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2021年2月18日無料公開記事

【横浜税関・横浜通関業会特集】 コロナ禍業務を積極支援

横浜税関本関

 横浜税関は宮城県、福島県、栃木県、茨城県、千葉県(一部を除く)、神奈川県の6県を管轄する。「国際コンテナ戦略港湾」に指定された横浜港・川崎港をはじめ、千葉港、鹿島港や仙台塩釜空港・仙台空港などを抱える。管内の2020年(1~12月)の輸出総額、輸入総額は2年連続のマイナス。輸出は、新型コロナウイルスの影響による工場停止などで自動車が低調。輸入は原油・粗油などの価格低下が影響した。ただ、医薬品は輸出、輸入とも7割増だった。コロナ禍の働き方の変化などに対応する支援策を積極的に進める横浜税関と横浜通関業会の活動概況を報告する。(山﨑もも香)
■輸出2割減、コロナで自動車低調
 
 管内の昨年の輸出総額は前年比16.3%減の9兆2036億円。輸入総額は21.2%減の11兆3141億円だった。輸出はコロナ影響による自動車の販売不振や生産活動停止、輸入は原油価格低下などが影響した。
 
 輸出額は、リーマンショックを受けて世界経済が停滞した09年の以来の低水準。過去3番目に大きい減少幅だった。輸出額の21.2%を占める自動車は、前年比22.1%減の1兆9548億円。国内外の工場休止や需要減少などで低調だった。マイナス分は輸出額全体の減少幅の3割に影響した。石油製品と有機化合物も需要減少などで低調だった。石油製品は51.3%減の2479億円、有機化合物は28.2%減の3730億円だった。一方、医薬品は65.5%増の1612億円。輸出額に占める割合も、19年の0.9%から1.8%に伸長した。
 
 国・地域別では、アジアが11.7%減の5兆1570億円。このうち中国が5.3%減の2兆265億円。また米国が22.0%減の1兆7359億円。欧州連合(EU)が18.6%減の5720億円だった。中国は有機化合物、半導体等製造装置などが減少。米国は自動車や原動機が低調で、全体の減少額の4分の1に影響した。国・地域別の構成比はアジア56.0%で、このうち中国22.0%。その他は北米19.9%、EU6.2%などだった。
 
 輸入額は、過去5番目に大きい減少幅だった。輸入額の16.7%を占める原油・粗油は、43.5%減の1兆8843億円。国内設備の修理需要の減少や価格低下が影響した。液化天然ガスは27.9%減の1兆4425億円。需要減少や価格低下で低調だった。原油・粗油や液化天然ガスなどの鉱物性燃料の減少は、輸入総額全体の減少幅の8割に影響した。一方、医薬品は74.8%増の1012億円。輸入額に占める割合も0.4%から0.9%に伸長した。
 
 国・地域別では、アジアが8.5%減の3兆7884億円。このうち中国が7.6%減の1兆6198億円。米国が20.9%減の1兆1234億円。EUが14.7%減の9979億円だった。中国は4年ぶりのマイナス。事務用機器や衣類・付属品が減少した。米国も4年ぶりのマイナス。石炭や原油・粗油が減少した。国・地域別の構成比は、アジア33.5%で、このうち中国14.3%。その他は北米12.5%、EU8.8%などだった。
 
■街のシンボル「クイーンの塔」
 
 現在の横浜税関庁舎は3代目。「横浜三塔」(キング・クイーン・ジャック)の一つ「クイーンの塔」と呼ばれ、街のシンボルとして親しまれている。同税関の前身は「神奈川運上所」。1859年の開国と同時に、長崎や箱館(函館)の運上所とともに設置された。現在の税関業務にあたる「運上事務」や外交事務を取り扱った。設置場所は、現在の神奈川県庁所在地(横浜市中区)。今も敷地内に「運上所跡記念碑」が残る。当時は同運上所を境に、東側に外国人居留地、西側に日本人居留地が形成された。開港直前の横浜は約100戸、人口500人の規模だったが、急速に港を中心とした都市へと変貌していったという。
 
 72年11月、全国で運上所の呼称を「税関」と統一することとなり、横浜税関が誕生した。初代税関庁舎は73年12月に完成した。ただ、波止場からやや離れており、通関手続きには不便だったという。2代目の庁舎は海岸通りに面した海側の区域に建設され、85年11月に完成した。ところが、1923年9月の関東大震災で崩壊した。同震災は税関庁舎だけでなく、横浜港の港湾施設にも被害をもたらした。防波堤や岸壁、道路や鉄橋、上屋などの復旧工事が進められたが、税関庁舎の建設までに予算が回らず、税関職員は平屋建てのバラックで長らく勤務したという。
 
 現在の庁舎は34年3月に完成した。第二次世界大戦終結後の45年には、米軍が物資の補給基地として横浜港を全面的に活用するとしたことから、横浜税関庁舎も接収の対象となった。従来の税関長室は、GHQ最高司令官マッカーサーが執務室として利用したという。返還されたのは、それから8年後の53年12月だった。老朽化などに伴う改修を行いながら、歴史的建造物として創建当時の姿のままで横浜の街を見守っている。
 
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手続き省略、在勤推進で業務継続
横浜税関長・富山一成氏
 
 横浜税関は、新型コロナウイルス対策を一層強化し、感染対策と業務継続を図っている。昨年から関税局・税関が弾力的対応として実施している輸出入通関手続きの簡素化などに加え、今年1月からは独自に保税蔵置場の許可更新手続きにかかる関係書類の提出省略を認めた。利用者の感染対策と利便性向上を進めている。職員の感染防止に向けては庁舎内での「密集・密接・密閉」の「3密」の回避などに加え、在宅勤務の活用を積極的に推進している。富山一成横浜税関長に概況を聞いた。(文中敬称略)
 
 ――管内の貿易概況は。
 
 富山 主要貨物は、輸出が自動車、鉄鋼、輸入が原油・粗油、液化天然ガスだ。ここ数年の動きとして、2017~18年は輸出入額とも増加傾向だったものの、19~20年は減少傾向に転じた。特に昨年はコロナの世界的な大流行で、米国など海外主要国の経済活動が抑制された。その影響が輸出に大きく表れたと考えられる。輸出額は前年比16.3%減の9兆2036億円。リーマンショックの影響があった09年に次ぐ水準だった。一方、輸入額は21.2%減の11兆3141億円。原油価格の下落などの影響で減少したものの、16年とほぼ同程度の水準だった。
 
 ――近年の管内の動きは。
 
 富山 横浜港は各ふ頭機能の再編が進んでいる。特に南本牧ふ頭は、昨年8月に新たなコンテナターミナル「MC-4」が暫定供用開始となった。今年中に施設全体の供用を開始すると聞いている。同ふ頭は、日本で唯一、2万TEU超級の大型コンテナ船が寄港可能な大水深・高規格コンテナターミナルだ。今後、横浜市などで基幹航路などの維持拡大・集貨支援を進める予定。税関として、輸出入貨物の増加に適切に対応できるよう体制を整えていく。
 
 コロナの影響も出ている。管内の各空港(仙台、福島、茨城)は、昨年4月から国際定期便の入港はない。横浜港を中心に入港予定があった外航クルーズ船も同様だ。いずれも現段階で正式な運航再開の情報はない。ただ、運航再開にあたっては、感染対策に万全を期して円滑な旅具検査に対応していく。
 
 ――コロナ禍で注力する取り組みは。
 
 富山 利用者の感染対策や利便性向上を図るため、各種手続きで弾力的な対応を行っている。例えば、今年1月から原則として保税蔵置場の許可更新手続きに係る関係書類の提出を省略可能とした。また、昨年から、感染症対策により、本来申告をすべき官署で申告を行うことが難しい場合は、あらかじめ税関に相談のうえ輸出入者などにとって利便の良い税関官署での輸出入申告を可能とし、輸出入申告に係る提出書類の押印の省略なども実施している。
 
 庁舎内では、3密の回避、職員のマスク着用、まめな手洗い・指先消毒といった「新しい生活様式」に沿った対応を行っている。消毒薬や、窓口などに飛沫防止のビニールシートなどを設置している。職員は時差出勤やテレワークも活用している。ウェブ会議システムの利用や内部メールによる意見交換・情報交換の推進に努めるなど、職員間での接触機会を減らす取り組みを進めている。特に今年1月7日の緊急事態宣言の発表後は、通関などの窓口業務などに支障など生じないよう配慮しつつ、政府が進める在宅型テレワークを積極的に推進している。また、万が一職員がコロナに罹患したと判明した場合は、直ちに関係事業者に知らせ、ホームページなどで対外発表し、保健所などの指示に従って適切に対応している。
 
 ――国際物流にかかわる課題は。
 
 富山 増加する国際郵便に対応し、取り締まりを強化する必要がある。川崎外郵出張所は、国際郵便物の重要な物流拠点であるとともに、不正薬物の全国の摘発件数の約5割、知的財産侵害物品の全国の差止の約4割を占める密輸阻止の最前線となっている。近年は通販商品とみられる国際郵便物が増加。越境eコマースの拡大は今後も継続すると見ている。業務量が増加する中、新たなX線検査装置を導入し、効率的かつ効果的な検査を行うことで、厳格な水際取締りを実施する。
 
 ――管内のAEO取得状況は。
 
 富山 昨年12月末時点で、当関承認は100者。内訳は、AEO輸出者38者、輸入者15者、倉庫業者21者、通関業者24者、運送業者2者だ。利用促進に向けては、AEO制度の運用の透明化を推進すると共に、積極的に周知・広報、情報交換を行うなどAEO事業者とのパートナーシップを強化していく。
 
 ――東京五輪・パラリンピックへの対応は。
 
 富山 アスリートをはじめ多くの要人が集まるため、国際テロの発生が懸念される。既に対策本部を設置して万全な体制を整え、取り組みを進めている。X線検査装置や爆発物探知装置、爆発物探知犬など、様々な取り締まり・検査機器を駆使してテロ関連物資など不正な物品に対する水際での取り締まりを強化している。アスリートや要人、多くの観客を円滑に入国させつつ、テロ関連物資など不正な物品の流入を確実に阻止するため、適時空港など必要な場所へ応援職員を投入する。
 
 
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環境変化捉え、迅速に情報提供
横浜通関業会・辻克行会長
 
 横浜通関業会は、通関業界を取り巻く環境変化を捉えた迅速な情報提供で会員を支援している。新型コロナウイルス禍では、通関士の在宅勤務やテレワーク導入など新たな働き方が急速に広まった。これを受けて、会員企業に各社の導入状況や工夫など参考情報を提供した。例年実施している説明会や研修会は、感染防止のために中止している。ただ、今後はオンライン併用での開催なども検討し、会員支援の取り組みを継続していく。横浜通関業会の辻克行会長(北村回漕店代表取締役社長)に取り組みを聞いた。(文中敬称略)
 
 ――活動概況を。
 
 辻 管轄は、神奈川、千葉、茨城、栃木、福島、宮城の6県。昨年9月末日時点で会員店社は305社だ。輸出入申告官署の自由化や通関業法改正の影響で、通関営業所の集約を行う動きなどもあり、会員数は減少傾向にある。
 
 会員相互の親睦と資質の向上を図り、通関業務の円滑・適正な運営を支援している。主な活動としては、税関との意見交換や関連法規に関する調査研究を行い、各種説明会を開催している。税関の社会悪物品の取り締まりに協力し、社会的貢献を目指している。会員各社に所属する通関士の代表者で構成する「通関士部会」や「研修委員会」を中心に、実務的な内容の研修も実施している。
 
 ――活動へのコロナ影響は。
 
 辻 コロナ発生以来、行事は全て中止とした。会員へのアンケート調査などでは、当会への要望は聞かれないものの、例年実施している研修会の開催予定にかかる問い合わせが数件寄せられている。今後開催する会議・研修会・説明会も、大人数での開催は困難だろう。「密集・密接・密閉」を避けるため、感染症対策を十分に行うとともにオンラインを併用した形式の導入が必要と考えている。
 
 ――会員へのコロナ影響は。
 
 辻 取り扱う貨物によって、各社で業務量に差が出ているようだ。現段階で経営状況に大きな影響が出ているとの情報はない。ただ、長期化すれば影響が出ると思われる。
 
 コロナ禍では、在宅勤務やリモート会議導入など働き方に変化が生じている。税関当局が在宅勤務の要件を緩和したことが大きな要因となり、多数の会員店社が在宅勤務の申請を行ったようだ。一方、在宅勤務を導入したが業務効率の問題があり、十分に活用できていないという意見もあった。また、コロナ収束後に緩和された条件での在宅勤務の承認が本来の基準に戻されると、セキュリティーの確保が難しい点から継続は難しいのではないかとの意見も聞く。
 
 当会は、会員に実施したアンケート調査結果をもとに、感染拡大に伴う業務への影響、在宅勤務の利用状況、働き方改革に対する工夫および対応などについて参考情報を提供した。また、日本通関業連合会(通関連)で「在宅勤務ガイドライン」が検討されており、完成後に周知する予定だ。
 
 ――女性通関士支援の取り組みは。
 
 辻 2016年10月に「女性通関士ネットワーク」を設立した。昨年12月末時点で登録者数は66人。ワーキンググループ会議、全国女性通関士会議を支援し、情報提供を行っている。登録者を対象とした講演も開催し、女性通関士のキャリアアップとワークライフバランスの実現に貢献できるよう取り組んでいる。
 
 当会は、日頃から全会員に対して制度改正・税関手続きなどの最新情報を提供しているが、登録者には別ルートの連絡網で迅速に情報提供している。業務処理・企画立案などで社内のリーダー的存在となるよう知識の向上をサポートしている。また、登録者からは「他社の女性通関士との交流が少ない環境下、女性通関士ネットワーク懇談会を通じて継続的に情報交換が行われる関係を構築できた」との話も聞いている。
 
 ――通関士の資質向上に向けた取り組みは。
 
 辻 税関や通関連の協力・支援で「通関従業者業務研修」、「通関士実務研修」や「通関士専門研修」の充実を図っている。制度の改正や法律の改訂などについて、会員へタイムリーかつ詳細な情報提供を図るため、できるだけ多くの説明会を積極的に開催している。
 
 また、近年は日米貿易協定、日英包括的経済連携協定などの発効に伴い、原産地規則などが複雑化してきている。制度改正に伴う最新の情報を迅速に伝えるとともに、税関当局に対しては説明会の開催を今後も要請していく。
 
 ――東京五輪・パラリンピックの影響は。
 
 辻 コロナの収束状況次第であるが、予定通り開催された場合は首都圏の道路利用を制限されると予想される。貨物の配送に遅延が生じるなどの恐れがあると危惧している。
 
 横浜港は大型客船を招致するため、近年ターミナルの整備が進められているが、コロナの影響で今回どの程度客船が入港するか予測することは難しい。ただ、コロナ発生前に予想されていた、客船を港湾に停泊させて宿泊施設として活用する「ホテルシップ」が係留されるといった話も出ていないことから、輸出入貨物への影響は大きくないと思っている。
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