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2021年11月22日無料公開記事

羽田空港物流特集2021

国際線旅客便の回復期に備える(写真はULD保管施設)

東京五輪開催に羽田の国際物流機能が貢献した

 「正念場」――。日本の国際空港の中で、新型コロナウイルス禍の影響を特に強く受けているのが羽田空港の国際物流だ。貨物機の定期便が運航されていない羽田にとり重要な国際線旅客便の復便は当初想定より遅れているとの声が多い。貨物量自体は増加傾向にあるものの、過去最高水準で推移している成田空港との転送貨物が実績を押し上げている側面もある。羽田のオペレーション体制をいかに維持しながらサービスを提供していくのか。物流事業者は先行きが見えにくい中でもエッセンシャルワーカーとしての役割を果たすために奮闘を続けている。
■東京国際エアカーゴターミナル
事業環境の変化へ対応継続
 
 羽田空港の国際線貨物地区で貨物ターミナルを運営する東京国際エアカーゴターミナル(TIACT)は、新型コロナウイルス禍での環境変化に対応してきた。
 
 2020年夏季スケジュールで羽田が昼間時間帯の国際線発着枠を1日50便・100回、年間3.9万回拡大することでの国際貨物取扱量の大幅な増加も見据え、体制を強化していたが、変更を余儀なくされた。目玉の第3国際貨物ビルは20年1月に竣工した(図参照)。施設面積は1万800平方メートル。足元では、当初計画に基づき、第1国際貨物ビルで受託していた外国航空会社の出発便および第2国際貨物ビルで取り扱われていた全日本空輸と同社受託外航到着便の輸入一般貨物の保管・取り扱いを行っている。ただ、コロナ禍での国際線旅客便の大幅な減便・運休もあり、同ビルでの国際貨物取扱量自体は当初想定を下回る。出発便の受け付けカウンター業務は20年4月から第1国際貨物ビルに集約した。
 
 オペレーション面での主な変更点では、同ビルでフォワーダーの手倉業務を担うフォワーディングサポートセンター(FSC)の営業時間を短縮した。協力会社との体制面はコロナ禍の1年目に大幅に調整した。
 
 21年4〜9月の国際貨物総取扱量(郵便除く)は前年同期比85.3%増(19年同期比9.9%減)の13万2972トン。貨物取扱量が過去最高水準の成田空港の転送貨物増加などもあり、21年度(21年4月〜22年3月)の当初事業計画の想定を上回る状況だ。成田のキャパシティは21年3〜4月にかけ、海上市況混乱による“船落ち”貨物と北米向けの自動車関連などの緊急空輸があり、限界に近づき、代替として羽田でも旅客機貨物便が多く運航された。この流れは続いており、TIACTの今年9月実績のうち、成田を中心とした他空港転送の割合は、積み込み量では86.0%(前年同月は86.6%、19年同月は72.7%)、取り降ろし量では61.5%(同58.6%、同47.5%)と高水準にある。
 
 21年度の事業計画の策定時には、秋前頃から段階的に国際線旅客便の回復が進むと見ていたが、足元では大きな復便は見込まれていない。足立浩一代表取締役社長は、堅調な貨物需要への対応と復便に備えた協力会社との体制維持が必要でもあり、「復便の時期と22年以降の事業への影響について、精査を始める」とする。また、「コロナ禍のこの1年半で一番心配なことは、若い社員が現場で十分な経験を積めていないこと。復便が進めば、貨物量が急増する可能性もあり、不安という声もある。教育・トレーニングのための出社を認めるなど、対策も進めていく」とした。
 
【TOPICS】
五輪馬チャーターで羽田活用
 
 東京五輪の馬術向けの馬輸送がベルギー・リエージュ空港と羽田空港間で行われた。エミレーツ航空(UAE)がB777F型機のチャーター便を往路、復路それぞれ8便、合計16便を運航。初便はリエージュからドバイ経由で7月15日に羽田に到着し、9月2日には最終便を羽田からリエージュへ運航した。輸送頭数は羽田向けが316頭、リエージュ向けが323頭。各フライトには9人から11人の飼育員が同乗し、合計157人が馬を世話した。輸送した馬のストール(個室)は合計336個、用具は合計160トン。
 
 UAEはチャーター便について、馬輸送のドイツの専門会社、ペデン・ブラッドストックおよび国際馬術連盟と1年半をかけて調整し、実行した。チャーターフライト企画チームが利用可能な航空機、運航乗務員、ロードマスター、テクニカルグランドサポートチームの確保などを行った。UAEとして羽田での馬の輸送は初。五輪開催に羽田の国際物流機能が貢献した。
 
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国際貨物量、コロナ前の7割戻す
今後は旅客復便で物量増も
 
 グラフは好況期だった2017年から約5年間の国際航空貨物量(東京税関発表から本紙作成)の月別推移。羽田は2010年の再国際化以降、総取扱量がほぼ右肩上がりで伸び続け、ピークの18年には年間60万トン、月間平均で5万トンを取り扱った。昨年は、3月末からの国際線発着枠の拡大で国際貨物量のさらなる増加が見込まれていたが、ちょうど3月以降にコロナが直撃。国際旅客便の大半が運休し、総取扱量は1万2000トン台まで落ち込んだ。
 
 その後は旅客機による貨物専用便の増加などで徐々に物量を戻し、昨年12月には総取扱量がピーク時の6割に当たる3万トンを回復。この時期から世界的に海上輸送でコンテナ不足が深刻化し、航空貨物需要が急拡大した。成田空港を中心に日本発着の航空貨物需要が大きく増え、今年3、4月には成田で取り扱いきれない貨物が一部、羽田にも流れ込んできた。4月の取扱量は例年なら繁忙期に当たる3月を上回って3.9万トンを記録。その後は若干、物量を減らして推移している。
 
 東京国際空港ターミナル(TIAT)によれば、今年8月の羽田の航空機発着回数は2318回と前年同月からは6割増えたが、コロナ前の19年同月比ではいまだ7割減の水準。国際線は依然、新型コロナの影響を大きく受けて、航空機がほとんど戻っていない。世界的なワクチンの普及や日本国内の感染減を受け、今後はビジネス需要を中心に羽田の国際線発着回数も徐々に回復に向かうと見られる。昨年の国際線発着枠の拡大で特に欧米線が増加した羽田では、アジアー北米間などの経由貨物の需要拡大が見込まれていた。来年は国際線の復便により、コロナ前並みの物量を回復することが期待される。
 
 昨年、新型コロナウイルスの感染拡大による旅客便の運休・減便で国際貨物量の激減に見舞われた羽田空港だが、直近では徐々に物量を戻し始めている。航空貨物需要が急拡大した今年3、4月には、一時は1万トン台に落ち込んだ総取扱量が約4万トンまで戻り、直近の8、9月はコロナ前の2019年同月比で3割減の約3.3万トンを取り扱っている。依然、コロナ前の物量を取り戻すには至っていないものの、今年は年初から安定して3万トン台を維持した。
 
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■エアーポートカーゴサービス
陣容維持、復便に備える
 
 エアーポートカーゴサービス(ACS)の東京事業部羽田営業部は東京国際エアカーゴターミナル(TIACT)が運営する第1国際貨物ビルに事務所を構える。TIACTからの受託業務は、同ビル1階のフォワーディング・サポートセンター(FSC)でのフォワーダー向け手倉および保税業務。フォワーダー各社からは、内容点検や動植物検疫の代行業務、また、国際線地区内での書類引き渡し業務も受託している。一方、グループ会社のACS羽田(ACH)は、TIACTから貨物ハンドリング業務を受託し、エアライン業務を展開している。
 
 2020年3月末の国際線発着枠拡大に備え陣容を整えてきた。新型コロナウイルス禍での大幅な減便・運休に直面する中でもACSは羽田の陣容を崩さなかった。
 
 コロナ禍での取り組みについて、礒部一郎執行役員東京事業部長は「コロナ禍収束後には必ず、元々予定されていた規模に空港容量とネットワークが拡大される。その時に備え、人員縮小などは極力避け、この2年は人員スキルの底上げを図ってきた。引き続き、要員の再構築を進めていく」とする。
 
 羽田の大幅な復便に備え、現場研修に加え、フォークリフトや地上支援車両(GSE)運転者に対し、改めて社内認定更新の試験機会を設けるなど、取り組んでいる。また、ACHも含めた全グループ社員を対象とする「ライジング研修会」を徹底して行うことに重点を置く。ACSは08年に品質マネジメントシステムの国際規格「ISO9001」の認証を取得し、同認証を満たす品質方針を徹底してきた。今年10月にはACHも同認証対象の職場に認定されており、「グループ全体で同じ価値を共有し、同じ方向を向くよう進めている」とする。
 
 今後については、「必要な新しい飛行経路もすでに運用されている。羽田は、人だけでなく、物流でも日本の玄関口としての存在感を高めていく。その時に国際航空物流を支えるスペシャリストとして縁の下の力持ち的存在、アンサング・ヒーローであるべく、万全な体制を整えていく」と力を込める。
 
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■日本通運
CFS規模倍増で輸入強化
 
 日本通運は羽田空港の国際線貨物地区の第2国際貨物ビルに構える自社CFSをリニューアルし、同空港発着貨物の取り扱い拡大に取り組んでいる。将来的に拡充が見込まれるネットワークの活用や、サービス強化と競合他社との差別化を目的に増床し、倉庫面積を従来の1678平方メートルから3330平方メートルとした。庇下を含む有効荷捌きスペースは2400平方メートルから4631平方メートルに拡大し、ゲートウエイ機能を強化。今年10月から本格的にサービスを開始した。まずは都心部や東京以西へのネットワーク、鉄道や道路網とのアクセスといった立地面での優位性や、空港内・近隣の他の自社拠点の機能を生かし、輸入貨物を中心に取り扱いを拡大していく。
 
 同社は2010年の同空港再国際化から現在までフォワーダーとして唯一、羽田の国際線貨物地区に自社CFSを構え、同空港の活用を進めてきた。羽田を改めてゲートウエイとして積極的に活用し、首都圏での航空貨物オペレーションの効率を高めるとともに、顧客に新たなメリットを提示していく。
 
 メリットとしては(1)首都圏の輸入貨物に対する競争力のある料金設定とスピード、(2)クロスドック機能による国内・国際接続サービス―がある。(1)では、迅速かつ効率的な集配スキームの構築を目指し、昨年10月に従来原木の拠点にあった集配業務の管理機能の一部を羽田に移管した。23区東側を除く東京、神奈川での航空貨物の集配を羽田で行う体制として、車両やドライバーも配備。24時間体制で営業しており、集配業務と一体運用し、柔軟な輸配送対応を実現している。
 
 処理能力増強と機能の統合により、東京以西などの顧客に対し、迅速でムダのない、競争力のある料金での輸送サービスを提供する。首都圏の航空貨物オペレーションは業界全体として成田が中心であり、実際には羽田到着貨物も一旦成田に転送しているケースが多い。羽田での集配機能を強化したことで、成田への横持ちを避けて効率的に直接最終目的地へ配送するなど、効率的なオペレーションが可能となった。
 
■周辺拠点生かし内際接続
 
 (2)では国内航空貨物の機能を生かす。同社は羽田で、国内貨物地区に羽田空港貨物センター、近隣の京浜島に羽田京浜島航空貨物センターを構え、国内航空輸送業務を手掛けている。国内貨物の両拠点と連携し、荷主へ内際接続の高速サービスを提案していく。夜間に到着した貨物を、早朝の国内航空便や国内輸送のネットワークで全国へ配送するといったスキームを想定している。
 
 この点では特に、日本に物流担当者を置かない非日系顧客の案件などで既に実績が出ている。日通がコントロールタワーとして日本到着から国内各地への配送までを一括して請け負い、羽田の国際・国内の機能をフル活用して、迅速な集配スキームを構築。半導体関連や医療機器など顧客の案件で、リードタイム短縮を実現したケースが見られているという。他の品目も含め案件拡大を進めていく考えだ。
 
 同社の橋本勇治国際航空貨物統括部オペレーションセンター・羽田センター長は「スペース拡張により、流通加工などの付帯業務への対応も向上する。競合他社でも羽田近隣に拠点を持つ会社はあるが、国際貨物地区にあるのは当社が唯一だ。水際に様々な機能を有するタッチポイントを設けることで、より多様性のあるサービス展開を可能にしていく」と話す。複数仕出地や成田など他空港到着の貨物をマージして、羽田や首都圏での国内輸送のネットワークに載せるなどのサービスも強化していくという。
 
 羽田発着国際線旅客便の回復にはまだ時間を要すると見込まれるが、積極的に羽田のフライトを利用することで、羽田の貨物拡大を図っていく。同社国際航空貨物統括部開発第4課の本田慎太郎課長は「海外現地法人に羽田のメリットや優位性を周知して、日本からのプル型の営業で取り扱いを伸ばしていく」と話す。また、直近では成田への貨物集中から、同社の成田拠点もスペースがひっ迫しており、一時保管などのバッファ機能としても活用していくとしている。
 
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■平野ロジスティクス
トレーラー有効活用し物流効率化
 
 平野ロジスティクスは、オリジナル・トレーラーを有効活用して品質向上、物流効率化に取り組んでいる。現在のトレーラーの体制は▷大型トラックよりも96インチ仕様のULDを2台多く搭載できる「+2」▷同1台多く搭載できる「+1」▷「+1」に改良を加えて背高貨物などへの対応に柔軟性を持たせた「+1α」▷大型トラックよりもLD3換算で7台多くコンテナを搭載できるとともに複数のパレタイズ貨物を搭載できる「+7」▷「+7」に改良を加えてコンテナを8台多く搭載できる「+8」▷「+7」に空調機能を持たせた「+7COOL」がある。航空機エンジンなどの大型貨物を搭載できる平ボディ・トレーラーも配備している。高度な空調機能を備えた「+1COOL」も近く導入する。
 
 コロナ禍の収束、航空旅客便の本格的な運航再開を見据えて、成田−羽田間の保税転送(OLT)サービスの体制を強化している。現在、成田空港の南部貨物地区にトレーラー(荷台部分)の専用置場を確保している。同様の機能を羽田空港にも整備する方針だ。これらスペースに配備したトレーラーに順次、貨物を搭載。貨物搭載が完了したトレーラーをトラクター(ヘッド部分)が適宜、けん引して輸送する。空港現場には専任のオペレーターを配置。上屋の状況を把握しながら、貨物の積み降ろし、貨物の保管・管理状況などを常時、確認する。こうした体制を確保することで、貨物搭降載の時間に縛られることなくトレーラーの輸送が可能となり、待ち時間解消、運行効率向上につなげられる。
 
 成田空港では南部貨物地区にコンテナ・スペースを確保済み。益子研一取締役営業本部長は「関係企業・機関のみなさまのご理解、ご協力のもと、専用スペースを確保でき、大変感謝している。これまで以上に効率的な物流の構築に貢献していく」と話す。
 
 羽田空港の国際旅客便の本格回復のタイミングを見定めながら、羽田空港にも同様の機能を確保する方針だ。成田、羽田双方でトレーラー(荷台部分)への貨物の搭降載を可能とする体制を整備する。深夜早朝など空港内上屋が閉じている時間帯も、トレーラー置場を活用することで貨物搭降載が可能だ。トラクター(ヘッド部分)は貨物搭降載の時間の制約を受けずに稼働できる。両空港におけるトラックの待機時間解消、空港間輸送効率化を追求することで、成田空港および羽田空港を活用する国際航空物流の発展に貢献する。環境負荷低減への効果も期待される。
 
 益子取締役は「現在はコロナ禍の影響で羽田発着の国際線が減少している状況にあるが、コロナ禍が収束に向かい、旅客需要が回復すれば、羽田空港の国際旅客便が増加することは間違いない。成田−羽田間のOLT需要も高まる」と説明。「そのタイミングが来た時に即座に充実したサービスを提供できるように体制を整備、強化している」と語る。
 
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【TOPICS】羽田空港
国内航空貨物の拠点空港
 
 羽田空港は国内航空貨物の拠点空港として重要な位置付けを担っている。7〜8割の国内航空貨物が羽田空港を拠点に日本各地に輸送されている。
 
 本紙が集計した2021年度上期(4〜9月)の国内航空貨物輸送量は前年同期比10.2%増の23万2831トンだった。コロナ禍の影響で20年4〜6月は国内航空貨物取扱量が大幅に減少。21年度上期はその反動の要素もある。まだコロナ禍前の水準は回復していない状況だ。
 
 出荷企業によって違いはあるものの、国内航空貨物の荷動きを下支えしているのは宅配貨物だ。宅配貨物全体の需要は拡大傾向にあり、貨物特性に応じて航空輸送されている。コロナ禍の影響で旅客便ネットワークが制約される中、航空会社は羽田空港を中心とした幹線で旅客機貨物便も運航してネットワーク・供給を確保している。足元では国内線の旅客需要が回復傾向にあるとの見方も強く、年末の繁忙期に向けて貨物需要の盛り込上がりにも期待が寄せられている。
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