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2020年10月8日無料公開記事

【通関業の日特集】 BCPで見直し、通関士在宅勤務

東京港

成田空港

 これまで通関業界のBCP(事業継続計画)では、自然災害発生時の「輸出入申告官署の自由化」(官署自由化)の活用が注目されてきた。一方、今回の新型コロナ感染症では、「通関士の在宅勤務」活用への関心が高まった。感染拡大防止に向けては、作業者の「密閉・密集・密接」を回避する必要がある。財務省関税局は一時的に通関士の在宅勤務の条件を緩和し、情報セキュリティーが確保されていれば、本来必要な社内規則や就業規則での在宅勤務に関する項目の整備を不要とした。この影響もあり、在宅勤務開始にかかる申請は急増。感染拡大以前は20人程度だった対象者は、7月末時点で約4000人に増加した。ただ、申請した通関業者の中には実際に積極的な運用はしないものの、営業所内での感染者発生による事務所閉鎖やロックダウンを想定して申請したという声もあった。自宅での就業環境の整備や労務管理なども課題のようだ。今後はこういった課題を解決し、働き方改革として利用が増えることも期待されそうだ。
 新型コロナでは、自然災害時とは異なるBCP対応が求められたことも特徴だった。同局・税関では感染症対応として利便性の良い税関官署での申告を認めた。そのほか、輸出入申告の審査の際などに提出を求めている書類などで輸出入者や通関業者らの押印が難しい場合は不要とするなど、柔軟な対応を実施している。「非接触」を推進するため、電子的な書類提出も奨励している。
 
 「通関業の日」は、2017年10月8日に関税法に基づく官署自由化と「改正通関業法」が施行されたことを記念し、施行から1年後に制定された。今日で制定から3回目を迎える。約50年ぶりとなる通関業法の改正では、通関業務料金の最高額が撤廃され料金の自由化が始まったほか、新たに通関士などの在宅勤務も認めた。
 
 官署自由化は当初、人員配置の最適化につながるとして活用が期待された。しかし、18年9月の台風21号による関西国
際空港被災や昨年9月の台風15号による成田地区の大規模停電などから、BCPとしての活用が注目された。また、通関士の在宅勤務も働き方改革での活用が期待されたものの、環境整備の課題などから活用が伸びなかった。ところが、今回の新型コロナ拡大でBCPとして、活用が必要に迫られた。自然災害、新型コロナを経て、今後は通関業界の「ニューノーマル(新常態)」な働き方も進みそうだ。
 
日本通関業連合会会長・岡藤正策氏
通関業の重要性再認識、在勤支援を拡充
 
 「通関業の日」に当たり、記念日制定に尽力された前会長および業会会員の皆さま、また輸出入申告官署の自由化という大改革ならびに通関業法の制定以来、初の大改正を成し遂げられたご当局の皆さまに改めて感謝申し上げる。われわれにとって、2017年の上記法改正は「平成の大改革」とも称すべき大事件だったわけだが、大きな混乱もなく実施されたのも規制改革という「天の時」、グローバル化という「地の利」、何にも増して官民連携という「人の和」があったからこその成果だ。現状、新型コロナによるパンデミックという未曽有の危機の中、無事「通関業の日」を迎えることができたことに感謝している。
 
 さて、通関業は荷主の依頼に基づく輸出入通関手続きの代理、代行を生業とするが、新型コロナ禍では国民生活に必要不可欠な食料品や生活必需品、さらにマスクや消毒液など衛生用品や医療物資などを迅速かつ円滑に通関し、需要者に届けることが求められた。ヒトの移動は途絶えても、モノの移動まで途絶えさせない、通関業が社会機能を維持するのに不可欠な“エッセンシャル・ビジネス”の一つだと実証された。このような厳しい状況の中、全国の通関士・通関業従業者が感染リスクを顧みず事業継続に努めたことに感謝するとともに、高く評価したい。
 
 今回、当業界も在宅勤務やリモート会議などが否応なく求められた。通関士の在宅勤務は、先の通関業法改正に合わせて導入されたが、なかなか申請が伸びなかった。ところが、新型コロナの感染拡大で、今年3月に関税局から在宅勤務に関する弾力的運用が公表されると、一気に申請が拡大。業界全体の3分の1が利用したと伺っている。利用が急増した背景にはBCP(事業継続計画)対策があるが、本来の目的である働き方改革や生産性向上の観点での取り組みに至ってないのが現状だと思う。連合会では、会員店社における在宅勤務の現状や課題を把握するためアンケート調査を実施し、必要があれば当局への改善要望やガイドラインの作成など各種支援事業を行う。
 
 【略歴】(おかふじ・せいさく)立教大卒。1974年阪急交通社(現・阪急阪神エクスプレス)入社。2010年代表取締役社長、18年から代表取締役会長。12年から航空貨物運送協会(JAFA)副会長、15年日本通関業連合会理事、18年同会副会長、19年から同会会長。兵庫県出身。69歳。

 
財務省関税局業務課長・奈良井功氏
災害・感染症で柔軟な対応実施
 
 通関業者をはじめ、関係者の皆さまには、日ごろから関税政策・税関行政に対してご支援・ご協力いただき、厚く御礼申し上げる。近年の自然災害の頻発、新型コロナウイルス感染症などが社会に大きな影響を及ぼす中、物流業が果たす役割の重要性はますます高まっていると認識している。
 
 関税局・税関としても、自然災害発生時などにも円滑な通関を維持するべく、迅速な対応に取り組んでいる。その取り組みについてご紹介させていただきたい。
 
 これまで、当局では、大規模な災害の発生時における輸出入通関手続きについて柔軟な対応を行ってきた。直近では、7月の「令和2年7月豪雨」により九州など広い範囲に被害がもたらされたところ、被害を受けた地域に指定した地域の被災者などを対象として、関税に関する法律に基づく申請、納付などの期限の延長や手数料の免除などの措置を講ずるとともに、手続きの簡素化などの弾力的な対応を行った。このほか、復旧に時間を要すると見込まれる大規模な災害が発生した場合には、同様の対応を速やかに実施している。
 
 3月からは新型コロナにかかる対策を実施している。同感染症の場合は、通常の災害の場合とは求められる対応が異なる面もある。台風や豪雨などの自然災害の場合には、停電などにより事業者らのシステムが使えなくなる状況も想定され、通常、電子的に行う手続きをそれ以外の手段で代替することなどの柔軟な対応も大事だ。一方、新型コロナへの対応の場合には、会社や税関官署に赴くことなく手続きを可能にすることが求められた。そこで、通関業者の在宅勤務などの開始を柔軟に認めるとともに、輸出入申告の審査の際や輸出入の許可後に提出を求めている書類などについて、押印が難しい場合には要しないこととした。原本の提出・掲示が難しい場合は電磁的記録での提出を認めるなどの柔軟な対応を実施しており、感染状況が収まるまでは、これらの対応を継続する予定だ。また、手続きの電子化については、今後も一層推進していきたいと考えている。
 
 今後も事業者の皆さまからのご意見・ご要望を踏まえ、災害時の対応に限らず、手続きの見直しを随時行っていく。今後ともご協力をお願い申し上げたい。
 
 【略歴】(ならい・こう)東京大卒。1995年4月大蔵省(現財務省)入省、2009年7月大臣官房総合政策課経済分析室長、10年7月関税局関税課関税企画調整室長、12年7月大臣官房会計課課長補佐、13年7月内閣法制局参事官(第三部)、18年7月関税局管理課長、20年7月から現職。48歳。
 
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函館通関業会・熊坂高会長
ウィズ・コロナ念頭に環境整備を
 
 新型コロナウイルスの世界的感染拡大で貿易投資の急減と経済への打撃、各国で医療用品の輸出制限が続発し、情報公開や通報義務の履行で各国が透明性を高める必要性が叫ばれている。通関業会も、ウィズ・コロナを念頭に「新しい生活様式」を実践する必要がある。研修・説明会は会場、主催者、参加者が感染対策を取って安心な研修会への準備を進めている。
 
 政府が外出自粛やテレワークを推進する中、今後も連合会と各通関業会で研修内容やテレワーク導入について検討し、会員の要望も取りまとめ、安心して適切で効率的な通関を行うための環境を整備したい。
 
東京通関業会・曽根好貞会長
エッセンシャルワーカーとして貢献
 
 「通関業の日」制定後、3年目を迎えた。通関業界は一昨年、昨年と台風や集中豪雨災害時などへのBCP対応策で、改正通関業法の趣旨にのっとり、税関当局のご指導を賜わりながら申告官署自由化などを利活用し、国際物流の円滑化、適正通関の確保に努めてきた。今年は、新型コロナウイルス感染防止で大きく日常の変化が求められている。当会ではテレワーク、在宅&サテライト勤務、ウェブ会議などの問題抽出、対応策などを検討している。各地区通関業会とコロナ禍に求められる「エッセンシャルワーカー」としての責任を果たすべく、国民の皆さまの一層の信頼をいただけるよう適切な通関処理に努める。
 
横浜通関業会・辻克行会長
情報提供・要望集約で会員支援
 
 「通関業の日」が制定3年目を迎えられたことをお祝い申し上げる。現在、当業会においては申告官署の自由化を受け、通関営業所の統廃合などの有効活用が進んできている。今後のさらなる発展に期待しているが、新型コロナウイルスの拡大が経済発展の大きな脅威となっている。業会としては、会員の皆さまのお役にたてるよう各種情報の提供や会員の要望集約などを行い、円滑な通関業務の運営に協力していく。
 
名古屋通関業会・加納吉康理事長
在宅勤務などの一層の浸透を
 
 当通関業会は、名古屋港を中心とし、静岡県から三重県までの海岸線に多数の通関業者が点在している。いつ発生してもおかしくない東南海地震などの災害時に港湾物流機能を維持する必要から、通関業務を停滞させないためにも、自由化申告の活用に加え、コロナ対策を機にサテライトオフィス、在宅勤務への取り組みが一層浸透するよう、それぞれの実態を把握し、課題や問題点を発信することにより、現場支援を行っているところである。
 
神戸通関業会・錦織一男理事長
コロナ対策で会員の在宅通関を推進
 
 当会ではコロナ禍におけるBCPには在宅勤務が重要な選択肢と考え、2月から「通関業者の在宅勤務ガイドライン」作成に着手、4月9日に当会ホームページに掲載した。これには「新型コロナのための暫定的な在宅勤務など」の具体的手続きも示し、神戸港の会員店社の約45%が在宅勤務を開始した。
 
 また、この在宅勤務を通じ、インフラ整備、社内体制の構築、セキュリティー対策などの課題も散見され、今後、日本通関業連合会とも連携し、着実に取り組んでいく。
 
大阪通関業会・米澤隆弘理事長
時代に対応して貿易の安全と発展へ
 
 近年の通関業務は、経済連携施策の進展や環境対策を含む輸出入規制など年々複雑化する中、新型コロナウイルス感染拡大や相次ぐ自然災害に対応するため、わが国経済および国民生活の要として、一層の円滑かつ適正さが求められている。
 
 大阪通関業会では、本年刷新したホームページを活用した会員専用サイトでの「通関営業所責任者研修」、コロナ対策を講じた各種研修の実施、さらには税関とのテレビ会議など大阪税関のご協力の下、会員とともに取り組んでいる。今後も時代の変化に対応しつつ、貿易を通じたわが国の安全と発展に貢献できるよう事業を展開していく。
 
門司通関業会・野畑昭彦会長
新型コロナで大きな意識改革必要に
 
 新型コロナウイルス感染拡大は物流の重要性を再認識する機会となった。マスクや消毒液など衛生用品の不足解消のための緊急輸入通関、ステイホーム推進による宅配。日本がパニックにならなかったのは物流が維持されたからだ。
 
 どのような事態でも物流は止めてはいけない。通関業者も、それを肝に銘じなければならない。まず従事者が感染しないために組織を挙げて万全の措置に取り組む。万一罹患した場合、その影響を極力小さくする。在宅勤務、サテライトオフィス活用、部署の分散化などは会員各社の実情により取り組んでいる。ウィズ・コロナで仕事を進めるためにリモートワークの拡充などへ環境整備を進める必要があり、経営者には大きな意識改革が求められている。
 
長崎通関業会・牧文春会長
BCP対策で地域経済守る
 
 新型コロナウイルス感染症の拡大により航路の運休や国内外の工場の休業に伴う影響があった。また、日々の円滑な業務運営を維持するため、在宅勤務を導入するなど英知を絞りながら奮闘しているところだ。
 
 先の令和2年7月豪雨では、幸い、物流への大きな影響はなかった。昨今、われわれの地域は地震や台風などの災害が多発している。国際物流の一翼を担う通関業界としては、地域経済を守るため災害などに備えたBCPについて取り組んでいく必要があると考えている。
 
沖縄通関業会・喜納政芳会長
感染者急増、会員企業で対策進む
 
 沖縄県は新型コロナウイルスの第1波では、感染数は比較的少なかった。この間、私たちは「3密」を避け、マスク着用、高齢者や重症化リスクの高い人を保護し、社会的距離を取り、手洗いを徹底した。しかし「Go Toトラベル」開始以降、感染者が急増した。通関業者は、感染予防対策で職員を2チームに分けて別々の場所に出勤している業者もある。感染症流行が長期化すると経営悪化につながると懸念している。沖縄県は日本を代表する観光地であり、近年の発展は国内観光客や特にアジア系外国人観光客の増加に負うところが大きい。一日も早い新型コロナの収束を願う。
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