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2020年10月1日無料公開記事

【インテックス10周年特集】 渡邉克也社長に聞く ハンドリング業界支える「陰の殊勲者」へ

渡邉克也社長

 成田空港でグランドハンドリング業務を展開するインテックスはきょう1日、創立10周年を迎えた。2010年夏、国際空港上屋(IACT)のランプ事業の受け皿を担うパートナーとして事業を始め、現在までに、さまざまな局面を乗り越えてきた。新型コロナウイルス発生で、航空業界は未曽有の危機にある。渡邉克也社長は「今を耐え忍び、陣容を温存して整え、機が到来すれば戦力を投入できるよう生き残り、ハンドリング業界のアンサング・ヒーロー(記録に残らない陰の殊勲者)となる」と語る。渡邉社長が過去10年を振り返り、ポストコロナに向けたビジョン、業界未来予想図を本紙に語った。(文中敬称略、聞き手・望月彰乃)
■ランプから貨物へ
 
 ――インテックスの成り立ち。社名に込めた思いは。
 
 渡邉 2010年夏、IACTからランプ事業部門設立の協力要請があり、グラテックが成田における新規事業として、新会社インテックスを設立した。社名は“International Expert”からとったもの。国際水準のグランドハンドリング品質を満たす、顧客ニーズに応える専門家集団でありたいという思いを込めた。当時描いていた一つの未来像は、航空機地上支援機材(GSE)を自社で所有し、ソフト、ハード両面でサービスを提供し、真に活躍できる、ニュートラルな事業体となることだった。
 
 ――ランプ事業から貨物へと事業を拡大していった。
 
 渡邉 IACTが受注した外国航空会社の旅客便ランプ業務から事業を広げていった。11年3月にはエア・ホンコン(AHK)、翌4月にポーラーエアカーゴ(PAC)の貨物便業務を開始し、ランプ事業は軌道に乗っていった。12年6月にはIACTが30%株主(残り70%はグラテック)となり、同社のパートナー企業の中でも中核を担うようになった。毎年、新規航空会社の受託が増え、航空貨物事業(国際上屋での輸出入貨物取り扱い、ドキュメンテーションなど)にも進出し、右肩上がりに事業が拡大していった。
 
 ――航空貨物事業も育っていった。
 
 渡邉 13年初めにルフトハンザ・グループの輸出貨物の受託、ビルドアップ業務を受託したのが最初だった。同年秋にはPACの貨物業務も開始し、ランプ、貨物を経営の二本柱とする体制が整った。ランプ事業からスタートした当社にとり、輸出貨物分野への進出はエポックメイキングな出来事だった。
 
 ――当初掲げた世界品質も認められていった。
 
 渡邉 PACからの受託拡大で、当社のグラハン魂の真骨頂が認められたのだと感じた。PACがランプ事業を委託するとき「IACTに任せれば良し」と高く評価したと聞いたときは、それを支える当社員の日常的な取り組みも賞賛されたものとして、これが企業理念の実現だと感動した。
 
■機が熟すその時まで
 
 ――現在の事業展開、陣容は。
 
 渡邉 現在はランプ事業部で145人、貨物事業部で95人の従業員を抱えている。ランプ事業の取り扱い航空会社は現在、邦人および外航8社。このうち、貨物便運航会社は3社。また、臨時便やプライベートジェットも取り扱う。貨物では、PAC、アエロロジック(BOX)、全日本空輸(旅客便のみ)を受託している。
 
 ――新型コロナによる事業、経営への影響は。
 
 渡邉 収入規模的には今年2月以降、前年比30%減程度を確保できている。新規取り扱いもあり、貨物事業単独では30%増だ。コロナ禍で、成田空港の国際線便数全体は前年水準から9割減だ。一方、収入に占める比率が大きい貨物便数はむしろ増えている。PAC、BOXなど貨物航空会社の上屋ハンドリング需要は旺盛だ。
 
 ――コロナ禍を生き残るために必要なこととは。
 
 渡邉 世界経済に与える影響は、リーマンショックの比ではない。航空グラハン業界におけるアンサング・ヒーローとして生き残るべく、何をすべきかが問われる。コロナ禍の終息時期が見えない中、空港のランプ、貨物事業を支えるパートナー会社の一員として、ひたすら今を耐え忍び、戦力である人員を温存し、機が到来すれば戦力を投入できるように生き残る。ピンチをチャンスに変えるための取り組みを推進していく。
 
 ――具体的に何を行っていくか。
 
 渡邉 通常時以上に教育体制を強化していくことが大事だと考えている。社員が業務内容を習得し、技量を向上し、各種資格を取得していくことを支援する。航空需要が一気に回復することはないだろう。直接の顧客であるIACTが受託する航空会社の需要については、全て受容できる体制を整える。現場では、情報、顧客ニーズの「先取り」、密なコミュニケーションを取る。顧客との関係を日ごろから強化し、聞き取ったニーズを経営に反映する。経営、現場レベルで密に情報共有できる体制を作り、維持する。
 
■業界一丸の時代へ
 
 ――変動の激しい航空業界において、ランプ・貨物ハンドリング事業の事業継続性を高め、安定化させるための施策とは。
 
 渡邉 安全性、品質の高さと安定した生産体制を担保し、高評価を得ることに尽きる。グラハン事業の経営において、「安全第一」は最重要事項のひとつだ。1900年代、米製鉄大手USスチールはスローガンに「安全第一、品質第二、生産第三」を掲げ、それまでの生産最優先の考え方を改めたことで、頻発していた事故を減少すると同時に、品質、生産性向上に成功した。
 
 事業は企業理念の実現あってこそ。実現に向け、経営、社員で何が大事なのかを共有し、愚直に行動する企業風土が必要だ。それが評価されれば、利益は結果としてついてくる。
 
 ――次の10年をどう描くか。
 
 渡邉 今、目前の危機をいかに乗り切るかが次の10年につながる。新型コロナを乗り越えても、グラハン業界における人員不足の構造的な問題は残る。ポストコロナの時代には、インテックスという企業単独で、というよりも、同業他社を含め航空産業のステークホルダーが一体となり、知恵を出し合い、新しい取り組みを共有して解決していく時代になっていくのではないか。
 
 ――グラハン企業が連合することのメリットとは。
 
 渡邉 より大きな変革を実現できる。たとえば、ランプ、上屋分野におけるプロセス自動化や、慢性的な空港現場の人手不足解消のシステム構築。一企業として対応できるレベルを超える取り組みに着手できる。規制緩和などへの陳情も、連名にすれば効果が高まる。
 
 コンソーシアムを組めば、グラハン各社が保有するGSEをプールし、効率的かつ経済的に運用できる仕組みを構築できる。今は、二社間契約をベースに機材貸し借りが行われている。これを空港全体でできれば、よりスケールメリットが出る。今後は、共同上屋の登場で起こったような合理化が、ランプでも進んでいくのではないか。
 
 ――人手不足に対し、グラハン業界はどのように取り組んでいくべきだろうか。
 
 渡邉 この10年、空港、航空会社、グラハン事業者、上屋事業者、フォワーダーなどで構成されるコンソーシアムを作り、安定的に人財補給を行うシステム構築について考えてきた。具体的には、グラハン専門人財育成機関の設立、運営だ。空港隣接地で、就職まで保証するシステムで即戦力を育てる。2年制で、後半は実地研修で賃金を得る仕組みにすれば、学生の意欲にもつながるはず。
 
 関係者の協力、資金などハードルは非常に高いが、実現すれば、好循環を生み出す新たなビジネスモデルになるのではないか。
 
 ――新技術採用の進む時代に思うことは。
 
 渡邉 空港、航空会社、上屋、グラハン会社が協議と創意工夫で新たなシステムを創出すべき時代が到来している。しかし、IT化が進んでも、航空機との接点部分の取り扱いはノウハウ、技量を持った技術要員の力を活用しなければならないだろう。グラハン全体のコスト削減部分は技術要員に還元すべきだ。構造的な人財不足の解消に向けて、このような人材を大事にする取り組みが一歩踏み出していくことを期待してやまない。
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