーファー そうだ。欧州航空航法安全機構(ユーロコントロール)によると、航空管制技術の向上により、排出量を約12%削減できる。当社は高度な航行、管制技術に対応する最新機器を自社製造機に搭載しており、官民ステークホルダーと共同して、GPS(衛星測位システム)を活用した次世代航法援助システムへの対応も進めている。また、運航データを活用して燃料効率を向上し、フライトプランを最適化し、パイロットに気象情報やトラフィック情報をリアルタイムに提供するサービスを開発している。
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