1. ニュース

特集【無料】

  • twitter
  • facebook
  • LINE

2021年3月8日無料公開記事

【国際物流総合展特集】 技術進展でDX導入本格化

港湾のインフラ分野でもDXの取り組みが進められている

 モノのインターネット(IoT)やビッグデータ(BD)分析などの次世代技術を活用した物流分野のデジタル化が注目されるようになって久しい。通信環境の変化に加え、自動化ロボットやセンサー技術、ソフトウエアなどのアプリケーションが続々と導入・実装され、物流のデジタルトランスフォーメーション(DX)は絵空事から、荷主や物流企業各社の課題を解決する戦略的重点事項に変わってきた。トレンド調査から物流DXの最新動向をみていくとともに、物流企業のソリューション開発の取り組みを紹介する。
■DHLトレンド調査に見る物流DX新潮流
IoT、BD、AI――、実用段階に
 
 ドイツポストDHLが昨秋に発表した、物流トレンドをまとめた調査報告「DHLロジスティクス・トレンド・レーダー」を中心に物流における先端技術の動向をみていこう。同報告は先端技術や社会的トレンドがグローバル物流市場に与える影響についてまとめたもので、今後5年以内、10年以内で本格化する29の主要トレンドを図式化して紹介している。第5版となる今回は、テクノロジーに関連するトレンドでIoTなど14技術を取り上げている。
 
 同報告書によると、(1)BD分析(2)人工知能(AI)(3)ロボティクスと自動化技術(4)IoT――の4分野については特に多額の投資が行われており、既に活用事例も増えて実用段階に突入しているという。
 
 (1)については膨大な情報を扱う物流との親和性から、各種の情報分析にとどまらず、データ駆動型の戦略・戦術の立案、業務改善などさまざまな分野での活用が進んでいる。センサー技術などの活用により物流業務で飛び交う情報をデータとして蓄積できるようになったことも大きい。今後はスマート分析などの手法を物流企業が導入していくことで、さらに情報を資産として活用できるようになるという。
 
 (2)のAIは消費者に焦点を当てたビジネスでの活用が先行していたが、物流業でも人手不足やeコマース(EC)の拡大による業務量の増加から、業務効率や生産性を向上させる技術として活用されるようになった。特に業界全体で導入の進むRPAなどの業務フロー自動化ソフトウエアに組み込まれている。より複雑で構造化されていないデータ形式とプロセスへの対応が可能となり、導入が進んでいる。またBDとの組み合わせで、庫内作業や輸配送のルート最適化、輸送量の需給予測、リスク分析、よりインテリジェントな業務自動化などの領域においてもニーズ拡大が見込まれている。
 
 (3)のロボット活用については、屋内外での搬送機器や、ピッキング業務で多く用いられている。安全性や効率、正確性の向上、またコスト削減などにつなげる技術として高度なロボティクスや自動化技術は引き続き注目されており、今後は機械学習やセンサー技術との組み合わせや、庫内作業システムとの統合による全体最適につなげる技術の到来も期待されている。
 
 (4)のIoTもモノの物理的な移動という親和性から、物流業で注目されてきた。直近では新型コロナウイルスの感染拡大に起因するリモートアクセスの需要増、5G(第5世代移動通信システム)の実用化などでさらに多くの情報が取得できるようになると期待され、企業が投資を進めている。この分野については、サプライチェーン全体の可視化を目的とした理療が進んでいる。
 
■港湾荷役でデジタルツイン活用
 
 第5版で挙げられているトレンドを第4版との比較でみていくと、「デジタルツイン」が単独の項目に変更されている。第4版では「仮想現実&デジタルツイン」としていたものから独立し、一方「仮想現実」は「拡張現実」と合わせて「拡張・仮想現実」の項目にまとめられた。
 
 デジタルツインは第4版時点において、ゴーグルやヘッドセットなどを用いてデジタルに再現された倉庫空間を活用するというのが主流で、仮想現実との共通点が多かった。しかし、IoTやBD分析、センサー技術などとの組み合わせにより、業務やオペレーションをデジタルに再現して、貨物や人員、機器の動きをシミュレーションするだけでなく、倉庫管理者や顧客にリモートでのリアルタイムの可視性を提供する機能にもその領域を広げている。特にコロナ禍での感染対策や移動制限で、可視化機能のニーズが増加しているという。
 
 デジタルツインはさらに荷役現場など複数のファクターが介在するインフラ分野においても、期待される役割が大きくなっている。港湾ではロッテルダム港やシンガポール港などの港湾当局は、次世代港湾の設計・開発、効率向上を目的にデジタルツインの活用を進めている。ロッテルダム港の事例では、IBMのIoT技術を活用して船の動き、設備、天気、地理的な情報、水位などを正確に再現。天候情報と各センサーの情報を利用し、入出港や停泊の管理を同時に監視し、安全性の向上とともに、オペレーション全般のコスト効率向上などにつなげている。
 
 ほか、第4版からの変更点での注目したいのは、「ブロックチェーン」の活用本格化が10年以内から、5年以内に変更されている点だ。同技術は改ざんの困難な分散型台帳システムを採用することで、サプライチェーンや貿易関係者の情報共有・やり取りを、セキュリティを担保した上で簡素化・透明化するものとして注目を集めてきた。第5版では「製造企業からラストマイル配送までのプレーヤーが共通のブロックチェーン基盤に参加するようになっており、数年以内には細分化されたサプライチェーンにおいてもトレンドとして、またメリットが生じる可能性がある」としている。管理プロセスや商流プロセスの自動化や透明化、また、暗号通貨の採用なども含めて物流での新たなサービスとビジネスモデルの創出も見込まれるという。
 
 
==========================
 
■チャイナ エアライン
コロナ禍でも供給落とさず
 
 チャイナ エアライン(CAL)の中部発着便は2月下旬現在、台北向けの貨物便が週2便(金・日曜日)、旅客機を貨物輸送目的で運航する「旅客機貨物便」が週5便(火~土曜日)。2020年春の新型コロナウイルス感染症拡大の影響で多くの国際線が運休となる中、コロナ禍以前の台北向け供給を維持し続けてきた。
 
 需要に応じて、旅客機貨物便での臨時、チャーター便も運航している。辻文章名古屋支店貨物所長は「19年3月に就航してから約2年、ずっと中部への供給を絶やすことはなかった。フレイターキャリアとしての役割と重要性を強く感じている」と語る。ここ一年では、大型貨物や大口出荷の引き合いが増えた。臨時便やチャーター便では、台湾のハブ経由のものだけでなく、中部から北米へ直行便の依頼が増えた。「強いニーズがある。継続して(運航を)検討している」とする。
 
 中部発航空貨物の中心は、コロナ禍以前から変わらず自動車関連で、底堅い需要がある。ここ数か月では、海上輸送からシフトする貨物も多いという。こうした「船落ち」貨物は一件あたりの物量が大きく、サイズや重量の搭載制限がある中で、都度、緻密なスペースコントロールで最大限対応している。
 
 辻所長は「中部は、成田、関西と合わせて、定期貨物便の乗り入れがある『3空港体制』の要だ」とする。同3空港間では、ロードフィーダーサービス(RFS)定期便による転送網が充実しており、中部発貨物を成田、関西発台北、シカゴ向け便に接続できる。逆に成田、関西で需給が逼迫すれば、中部発定期貨物便で供給を補完する。同便はロサンゼルス→サンフランシスコ→中部→台北で運航するもので、北米からの輸入貨物をRFSで成田、関西、福岡へとスムーズに転送するサービスも展開する。
 
 中部空港では、貨物蔵置可能スペースに拡張余地があり、突発的に他空港の物量があふれても、中部発の臨時、チャーター便で引き受けるなど柔軟な応需能力があるのも強みだ。CALは今後も引き続き地域の需要に密着し、それに応えるサービスの拡大を図る方針だ。
 
==========================
 
■日本通運
自動車強化へ、門前倉庫グローバル展開
 
 日本通運は自動車部品の調達物流のグローバル展開を推進している。国内外に配置する門前倉庫機能を生かし、海外からの輸入部品や国内調達部品を保管、荷姿変換などの加工、ミルクラン輸送やJIT配送までを一括で受託できる体制を構築。中国などで培った自動車部品物流のノウハウやシステムも活用してコストやリードタイム面での物流最適化に貢献する。新型コロナウイルスの影響で混乱している国際輸送分野では、陸海空の輸送力のみならず、迂回ルート、迂回モードの策定を行い、自動車セットメーカーや部品サプライヤーのサプライチェーンを止めない生産直結型の物流を顧客に提案・実現していく。
 
■中国で15年の実績
 
 同社は現行の中期経営計画で自動車を重点産業に位置付け、生産部品物流ネットワークの強化、電気自動車(EV)化に伴うサプライチェーンの変化への対応を進めている。ネットワーク強化の点では適正な門前倉庫機能の活用が軸だ。納入代行サービスとして海外や国内から調達した部品をマージしてセットメーカーの生産ラインへJIT納入。各自動車メーカーの納入要件に合わせて、検品・検査、荷姿変換、ラベル貼付などの自動車部品に特化した付加価値サービスに対応している
 
 海外での門前倉庫を利用した物流業務は15年ほどの実績がある。同社は2000年代初頭に中国・華南地区で海外での自動車部品の調達物流に参入。05年には中国・南沙で門前倉庫を構え、業務を開始した。当初から自社開発のシステムを利用し、セットメーカーのPO(発注情報)と調達業務を同期させて荷量を平準化し、生産計画に応じてタイムリーかつコストを最適化するかたちでの納入を実現している。
 
 経験の蓄積とともに機能拡充も進めてきた。高機能ソリューションとして、(1)輸送管理システム(TMS)やGPSによるドライバー管理システム(2)コンテナのバンニングプランサービス――なども提供している。(1)は社内の業務効率化を目的に開発してきたものだが、物流可視化のニーズ拡大から顧客にも提供、日々の物流管理やコスト効率化をサポートしている。(2)は重心位置などを計算して荷崩れの防止や積載効率の向上を実現するもの。産業構造の変化による中国発の部品輸出の拡大に対応しており、部品サプライヤーや輸出商社などへの自動車部品の調達物流に特化したソリューションとしても提供している。
 
 中国で培った経験は、専門性の高度化や人材育成にもつながっている。自動車関連の物流に関するノウハウを蓄積してソリューション開発を加速、それらを他の地域へ横展開している。同社ではそうした専門知識を持った人材を海外に配置しており、世界各地で経験を得た人材が日本に戻りノウハウを展開、教育を受けた人材がまた海外に出ていくという循環を図ることで、グループの機能を高めている。
 
 今後はさらに門前倉庫機能の展開を加速していく方針。代表的な門前倉庫としては、上記の南沙やこの2月に営業開始した米国・ハンツビルの施設のほか、メキシコ・アパセオ、チェコ・ピルセンなどに施設を構えている。既存施設のさらなる活用とともに、新規拠点の開設も検討していくという。
 
■コロナ禍SC混乱に代替輸送提案
 
 門前倉庫を活用したオペレーションとともに、自動車物流関連で注力しているのが、国際輸送でのBCP対応だ。現在、コロナウイルスの世界的感染により、海上コンテナの不足や港湾混雑、航空貨物運賃の高騰が深刻化し、計画的な部品調達が必要な自動車産業において大きな課題となっている。
 
 BCPとして鉄道による国際輸送や高速フェリー、クロスボーダートラックによる中間輸送商品を運用・提案している。アジア・欧州間では、中欧班列、シベリア鉄道を利用した各種サービスを提供。欧州・中国間の海上輸送は通常2カ月を要し、さらに現在はコロナ禍での遅延リスクが生じている。鉄道の利用で1カ月弱のリードタイム短縮が可能になるという。日本・東アジア間の輸送では高速フェリーの活用を進める。定時性が高く、日本と中国や韓国を1~2日で結ぶフェリーを利用することで、航空輸送の代替輸送につなげる。
 
 東南アジアではクロスボーダートラックを活用。昨年末頃にはタイで深刻な海上輸送の混乱が発生していたが、クロスボーダートラック輸送によりシンガポールやマレーシアに転送するという迂回ルートを構築し、顧客へのソリューション提案を行っている。
 
==========================
 
■愛知陸運
大型温調車など車両増強、社内教育を重視
 
 愛知陸運エアカーゴ支店(河里成規支店長)の拠点体制は成田営業所、成田空港事務所、羽田空港出張所、セントレア営業所、関空営業所、関空事務所、福岡事務所という構成だ。航空会社の空港間のOLT、フォワーダーの空港内拠点と周辺拠点間の貨物輸送などを主な事業としている。
 
 2019年末から20年前半は新型コロナウイルス禍の影響で荷動きが鈍化したものの、20年後半は「旅客機貨物便」が数多く運航されるなどの事業環境のもと、航空輸送に関連する貨物量が増加に転じたという。河里支店長は「愛知県を中心とする自動車関連貨物の荷動きが堅調だ」と説明する。航空会社の運航ネットワークの関係から成田空港を発着する横持ち輸送の需要が目立っているという。受託航空会社も増加しているほか、フォワーダーが関わる事業も伸びている。
 
 安全や労務環境のさらなる向上が重要なテーマだ。労務管理の確実な履行、働きやすい就業環境を重視している。さらに2トン車や4トン車、大型車に至るまで、ブルートゥースやGPSなど車載機の設置・充実を通じて、安全かつ安定的サービスの提供に務めている。法規制も厳格化している中で、社員教育を何より重視。社内資格制度を生かして安全性のさらなる向上、コンプライアンスを徹底している。新卒採用にも積極的に取り組むなど、人材確保・育成にも特に力を入れている。河里支店長は「安全かつ効率的・安定的なサービスの提供に取り組むことに重点を置くことの重要性はますます高まっている」と話す。
 
 現在のエアカーゴ支店の車両台数は2トン車や4トン車、大型車など計123台。各車種いずれも増車を計画している。大型温調車の導入も計画しており、21年度(21年4月から22年3月)中にも投入する方針だ。河里支店長は「既存のお客さまの貨物量も増加しており、需要にしっかりと応えられる体制を引き続き強化する。取り扱う貨物の内容も多様化する中で、新たな需要にも柔軟に対応していく」と語る
 
==========================
 
■商船三井ロジスティクス
ESG・SDGs貢献へ物流ソリューション開発
 
 商船三井ロジスティクス(MLG)は多様な物流ニーズに応える輸送商品やソリューションの開発や新たなビジネスモデルの創出などの差別化を通じ、NVOCC事業の拡大を図る。顧客や物流業界全体の「ESG(環境・社会・ガバナンス)」「SDGs(持続可能な開発目標)」の貢献に向け、新技術やテクノロジーを活用していく。
 
 昨年4月に販売開始したスチールコイルのコンテナ輸送商品MOL COILPORTERは1つの事例となっている。特殊資材を利用した簡易に組み立て可能なコンテナ内へのコイル固縛キットで、反復利用による環境負荷軽減、熟練工の高齢化や不足などの業界全体での課題に対応できるものだ。販売開始からさらに機能強化を進め、線材コイル、小型軽量コイルの多数積みなどへの対応の取り組みも行っており、利用拡大を目指している。
 
 また直近ではLNGタンクコンテナを利用したLNGの小口輸送という新たなビジネスモデルの創出に取り組んでいる。今年に入り、タンクコンテナによるLNGの調達拡大を進める中国の海運事業会社ジャスダエナジーテクノロジー社(以下、ジャスダ)と戦略的提携を結んだ。同社との提携を契機に、LNGタンクコンテナの利用促進、顧客開拓をねらう。
 
 現在、環境対策として中国を中心に、石油・石炭からクリーンエネルギーであるLNGへの燃料転換が進んでおり、パイプラインが整備されていない内陸部などへLNGを供給できるLNGタンクコンテナでの輸送需要が高まっている。ジャスダに対しても親会社の商船三井とともに、情報提供やマーケティングのサポートを行うなど、ジャスダが開始したタンクコンテナ輸送に積極的に協力して関係の深化・発展を図り、新たなビジネスモデルへの参画を目指していくという。
 
 MLGの浅井亮吉営業開発部長は「LNGタンクコンテナを利用した小口輸送が増えていけば、ドア・ツー・ドアでの一貫物流というビジネスモデルが生まれ、当社のような総合物流事業者の役割も広がっていくはずだ。海上輸送だけでなく、ドレージ、船積み、コンテナ洗浄、機器管理など全体のバリューチェーンに貢献できる体制構築を図っていく」と話す。
  • 会社要覧24年度版 発売